第10話 俺はもってる

コウタ先生が消えてしばらくダンジョンを進んでいた時のこと。


"ユラッチの方流れ早いからこっちに失礼。これ、どこのダンジョン?"


そんなチャットにダンジョン名を答える。


ツンツン。


ユラッチにつつかれてそっちを見ると、話しちゃダメ。身バレする、と耳打ちされた。


おっと、そうだったな。

気をつけないと、と思ったけど。


時は既に遅かった。

だって俺ポロっちゃったもん。


反省しとかないとなぁ。

って思いながらチャットを見ると


"やっぱりそうなのか。見覚えがあると思ったわけだ"


とのチャットがあった。


なんだ、このダンジョンの常連さんか?

そう思いながら進んでいたその時、同じ人から更にチャットがあった。


"そこ、今立ち入り禁止のはずだけど"


そのコメントがされてからチャットがザワついた。


"立ち入り禁止?"

"ユラッチ達が無視して入ったってことか?"


チャットが荒れ始めたのでユラッチに質問。

驚いたような顔で答えてくれた。


「え?!知らないよ?!そんなの知らないんだけど!」


"数時間前このダンジョンに行こうとしたら立ち入り禁止の張り紙があったけど"


とコメントされたが俺たちはそんな張り紙知らない。


"ボスのミノタウロスが獰猛期に入ってる。とにかく出た方がいい。てか出ろ。ユラッチならワンパンだぞ?"


え?ユラッチはEランクって聞いてたけど。


「ユラッチガワンパンスルノカ?」

"される側だ。とにかく、そこから早く出てくれ。獰猛になったモンスターはまじでやばい"


そうチャットされた時だった。


「ブモォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」


地の底から響くような鳴き声。

それと同時に


ドォォォォォォォォォン!!!!!!


地響き。


「きゃぁっ!」


その場に膝を着くユラッチ。


なんだこれ、地震か?


俺も頑張って立つけど。


バキッ!


立っている地面に亀裂。


「ちょ、ちょっとぉぉぉぉぉ?!!聞いてないけどぉぉぉ?!!!!」


喚くユラッチ。

その場に座り込んでいて立てないらしい。


どうしようかと悩んでいたとき。


バギャリ!


亀裂が更に広がって。


「あっ……」


地面にポッカリと開く穴。

そこに落ちていくユラッチ。


「セワノカカルヤツ」


俺はギリギリ範囲外だったけど。


バッ。

ユラッチを助けるために穴に飛び込んだ。


空中でユラッチを左脇で抱えると。


アイテムポーチからワイヤーを取り出して、それの先端に付いているナイフを壁に投げて突き刺した。


ガッ!


プラーン。


ワイヤーによって俺たちの体はそれ以上落ちることなく支えられている。


「ナイト……」


俺の顔を見てくるユラッチに何も答えることなく俺は壁を蹴ってからワイヤーから手を離して少し離れた場所にあった地面に着地。


「ケガハナイナ?」

「こんな時までデスボ?!」


驚くユラッチに頷いた。


なんでそんなに驚いているのかと思ったけどチャット欄を見ると理由が分かった。


"こいつ穴に飛び込みやがった"

"今の反射神経ヤバすぎだろ。ポーチからワイヤー取り出して突き刺すまで早すぎん?"

"1回見ただけじゃ何が起きたのが分からんかったわ"

"今のを一瞬で判断して実行に移せるの流石Sランクって感じだな"

"しかもフルアーマーで動きにくいのにやってのけたとこだからな。マジで規格外だわこいつ"


どうやら俺のワイヤーまでの判断速度に驚いているらしいが。

普通だと思うけどな。


そう思いながらとりあえず俺は今落ちてきた穴を見上げた。

かなり穴は高いようで。


登るのは無理だな。


ユラッチに目をやると。

マップを見ていたようだけど。


「だめ、今ので階段も崩れたみたい」


首を横に振るユラッチ。

チャット欄の流れが早くなる。


"【悲報】ナイカスのせいでユラッチやばい"

"ユラッチ死なないでー"

"ナイト殺す"

"ユラッチが死んだらナイト殺して俺も死ぬわ"


このダンジョンを選んだ俺への怨嗟のコメントで溢れていたけど。


"とりあえずギルドに報告したわ"

"救援が来るまで待機安定"



みたいなギルドに連絡してくれた奴もいる一方で。

リスナーの一人が唐突に他の配信のリンクを張った。


"ナイトのせいじゃない。調べてきたけど張り紙剥がされてたんだ。つリンク"


なんだ?これ?

