第34話 夢が叶いました

週が変わった月曜日。


ピンポーン。


「朝っぱらからなんだよ……」


のんびり着替えてるとインターホンが鳴らされてた。


扉を開けるとそこにはギルマスが立ってた。


「いよっ!」


いよっ。じゃないんだよ。


「なに?」

「なに?ってこっちのセリフさ。忘れたの?頼んできたのそっちだよ?」


寝ぼけてる頭を回転させて思い出す。


あー、そうだ。


(学校に行く時の手伝いを頼んだんだったな)


俺はもう完全に顔が知られてる。

だから、さ。

登校する時、下校する時にギルドにサポートを頼んだんだった。


その結果がこれだ。


「時間外労働ですよ?しくしく」


文句言いつつエレベーターの方に歩いてくので、俺もユカを呼んで家の鍵を閉めてついていく。


「いやぁ、悪いね」

「同情するなら休みをくれ」


ピッ。

エレベーターのボタンを押して俺たちが下に降りると、マンション前の敷地に車が止められてた。


「乗って」


ガチャっ。

バタン!


怒りを感じさせるくらいの勢いで扉を閉める。


すぐに態度に出るよなぁこの人。

そう思いながら後ろに乗る。


「癒しが欲しいなー?ねぇ?イツキくん?私年下好きなんだよね?」


そこでなんで俺のこと見てくんの、この人。


無視してると。


ブオーーーーーーっと音を鳴らして。


車が浮かび始めた。


「こんどドライブ行こうよー」


ぐるっ。

運転席を後ろにぶん回して俺の顔を見てくる天羽。


「夜空の果までイカせてあげる」

「ひとりで行っててください」

「ひ、ひどい!」


ユカは窓から外を見てワクワクしてた。


「初めて乗りましたこのタイプの車」

「空飛ぶ車は初めて?これもギルド様様だよね」


ダンジョンが出現してダンジョン内の物資がいろいろなことに使われ出して結構な年月が経った。


だからこうして空飛ぶ車、というのは割と普及してきている。


んで、自動運転技術みたいなのもあるから運転者は他のことしてても問題なくなった。


だからこうしてギルマスは俺の方を向いてるわけ。


「わー、空飛んでますよ!兄さん!」


キャッキャしてるユカ。

久しぶりかもしれないな。こんな顔見るの。


最近配信ばっかであんま顔合わせてなかったのもあると思うけど。


まぁ、これからの生活もそこそこ楽しんでくれそうで何よりだな。



「着いたよ」


先に降りたユカに続いて俺も高校の屋上に降りた。


屋上から登校する高校生なんて全国探しても俺くらいじゃないだろうか?


以前にヘリコプターで登校したい、とか思ったことあったけど、夢が叶ったようなもんだよなぁ。


そう思いながら天羽に目をやる。


「どうもね」

「気にしないで!私もこっから仕事ですからねぇ!」


叫びながら言ってギルドの方に向かっていった。


屋上から教室まで向かうと、すぐにクラス中がザワザワし始めた。


「おい、来たぞ公認が」

「お前話しかけてこいよ」

「俺仲良くねぇし」


みたいな声が聞こえてくる中。

タッタッタッ。


マドンナが真っ先に駆け寄ってきた。


「おはよう!西条くん!」

「おはよう」


そう言って横を通り抜けようとしたら。


ガッ!


俺の腕を掴んできた。


クルっ。

振り返って聞く。


「なに?この手は」

「ID交換しようよ!クラスの子が公認配信者なんてすごいもん!」


グサッ!


クラス中の視線が突き刺さった。


さすがはマドンナだ。

こんな一言でここまでクラスメイトの心を動かすなんてな。


「また今度ね」

「今度っていつ?」

「1週間後くらい」


そう答えると分かって引き下がってくれた。

引き下がるとは思ってなかったから、意外だ。


「ふぅ……」


席に座る前に気付いた。

俺の席は一番後ろのはずなんだけど、


(なんで後ろに座席があんの?誰か、移動させたんなら戻しとけよなぁ)


とか思いながら椅子に座る。


由良さんが声をかけてきた。


「久しぶりー」

「そうだね」

「いいなー公認配信者ー」


由良さんがそんなことを言うくらい公認配信者というのはいいらしいけど。


俺は正直どっちでもいいけどなー。


授業が始まる前の朝のホームルームの時間。


ガラッ。


扉が開いて先生が中に入ってきた。


「えー、留学生が来ました」


ん?

