第35話 割った

まさか。本当に来るなんて思ってなかった。

日本最高難易度、とまで言えばビビって来ないんじゃないだろうか。


そう思って口にしたのに、二つ返事で行くとのことだった。


「あ、私は一応戦闘とかは参加するけど、あんまり話しかけないからいつも通りにしてもらっていいよ」


とのことらしいので、


「あっ、あっ、テステス」


いつも通り配信を開始することにした。


タイトルは【オノコロ島行く】にしといた。


それにしても、配信してないと落ち着かなくなってきた。


俺も変わってしまったよなぁ。


時刻は夜の19時。


学校が終わってから軽く食事をしてから来た。


同接は。


20万。


"オノコロってどこ?"

"オノコロ島でしょ。日本最高難易度って言われてるけど"

"聞いたことあるな。一階層すら突破されてないんだろ?まだ"


ザザー。

ザザー。


周囲からは波の音。


ここは兵庫の淡路島。


の、とある小さな離島。


そこに俺はいた。


"詳しくないんだけどオノコロ島って伝説上の話じゃないの?"

"ダンジョンができ始めたころに島が出来たんだってよ。んで初めて入った人の端末にダンジョン名が【オノコロ島】って表示されたらしい"

"え?ガチのオノコロ島なの?"

"うん。日本始まりの地が、兵庫県の淡路島に急に出てきたから当時はすごい話題になってたけど"


そんなチャットを見ながら道なりに進む。


"でもナイトって関東在住じゃなかったっけ?学校終わってから淡路島までこれんの?兵庫だろ?"

"ナイトはもう公認だからなぁ。ギルドの転移結晶も簡単に使えるんでしょ"


ダンジョンが世界に出現してから1番変わったのは交通面だと思う。


転移結晶と呼ばれる結晶でテレポートできるようになったから。


初めはダンジョンから出る時くらいにしか使えなかったけど、現在はダンジョン外でも使えるようになってる。


まぁでも主要ギルドにしか置かれてなくて、使用回数とかに制限もあって全員が使えるわけじゃないんだけど。俺は公認だから顔パスで使えた。


それで淡路島まで来た、というわけ。


どんどん道なりに進むけど、すぐに道がなくなる。


けど、俺の視線の先遠くには島があった。

ぽつんと海の中にある。


"アレがそうなわけ?"

"らしいよ"

"船もないけどどうやって行くんだ?"


剣を抜く。


"剣抜いてどうすんだよ"

"剣で走り高跳みたいにすんのか?"

"シュールすぎる"

"すぐに海に落ちそう"


そんなチャット欄に答えるように俺は立て看板にカメラを向けた。

そこにはこう書いてある。


【力を示せ】


"なんかモンスターでも出てくんの?"

"ダンジョン外なんだから流石に出ないだろ"

"でもどうやって示すんだ?"


そんなチャットに答えるように俺は剣を下から上に振り抜いた。


ズバッ!


すると、ザァァァァァァァと海が割れる。


目の前に現れるのは砂の道。ここを通って向こうのオノコロ島まで行くのだ。


"すげぇw海割れたwww"

"モーセかよwww"

"どっかで聞いたことあると思ったらそれか"

"どうやったん?これ"

"ナイトさんに説明を求めるな、感じろ"


"これが数百年語り継がれることになる、ナイトの海割り伝説であった"

"これがそのまま資料になるもんなぁ"

"ナイトさんまた伝説をお作りになられとるやんwww"


「イクゾ」


ニーナに伝えるように口にしてそのまま海底の道を歩いていく。


"すっげぇ、ワクワクするwww"

"海の中歩く配信なんてないもんなぁwww"

"左右をご覧下さい。サメがギョッとした目でこちらを見ておりますね"

"サメくんナイト見て逃げてっちゃったwww"

"サメくん「エサが自分からきたwあ……食えねぇわこれ」"


そうして歩くこと数分。

俺は海を渡り終えた。


そして端末に目をやると。


【オノコロ島】


"うはっwwwまじコロ島じゃんwww"

"こマ?"