そう思いながら俺は自分の端末で貼られたリンクを踏むと。


『よう。クソ陰キャ共。高島でーす』


見知った顔の男がドアップのアホ面で映った。

またこいつか。


『今日はダンジョン攻略に来たぜ!トラップいっぱいしかけて他の冒険者共にも嫌がらせしてやろう!』


画面の中の高島がそう言って立っているのは俺たちが入ってきたダンジョンの入口。


その時には張り紙があったようでダンジョン入口の横に立ち入り禁止と書かれた紙があった。

取り巻きのひとりが口を開く。


『張り紙ありますけど』

『あ?立ち入り禁止?ハッ。知らねぇな。こんな張り紙程度で俺を止められると思ってるのかバカタレ。俺を止められるのは俺だけだ』


高島は張り紙を剥がして。


クシャクシャ。


紙を丸めてポイ。


その辺に捨てると丸めた紙は風に吹かれてどこかへ消えていった。


『んじゃまぁ、行ってくるわ。今の名シーンは切り抜きしとけよ。本日の名言だからな』


そう言っていつもの取り巻き2人を連れてダンジョンの中へ。

いったんコメントを見てみると


"こいつか"

"またこいつか"

"コウタ先生に続いてこいつか、持ってるなぁ、ナイトは"

"今ガチャ引けばSSR引けるよナイト"


そんなコメントに適当に答えつつ高島の配信に目を戻す。


配信はまだ続いていた。

現在の最新の場面まで飛ばしてみると。


『これからダンジョンボス戦だ。行ってくるぜ。俺最強!超最強!』


そう言って目の前にあった扉を開ける。

中にはミノタウロスがいた。


そのミノタウロスが暴れ回っていた。

中にある支柱を破壊したり、壁をぶん殴っていた。

拳は壁に埋まっていた。


『た、高島さん!流石にやばそうですよ!さっきの地震もこいつが暴れたせいだ』


それを見た取り巻きが止めに入るが高島は止まらない。


『うるせぇ!こいつ倒してアンチ全員黙らせるんだよ!ネット民はなぁ!実力を見せれば黙るんだよ!見てろ!俺は明日から英雄になるんだ!そんで俺を退学にした学園長を後悔させてやる!』


しばらく見ないなと思ったら退学させられてたらしい。まったく知らなかった。


画面の中では突撃していく高島に取り巻きも呆れながらも続いたが。


『ブモォォォォォォォォォォ!!!!!!!』

『は、はぇぇ!ごぇっ!』


ドカッ!

素早い動きで突進するミノタウロスによって高島達は紙切れのように全員吹き飛ばされた。


そこでカメラは壊されて映像は途切れる。


"あっ……(察し)"

"高島さんさよなら"

"アホすぎる"

"確実に死んだなこれ"

"自業自得すぎて、ざまぁ以外の感想が出ない"


同じものを見ていた奴らがチャット欄にコメントしていく。


"ナイト。進むのは危険すぎるわ。頼む思いとどまってくれ。脳筋も程々にしてくれ。流石にユラッチの身が。お前と違ってユラッチはあの突進絶対避けれない"


と、俺を止めるコメントが増えてきた。


これで更に進むのは流石にイメージ悪いよなぁ。


仕方ない。


「キュウエンヲマツ(救援を待つ)」


ユラッチも言ってたし。

イメージ大事だよって。

今回はそれに従おう。


まぁ不安もあるけど。


チラッ。


さっきできた大穴の下から


『ブモオオオオオオオオオオ』


って小さく聞こえてくるんだよな。

まさか、昇ってこないよな?

大丈夫だよな?


うん、聞こえないフリをしよう。

そうしよう。

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