このクラスに?


そう思ってたら。


先生が扉の向こうに声をかけた。


すると。扉が開いて、金髪を肩くらいまで伸ばした。


女の子が入ってきた。


(え?)


クラスメイト達が騒ぎ始めた。


「お、おいおい、なんでこんな時期に?!」

「つかめっちゃかわいー!!!!」


教室中が騒がしくなった。

んで、女の子は俺に目をやってきて。

それから


「おはようイツキ」


笑って軽く手を振ってきた。


クラスメイトの視線(主に男子のもの)がまた俺に突き刺さった。


「ね、寝盗られた……」


由良さんがボソッと呟いてた。


それから女の子は自己紹介を始めた。


「アメリカから来ました。ニーナです。気軽にニーナって呼んでくださいね」


そう言うと彼女は歩いて、俺の後ろに席に座った。


んで、すれ違いざまに


「よろしくね。イツキ」


ねっとりと声をかけられた。


こいつはジョニーじゃないよな?

だってジョニーって男だろ?


女なわけないよな?

名前も違うし。


いやー、すごい偶然があるもんだなー。



昼休み。


(触らぬ神に祟りなしって言うじゃん)


ガタッ。

持ってきたパンを手に取ってから立ち上がって屋上にでも行こうとすると


「みんなと食べないの?」


俺の後ろを着いてきながらニーナが口を開く。


「俺友達いないからさ、だから、君だけ他の人と食べてなよ」

「え?私は友達じゃないの?」

「違うんじゃないかなー?」


そう答えながら部屋を出て屋上に向かうとニーナも着いてくる。


(なんで着いてくるんだよ?!)


結局屋上まで付いてきた。


「あ、もしかして気付いてない?」


そこで声をかけてきたニーナ。


「私がジョニーだよ」


とんでもないことを口にしてきた。


「……」

「ジョニーって適当に付けただけって言ったよね?本名じゃないよ。とは言っても私のニックネームだけどね」


なんでジョニーなのかは分からないけど。


とにかく、ニーナが俺の配信を見てたジョニーだというのは分かった。


「んで、何が目的なわけ?」


そう聞くとニーナはニッコリ笑って口を開いた。


「チャットしたよね?ナイトと一緒に学びたい、って」


これが表向けの理由なんだってことは俺は知ってた。


さすがに俺の監視が目的、とは言わないか。


「俺と学びたいって言われてもこの高校は普通の高校だよ?君の望むような高等技術が学べるわけじゃない」


そう答えながらパンを食べる。


「へー、そうなんだー。でもさ。私はナイトチャンネルのプレミアムメンバー様だよ?このまま無視はしないよね?」

「無視がイヤならメンバーもやめてくれよ。君の金だ。好きに使いなよ」


強制したわけでもないし。

俺は配信内でも配信外でも優遇するなんて言ったつもりない。


そんな感じで食事を進めてるとニーナが口を開いた。


「配信とはぜんぜん空気違うね!」

「ナイトってキャラを演じてるだけだし?どう?幻滅した?中の人にはさ」

「えー?でも私こっちの方が好きかなー?ちょっと性格悪いっぽいのさいこーだよ?」


(はぁ……)


まぁ、別に相手したくないわけじゃないけど。

そう思いながら聞き返す。


「日本に来て、何がしたいの?」

「ダンジョン攻略。イツキと行きたいんだけど、無理?」

「どこの?」

「どこでもいいよ」


その言葉を聞いて俺は口を開いた。

以前から行ってみたいと思ってた場所があったから。


公認になった今なら余裕で行けるだろう。


「じゃ、日本最高難易度のダンジョン、オノコロ島でもいいわけ?」


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