"ここから日本が始まったってまじなのですか?"

"これが国生みのダンジョンかぁ"

"【速報】ダンジョンさん日本を産んでしまう"

"中どうなってんの?"

"早く入れよー頼むよー"

"あくしろよ"


そんなコメントが続く中俺はダンジョンの入口前に向かう。


横にはギルドの職員がふたりいた。


右が少し若め、左が中年くらいの職員。


"門番?"

"日本最高難易度だから下手に死人増やさないように見張りだってさ"

"そういえばナイトも注意喚起はしてるけど、こいつに夢見て中高生がダンジョンに行くこと増えたんだっけ?"

"だから、今各ダンジョンの入口に見張りの人数増えてるってさ"

"影響力やべぇっすねナイトさんwww"

"俺も高校生んときに、こいついたらダンジョンチョロいんじゃね?って思って行くわwww"


「本部から話は伺っています。ナイトさんですね?」


ギルド職員がそう聞いてきた。


「アァ」


"ギルド職員さん顔引きつってるwww"

"今の地獄の底から響く声聞いたらそりゃビビりますわwww"

"俺も直接会ってみてぇよなぁ、ナイトさんに"

"ぜってぇ漏らすわwww"

"漏らさないやついたらすげぇよ"


「決まりです。ギルドカードの提示を」


スっ。

差し出した。


「本人確認が終わりました。ご武運を」


スっ。

横に退いて道を開ける職員たち、その間を通ろうとした時。


若い方が声をかけてきた。


「あの、ナイトさん」

「ナンダ?」

「サインをお願い出来ないでしょうか?」


場が凍った。


上官だろうか?

もう片方の方が絶句してる。


"www"

"サインてwww"

"職務中だろwww"

"www"


ゴソゴソ。

自分のアイテムポーチからなにか取り出してくる。


それは。

鎧だった。


「サインをお願いします。ナイトさんだと思って部屋に飾りますんで」


ワナワナ。

中年の方が震えていた。


「バカもん!職務中になにをしてる!しかも公認配信者が配信中なんだぞ?!」


怒鳴りつけてから俺を見てきた。


「これはこれは……失礼しました。ささっ、どうぞどうぞ」


そう言って俺を先に進ませようとしてくる中年。

若い方は肩を落としてアイテムポーチに鎧を戻そうとしていた。


「イラナイノカ?」

「えっ?」


フリーズする若い方。


「サイン」

「え?お、お願いします!」


カキカキ。


鎧を差し出されたので適当にサインしておいた。


"サインすんのかいwww"

"草"

"なんやこの配信者wwwええやつすぎやろwww"

"ファーwww"


サインも終わったので中に入ろうとすると。


「ナイトさん。すいませんでした。若いのが……」


俺としては別にサインくらいどうでもいいんだけど。

そう思ってたら


「私にもぜひくれませんか?娘がファンなのです」


"お前もかいwww"

"なんやねん?こいつらwww"

"これだからギルドはwww"


「アァ」


カキカキ。

サインを書いてダンジョンの中に向かう。


"オノコロ島配信、って初か?"

"そもそも入るための条件がエグいからなぁ。調べたらSランク必須で、その上1年間クエスト失敗なし。それが条件だってさ"

"誰が挑めるの?それ"

"ほんとに一握りだね"


チラッ。

ニーナに目をやった。


配信に配慮してるのかすげぇ声は小さい。


「行こうよ。へっちゃらだよ?日本のダンジョンくらい」


チャット欄にいた時から日本のダンジョンのことは下に見てる節があったけど。


やっぱりそうらしいな。


「私がビビるとかって思ってるなら大きな思い違いだからね。それは」


すげぇ自信家だよね。

ダンジョン内で泣いてほしいって思うのは意地悪かな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る