第9話 初配信でお叱りを受けた。リスナーは厳しい

学校が終わりダンジョン前にきた。

由良さんは相変わらずブツブツ呟いてる。


「どうしてメッセージくれなかったんだろう……待ってたのに……」


ブツブツブツブツ。

幽霊のように歩いてくる由良さん。

朝からずっとこんな様子だ。


で、俺は察した。

多分この人メンヘラなんだって。


「由良さん?」


そんな由良さんに話しかけた。


すると。

パッ!

光を取り戻す由良さん。


「どうしたの?イッくん。なんでも聞いて!」

「なに、そのイッくんって」

「イツキだからイッくん」


普通に西条でいいだろうが。

なんで下の名前で呼んでんだこの人は。


前から思ってたけどこの人他人との距離感バグってるよなぁ。


そんなことを思いながら俺はダンジョンを指さした。


「着いたからさ。そろそろ準備してもらうかと思ってさ」


そう言うと配信の準備を始める由良さん。

配信するとなるとスイッチが入るんだな。


「ナイト?」

「どうしたの?」

「ここ間違えてない?Sランクダンジョンなんだけど」

「別に間違えてないけど」


俺はそう言いながら入口の方に進んでいく。


「ちょ、ちょっと待ってよナイト」


俺の腕を掴んで止めてくるユラッチ。


「だからなに?」

「どこまで進むつもりなの?初配信なんだよ?慣れてないんだしお試しで短めの方がいいよ?」

「予定では(完全攻略まで)3時間程で終わるけど。短くない?」


その辺は考えている。

Sランクダンジョンの中でもまだ難易度の低い場所を選んでいる。


「あ、そうなんだね。3時間くらいならいいかも」


なんか会話が噛み合ってないような気もするけど。

まぁいっか。

納得するユラッチを連れて俺は突入しようとしたがその前に、装備を身につける。


これで準備OK、だな。


よし、じゃあ。


「配信スタート」


俺は配信ボタンを押した。


ユラッチの場合熱心なファンがいるようで直ぐにコメントが着いていたが俺の場合はそうではないだろうし気長に視聴者が増えるのを待つことにする。


この前のコメント欄を見るに多くを語らない、という部分がいいように見えたし極力喋らずに進める。


「今日もナイトとダンジョンに行くよー」


その一方ユラッチこと由良さんも配信を始めていた。

俺の配信の視聴者数は少ないがユラッチの方はもう既に10万人見ていた。


これがチャンネル登録者数100万人で今もその数を爆発的に増やしている超大手か、と思い知らされた。


んで、俺の方は視聴者数500人くらい、か。


"ユラッチの配信から来ました"


どうやらユラッチの配信からも来てくれているらしい。

多くはユラッチとのダブル視聴らしいけど。


隣に100万人の配信者がいてこれか。

別に多くの人に見られたいわけじゃないけどさ。


これが俺単体の配信になるともっと視聴者数少なくなるんだろうな。


広告とかって大丈夫なんだろうか?

少し不安になってきた。


「デハ、イクゾ」


俺はやはりデスボを出してダンジョンに入っていくことにした。


んでしばらく進むと10匹くらいのゴブリンが飛び出してきた。


「きゃー怖いー☆」


それを見て俺の後ろに隠れるユラッチ。


この人が戦わないのはわかっていた事だし。

剣に手を当てると


コウタ:剣で戦うのか?複数戦相手のセオリーもしらないのか(呆れ)素人か?こいつ?


目につくコメントがあった。

名前はコウタというらしい。


そのコウタと他のリスナーが言い合いを始めた。



"出たよ名人様。こんな無名配信にまでいるんだな。初回配信から名人が来るなんてナイトは持ってるなぁ"


コウタ:実際素人でしょ?俺の方が強い


"ナイトがSランクだって話聞いてないのか?"


コウタ:俺もSランクだが?複数戦の場合魔法が一般的だぞ。だからこいつは素人


"嘘つけよ。証拠見せろよ"


コウタ:やだよめんどくせぇ


"スルーしとけ。ユラッチとコラボしてて嫉妬してるだけだろ"


コウタ:嫉妬じゃないが。最近のSランクのレベルの低さを嘆いてるだけだが。

俺がSランクになった時は試験とかもっとキツかったからなぁ。今の新参Sランクじゃあの時のテスト内容とか知らないんだろうなぁ



チャットは盛り上がりを見せている?ようだけど俺も口を挟んでおく。


「マホウハニガテデナ(魔法は苦手でな)」


コウタ:どうせSランクってのも嘘だろ。魔法が使えずにSランクは無理


厳密には使えないわけじゃないけど。

そう思いながら。


俺は剣術スキル【五月雨斬り】を発動。


「サミダレギリ」


チン。

終わるとゆっくりと剣を鞘に収めた。


コメント欄の流れが早くなる。

文字だけ見ると動きが早くてうまく見えなかったのだろうか?


"お?こいつ剣抜いてねぇぞ?"

"なんだなんだ?"

