第27話 世界初らしいです
グイッ!
山野の手を掴んでこっちに引き寄せた。
スカッ!
その瞬間。
山野の立っていた場所をなにかが通り過ぎた。
(鎌、か?姿が微かにしか見えない。ほぼ透明に近くて分からない)
"なにいまの?"
"なんかいたよな?"
"ユラァってしてた"
"ゴーストか?"
"いや、ゴーストはあんな攻撃の仕方しない"
"ゴーストは物理効かないだけで、特段強敵じゃないからなー"
今存在した"なにか"に対しての考察がコメントでされていた。
俺も、ここで逃がさないように剣を振ってみた。
(ここで仕留める!)
スカッ!
しかし空振りに終わった。
それを見て
(空間斬り!)
空間を引き裂いてそこに吸い込ませようとしたけど。
(吸い込まないのか?)
俺の技は効かなかった。
てか、どういうことだ?この階層にはボスはいなかったはずだが……そう思ってマップを見ると
(あれ?ボスの残りが1になってる?)
「ヒュォォォォォ……」
視線を戻すと目の前にいた"なにか"はそのままスゥっと消えていく。
(諦めたか?油断させようとしてる?どこにいった?)
警戒を切らさずに数分間神経を張り詰めていたけど、
(こないな)
最低限の警戒はしつつマップに目をやると。
(ボスが残り0?どういうことだ?)
と思ったけど。
ひとつ心当たりのあるものを口にしてみた。
「レイス?」
聞いたことがある。
海外じゃゴーストの上位種のレイスと呼ばれるモンスターがいる、ということを。
返事を求めたワケじゃなかったけど山野が口を開いた。
「そうですよ」
"よりによって、レイスかよ"
"レイスって物理も魔法も効かないって聞いたことある"
"索敵魔法とかスキルも効果ないんだよな、たしか"
"攻撃とかは早くないけど突然闇討ちしてくる"
"どうすんの?これ"
"レイスって討伐報告上がってないんだろ?"
ジョニー:現状どこの国も討伐報告は上がってないよ。スルーした方がいい
とのことらしい。
たしかに。
扉を見た。
左右の台座にアイテムを置くんだろうけど、アイテムが見つかれば相手にする必要はない。
残り一個はこのフロアに落ちてると思う。
「こちらです」
山野が案内してくれるようだ。
さっき通った広い場所まで戻ってきた。
「あ、あれ?」
山野の目がくもった。
スッ。
死体の山の上を指さした。
頂上には剣が突き刺さってただけだけど。
「あ、あの上に布が置いてあったんです。レイスのローブっていうアイテムが。私たちが来た時には」
そのとき。
ユラァ。
ブン!
山野を抱えてまたその攻撃を避けた。
そのときに地面を蹴って後退しながら力任せに剣を振った。
風圧を発生させる。
幽霊ならこれで吹き飛ぶんじゃないか?と思ってやってみたけど。
そんなわけもなく。
でも、
バサッ。
(ん?なんの音だ?)
音の鳴る方を見てみると一瞬だけレイスのローブがバサバサ揺れていた。
風圧の影響を受けてたよな?
「ヒュォォォォォ……」
俺がそれを確認していると、レイスがまた消えていった。
なぁ、ところでさぁ。叫んでいい?
あのさぁ、レイスくんさぁ……
「クソウゼェェェェェ!!!!!!!!」
"キレてるwww"
"まぁたしかにウザイわあれwww"
"めっちゃチクチクされとるwww"
"レイス「そのうち殺せるやろ」"
"キレるの珍しいw"
"どっちが先に折れるかだよなぁw"
はぁ、マジでウゼェェェェェェェ!!!!!
山野に目をやる。
「ほ、ほんとなんです。私たちが来た時にはあそこにアイテムがあったんですけど」
別に信じてないわけじゃないけど。
それから、考えたレイス攻略法について山野に話す。
「ヤマノ」
「はい?」
山野の耳元で囁く『俺を信じてマップのボス残数だけ見ててくれ。攻撃からは俺が守る。残数が0から変わったらすぐに教えて』
と。
あのレイスに思考能力があれば対策を取られるかもしれないし。保険に山野にだけ聞こえるようにした。
「わ、分かりました!」
"なにが分かったんや?"
"ナイト、解説してくれや"
"なに言うたん?"
レイスに聞かれる可能性もあるのでこれ以上は話さないことにする。
山野と並んで立つ。
今までレイスは襲いかかってくる時、俺たちのすぐ周りに出てきていた。
それを考えたらふたりで固まっていたらある程度出現位置は誘導できるはずだ。
レイスは隠密性能と奇襲性能はずば抜けて高いけど、本体性能は弱い。
今までの攻撃のパターンでそれは分かる。
なら、あとは待ちで勝てる、と思う。
数分が経過した。
最後にレイスが現れてからまだ姿は見せない。
山野は緊張しているのかずーっと黙り込んでいて。
顔には汗が浮かんできていた。
"なにしてんの?こいつら"
"レイス待ってんの?"
