第11話 大手配信者はすごいよ

「キュウエンヲマツ」


ということで方針を変えることにした。

するとチャット欄も落ち着いてきた。


が、ネットの悪い所か。

俺を煽るようなコメントもチラホラ。


"【雑魚】ナイカスさん完全にミノタウロスにビビってしまった模様"


"ナイカスさっきまでの威勢はどうしたよwww"


"ナイカスもミノタウロスには勝てないのか。まぁそりゃそうだわな。強そうなのは見た目だけなんだからw"


俺が進まないと決めたらこの通りである。

ネットというのは素晴らしいな!


正直少しカチンと来るけど流石にイメージの方を大事にしたい。


チラッ。

ユラッチの方を見ると。


「うぇーん。やばそーだよー。誰か助けてー。強い冒険者に救援頼みたいのー」


こんな状況すらも配信のネタにし始めた。

こうやって同情をひくような態度を取って。



ユラッチ守り隊

¥100,000円

"ユラッチ大丈夫?!僕が着いてるからね。このお金で救援依頼を出そう!"



この一瞬でとんでもない額のスパチャをもらっていた。


「ふぇぇん。怖いよー!!」



その後もどんどん赤いチャットが飛び交っていた。

凄いな、ユラッチは。

この状況を活かしてる。


それにしてもユラッチの配信のチャットの流れ加速したな?


そう思い俺はユラッチの隣に移動して彼女の配信画面を見てみた。


(視聴者50万人?!)


驚いた。

なんでこんな増えてんだ、と思ったら。

ボソッ。


ユラッチが耳元で教えてくれた。


「今ネットニュースで取り上げられてるんだって。それでこんなに増えちゃった」


にんまり。

目が¥マークになってますよユラッチさん。


とりあえず俺も少しネットニュースを見てみよう。


グッグレ検索で適当に検索すると出てきた。


"大手配信者が高ランクダンジョンで取り残される事件が発生"


とのような見出しとなっていた。


記事の中ではまだライブ配信が行われていることが書かれていた。


それなら俺の方も若干視聴者増えたのかな?とか思ったけど先程500人いた視聴者は300人になっていた。


(減っちゃうのか……)


そんなことを思いながら俺もユラッチの真似をしてみる事にした。


「コワイヨォォォォォォォォ!!!!」


どうだ?!

視聴者300人から30人になった。


逆効果だった。


"キモイ"

"黙っとけよお前"


あ、はい。

黙ってます。


剣を両手で持って地面に突き刺した。

置物になってたらいいんだろう?

俺は。


所詮性別の壁は越えられないようだな。

そりゃそうか。


こんな無名の鎧配信より隣にこんな可愛い女の子がいるならそっち集中して見るよなぁ。

そう思った時端末のバッテリー残量が目に入る。


5%。

なのに。


ぶつっ!


いきなり切れた。

これだからオンボロは。

いつまでもオンボロ使う俺も悪いけど。


「ジュウデンキレタ」


言い訳のためにユラッチの配信に声でも入れようと思い近くに寄ったのだが


"待って、なんか聞こえなかった?"


ユラッチの方の配信でチャットがあった。


"ほんとだ。俺も聞こえた。なんか唸るような声"


「えー、なんも聞こえないよー?」


そう答えるユラッチだったけど。


「……ォォォォォォォォォ」


なにかたしかに聞こえた。

なんだこれ。


俺は音のした方を見る。


先程ダンジョンが崩れて開いた大穴の方だった。


風が通る音か?

そう思いながらも念の為身を乗り出して下を見てみると。


「おいおい、まじかよ」


つい素の声が漏れてしまった。


「ブモォォォォォォォォォォ」


先程高島共を吹き飛ばしたミノタウロスが大穴の壁をよじ登ってきていた。


ゴキブリかよ。


そんで。


俺と目が会った。

ダッ!


「ブモォォォォォォォォォォ」


壁を蹴り一気に駆け上がってくるミノタウロス。

やばい。


ユラッチを抱えて後方に飛んだ。

それと同時に


ドカーン!!!!!