コウタ:ほら。こいつ弱いからなんもできてないじゃん


と、コウタがそうコメントした時だった。


ゴブリンが全員その場に倒れた。


チャット欄が黙る。


"……"

"…………"

"…………"


「ドウシタンダ?」


あまりにも反応がないので聞いてみたら。


"え、えっと今の何が起きたの?なんか気付いたらゴブリンが倒れてた"

"何も見えなかったわ。コウタ先生解説よろw"


そのチャットを見てコウタなら俺が何をしたか分かるだろうと思い解説を待つことにする。

すると


コウタ:今のは剣士なら誰でも使える【峰打ち】の応用さ。むしろ君たち分からなかったの?俺は目を離してたから見てなかったけど峰打ちなら一般人には見えないくらいの速度で攻撃できる


"峰打ちかぁ"


コウタ:こんな低レベルな奴らにSランクを疑われたんだなぁ俺は(ため息)



これ、間違ってると指摘した方がいいんだろうか?


サミタレギリは峰打ちとはなんの関係もない。

自分の素早さを極限まで引き上げて繰り出す技だ。



"いやー、申し訳なかったわコウタさん。自分の勉強不足でした"


コウタ:いいよいいよ。一般人ならたしかに分からなかったかもしれないし


"コウタさんはすごいな。ユラッチもコウタさんに声掛けしたらいいのに"


コウタ:そうだね。こんな甲冑男より俺の方が強いからユラッチも声かけてくれたらよかったのになぁ。対複数のセオリーも知らないなんて冒険者失格だよ。ギルドも考えてSランク認定して欲しいよなぁ。面汚しだよSランクの。最近は緩和されてニワカSランクが増えてほんとに困るよ。Sランクは俺たちみたいな一部の【上澄み】だけでいいのに



いやぁ、すごいなぁ。コウタさんは。

ここまで言えるなんてよっぽど強い冒険者なんじゃないかな。


俺はとてもじゃないがここまでは言えないなぁ。


初めこそうさんくさいと思っていたけどこの人すごい人なのかもしれないな。


こんなに凄そうな冒険者なんだからコウタさんも多分勘違いしただけだよな?

余計なお世話かもしれないけど、訂正しておこう。


コウタさんには今よりもすごい冒険者になって欲しいしな。


「イマノハ【サミダレギリ】ミネウチデハナイ(今のは五月雨斬り、みねうちではない)」


そう言うとまたチャット欄が止まった。


しばらくしたらコウタさんがチャットしてくる。



コウタ:そんな技ないぞ。お前冒険者エアプだろ甲冑男。スキル名すら満足に覚えてないのか(呆れ)ある程度の技は義務教育で習ったでしょ?習ってない?不登校?



そのときユラッチが近寄ってきた。


「どうしたの?ナイト」


俺は視線でチャット欄を示した。


「ん?ナイトの使った技が存在しない技?ってこと?たしかに五月雨斬りって聞いたことないけど」


ちょっと待ってねーとリスナーに伝えてからユラッチは端末のキーボードを叩き始めた。


「五月雨斬り……っと」


チャットを見ていると


コウタ:そんな技存在しないよユラッチ


コウタさんがまたコメントしていたが。


ユラッチが口を開いた。


「たしかに出てこないなぁ」


そう呟いたあと


「ん?」


ユラッチは直ぐに端末の画面を俺たちのカメラに映す。


そこにはこうあった。


【秘伝スキル集】


そしてその一覧表の中にあった。



【五月雨斬り】

・剣術スキルの極地。

冒険者の五十嵐によって発見された剣術スキル。

剣では不得手とされる集団戦に特化した剣術スキル。


習得は非常に困難を極める。


"……"

"…………"

"…………"


チャット欄が再び黙った。


ユラッチが口を開く。


「あったけど」


俺も俺で胸をなでおろした。


良かったー俺の勘違いじゃなくてしっかりと存在していた。


やがて、チャット欄に再び動きが。


"コウタ先生解説よろろ〜"

"コウタせんせー?^~"

"コウタ先生。これはどういうことですか?"

"気になって夜しか眠れねぇよなぁ?"


数分経ってもコウタさんは帰ってこない。

さっきまで即返事をしていたコウタさんが嘘のようだ。


俺は同接に目をやった503人。

先程から同接は変わってない。


つまりコウタさんはまだ見ていると思うので、コウタさんに言ってみる。


「センセートタタカッテミタイ。オレトケットウシテクレナイカ?(先生と戦ってみたい。俺と決闘してくれないか?)」


"草"

"煽ってくねぇw"

"【悲報】名人様逃亡"

"コウタさん言い返してくだせぇ!先生はこんなところで逃亡する男じゃないでしょう?!"


そのとき同接が503→502になった。


"ちょ、ちょっと?!コウタさん?!www"

"ひとり消えたな。つまり……?"

"ナイト。お前の『勝ちや』"

"ちなみに同タイミングでユラッチの方の同接もひとり消えたからそういうことなんやろなぁ"

"確定やんwコウタ先生w不登校とか面汚しとかは自己紹介やったんかなぁ?"


チャット欄はそうやってなぜか盛り上がってるけど俺は悲しかった。

リスナーがひとり消えてしまったのだから!


「コウタセンセーーーーー!!!!!」


俺の叫び声はダンジョン内に反響するのだった。



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