"レイスくんが次に出るのは50年後です"
チャット欄も痺れを切らし始めて、山野の顔から汗が垂れ流れた。
そのとき
「か……」
(わりました)と。山野の言葉が続く前に。
(後ろ、か)
「ソコダッ!」
ズバッ!
振り向きながら剣を振り抜く。
ザン!
レイスの持っていた鎌は真ん中で切断。
剣は止まらずに、レイスの脇腹から入って腹まで到達。
「オォォォォォォォ……」
剣に目を落とすレイス。
「ジャア、ナ!」
ズシャッ!
剣を振り抜いた。
「オォォォォォォォ!!!!!」
最後の断末魔を上げながら煙のようにレイスは消えていく。
バサッ。
レイスが消えた場所には光るアイテム。
しゃがんで回収。
【レイスのローブ】
これにてレイス討伐完了だ。
いやー、うざかっ……強敵だった。
"ジョニー?!ジョニー?!これが初めての討伐報告か?!"
"ジョニィィィィィィィ!!!!"
ジョニー:ごめん。調べてた。これが初めての討伐報告だね。申請したら初めてのレイス討伐者として世界中のギルドに登録されるよ
"まじかよwww既に神回確定じゃん、こんなの"
"【速報】ナイトさん、偉業を成し遂げる"
"ナイト最強!ナイト最強!ナイト最強!"
"興奮が止まらんわ"
"小学生のボーヤたち見てるー?君たちも努力したらこうなれるよ!"
"こうして、将来の夢がゴリラの小学生が増えるのであった"
ジョニー:でも、レイスは物理無効のはず。どうして今攻撃できたんだい?
なにから話そうか。
そうだな。一番最初に前提条件としてだけど。
「ズットブツリムコウナワケジャナイ(ずっと物理無効なワケじゃない)」
"どゆこと?"
"物理が効くタイミングがあるってことか?"
「ソウダ」
まず疑問に思ったのはずーっと物理無効で向こうだけ攻撃を一方的にできるのか、どうかってところだった。
出会った時はずーっと無効化されるのかと思ってたけど、それじゃいくらなんでも俺たち側に勝ち目がなさすぎる。
んで、その後の接敵で気付いた。
マントが明らかに風圧で揺れてたから、レイスには実体化?してる瞬間があるということに。
それが
「コウゲキスルシュンカン(攻撃する瞬間)」
そこだけは無効化の特性が停止する。
こっちに攻撃を当てるためだと思うけど、その一瞬だけあいつは攻撃無効の特性がなくなる。
その瞬間を狙えば攻撃を当てられる。
"その攻撃タイミングってのは見分けられるのか?"
"一瞬なんだろ?それ"
そこで山野は気付いたような顔をした。
「そこでマップの残数表示ですか?もしかして残数表示されてる時だけ攻撃を当てられる、ってことですか?」
頷いた。
「すごっ……こんな小さな残数表示すら利用するなんて……」
ジョニー:たしかにすごいね。これは新たなレイス攻略法として広く知られることになると思う
"ナイトさんマジでパネェwww"
"うっはwwwヤバすぎだろナイトwww討伐法確立とかwww海外勢見てるかー?www後発のナイトが初見で討伐方法見つけてくれたぞwww"
ジョニー:すごいけど。普及するかどうかはまだ分からないよ。だって、残数表示見てから武器振って間に合う人どれだけいるの?
"あっ"
"もしかして間に合うのナイトだけ?"
ジョニー:相当きついと思う。知られることになっても、できる人数は増えなさそうなんだよね
"またナイトの凄さがバレてしまったな"
"マジでやべぇわこいつwww"
盛り上がってるチャットを見つつ俺は山野に目を向けた。
「イクゾ」
「え?あっ……」
最後のボスのことを忘れていた様子の山野。
残念だが、これはまだスタートラインに過ぎない。
最後のボスフロアまで戻ってきて、もうひとつの台座の上にローブを置いた。
ズズーッ。
台座が少し下がって。
ガチャン。
大きな音がした。
鍵が開いたらしい。
ビクッ!
山野が震えた。
そして、そのまましゃがみこんで肩を抱いてブルブルと震え続ける。
"トラウマになってんじゃん"
"かわいそー"
"でもナイトは気の利いた事言わないんだろうなぁ"
ここにいるなら、それでもいい、と思って口を開く。
「ココニイロヨ」
そう言うと立ち上がってきた。
「いえ、行きます。本当は。この先に進むのは怖いです。でも」
山野は恥ずかしそうに笑って俺を見てきた。
「あなたがいてくれるなら……。少しだけ怖く無くなりました。私を守ってくれませんか?」
「ジブンノミハジブンデマモレヨ(自分の身は自分で守れよ)」
Sランクだろ?
なにを言ってんだ。
"フラグぶち折ってるよこの人www"
"これにて山野ルートはなくなりました"
"草"
”てか同接50万?うせやろ!!”
”深奥エリアの最終戦やもんな、いよいよ”
”ドラゴンさん次もまた頼むで、また脱がすんやで!!”
はっ、残念だけどさ。
もう次はないよ?
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