ミノタウロスは先程俺たちが立っていた場所を殴りつける。


「おぉ……怖」


もうチャットに目をやる余裕なんてないな。


「う、うえぇぇぇぇ?!!!!」


ユラッチもどうやらそのようで飛び上がってきたミノタウロスから目を離せないらしい。


さて、逃げ道はあるけど。

面倒だ。


「ヤッチマウカ」


獰猛期に入ったモンスターとの決闘などしたことはないが。

しょせんミノタウロスはミノタウロスだろう。


高島の配信でも見たが通常時よりじゃっかんステータスは上がっていたようだが、誤差なようなものだ。


トッ。

右足で地を蹴り、次に左足でも蹴る。


それを繰り返してミノタウロスとの距離を詰める。


「ブモォォォォォォォォォォ!!!!」


拳を俺に向けて振り下ろしてくるミノタウロス。


俺の剣のリーチはせいぜい60センチくらい。


俺たちの間の距離は100センチはある。

そしてミノタウロスの方はこの距離感でも俺に攻撃を当てることができるだろう。


間合いとしては圧倒的に不利だが、俺は待ちを選ぶ。


そのときユラッチから声が。


「ナイト!獰猛期だからスピード上がってるよ!絶対攻撃貰わないで!その位置だと攻撃届かないし避けてね!」


そのときミノタウロスの拳が俺に迫り来る。


ニヤリ。


「エクステンド」


攻撃のリーチを伸ばすスキルだ。


呟くと剣が光を放つ。

そして。


ズバッ!


居合切りとして放った剣は簡単にミノタウロスに届いた。


ミノタウロスの首を横に切り裂いたのだ。


グラッ


揺れたミノタウロスの体はゆっくりと後方に倒れて。


ヒュオォォォォォォォォォォ。

そのまま大穴の方に落下していった。


やがてしばらくして。


ドォォォォォォォンとミノタウロスの体が落ち切った音が聞こえてくる。


それを確認してユラッチの顔を見た。


「すごっ!」


一言だけ喋ってからチャット欄と会話を始めた。


「みんな見た?!今の!剣伸びたよね?!」


"????????ナイトつえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!今のワンパンかよwww"

"え?今の武器どう足掻いても届かなくない?俺の見間違えか?"

"剣術スキル【エクステンド】。剣のリーチを延長する技だけど普通こんなに延長できないんだよなぁw"

"これが最高ランクSの実力か?!"

"いや、Sランクでも延長距離は10センチくらいが限度。こいつは2倍くらい伸ばしてるから規格外なんよ"

"【悲報】ナイトアンチ沈黙"


直ぐに俺のやったことに対してのコメントがどんどんついていく。

んでユラッチもヒートアップしていた。


「すご!ナイトすごいよ!流石ギルドに認められた最高ランク冒険者!」


きゃー!!!!

ユラッチが鎧姿の俺に抱きついてきたところでチャット欄は地獄になった。


"ナイト死ね"

"ナイト殺す"


あー、やっぱりこうなんのね。


それとなくユラッチを引き剥がした時だった。


ひゅーっ。


穴の上から男がロープを使って降りてきていた。


「ここで合ってたか、良かった。ギルド職員の者で救援にきたのだが」


男は周囲を見て口にした。


「不要だったようだね」


そう言った男に俺たちはついていく。

ユラッチは配信をいったん停止したようだ。


そして地上に上がると


「救命が完了したというサインを欲しいんだ」


そう言って俺に紙を載せたボードを渡してくる男。

どうやらここに名前を書けとのことらしいが。


「ナイトでも?」

「構わない」


確認を取るとボールペンを取りだして『ナイト』と記入した。


「おや?」


そのとき男は俺の手元見て何かに気付いたような顔をした。


「なにか?」

「いや、なんでもないさ」


そう言うと今度は俺はユラッチにボードを渡した。

そんな対応を済ませて今日の活動はをやっと終われるのだが。


がさっ。


「ん?」


ここから少し距離のある木の陰に誰かいたような?


「気のせいか?」


こんな時間にダンジョンにでも来たのだろうか?

特に気にしないことにする。

たまに見かけるし、そういう人。


それより帰ろー。

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