第28話 本気

ギィッ。

重い扉を開けて中に入る。


「ギガァ」


中にいたのは


「なんだこいつ」


"骸骨?"

"スケルトン?なわけないよな……"

"でも、骨だよなぁ?あれ"


俺の目の前にいたのは初めて見るモンスター。

二体いるのだろうか?


首が3つあるのがケルベロスなのは分かるけど、その上にいるのは。


"あれは、なんなんだ?"


俺も気になって山野に聞いてみた。

こいつなら知ってると思って。


「オルトロスの兄ケルベロスとその飼い主」


動悸が激しくなる山野。

やがて、続きを口にした。


「ハデス」


そう言った瞬間ボスのハデスが吠えた。


「ギガァァァァァァ!!!!!」


ただの叫び声。

そのはずなのに


(威圧感が凄いな)


今までのどんなモンスターよりも重圧を感じる叫び声。


"うわっ……やばいわこれ……"

"すげぇ重いよ、この叫び声"

"ほんとに嫌な気分になるな"

"こんなんと戦ってたのか山野は、そりゃもう来たくなくなるよな"


ハデスは俺を見てきた。


「ゼツボウセヨ。ソレダケヲユルス」


しゃべるタイプか。

いわゆるボスクラスと呼ばれるモンスターは喋ることがあるんだけど、どうやらこいつはそのタイプらしい。


山野が話しかけてくる。


「ごめん、実は私達は手も足も出なかった。体力を全然減らせてないんだよ……」


(体力が減ってない?ってことはこっから全部削る必要があるのか)


いつもはノリノリのチャットすらも空気が変わっていた。


"あれはほんとにやばい気がする。ほんとにゾワゾワするんだよな"

"見てるだけのこっちも怖くなるんだよ"

"なんていうか『死』が近付いてきてるようなそんな感覚"


コメント欄に弱気なものが増える。


"今回ばかりは撤退した方がいいような気もする"

"メンバー集めてきたらいいんじゃないのか?"

"たしかに"


考え直す。

溝谷との約束は山野の救援まで。

たしかに、ボス撃破までは言われてないけど。


「ゼツボウ……」


ねぇ。


ははは、面白いことを言うものだ。


「な、なんで笑ってるの?」


俺はさぁ。


「ゼツボウサセルガワナンダヨ(絶望させる側なんだよ)」


剣を引き抜いてハデスへと向ける。


冥界の王の名を持つモンスターか。

さぞ強いんだろう。


なら、倒せば配信映えする。

んで、倒せば。


俺の実名を書き込む流れも終わるかもしれない。

そのためには演技もモリモリでいこう。


初めての配信の時ユラッチも言ってた。

俺たちはキャラを演じるんだ、って。


俺が演じるのは最強の謎の甲冑男。


中の人なんていねぇんだよ!


「コイヨ」


ピクっ。

俺の挑発が聞こえたのか目を向けるハデス。


"でたー!ナイトのコイヨ!"

"また聞けると思わなかったけど、こいつヤバそうなんだよなぁ"

"でも、俺たちのナイトさんならやってくれそうな気もする"


「ダレニイッテルカワカッテルノカ(誰に言ってるか分かってるのか)」

「オマエ」

「ダークファイア」


魔法が使えるタイプか。

手に持った杖で魔法を使ってくる。


ボォッ!


飛んでくる無数の黒い炎。

俺だけなら避けれるけど、後ろには山野がいる。


だから。


「アマイ」


ザン!

それをすべて切り裂いた。


ピタッ。

止まるハデス。


「オドロイタナ」


どうやら切られるとは思っていなかったようだ。


「ニンゲンゴトキガ(人間ごときが)」

「アトヒャクバイヨウイシナ(あと百倍用意しな)」

「!」


ダークファイアを使ってくるが、全てたたき落とした。


まだまだ体力は持つ。

このまま挑発していればハデスの魔力が先に尽きるんじゃないか?


"さすがナイト。ここまでなんの問題もねぇ"

"このままいけば勝てそうだな"

"でもまだケルベロスがいるんだよな"

"あいつなんで動かないんだ"


チャット欄がそうやって疑問を持ち始めた頃。

山野が口を開いた。


「そろそろ本気を出してくるはず」


本気?

そう思いながら二体を見つめていると。


「イコウカ」


ケルベロスから降りるハデス。


「ガァッ!」


タッタッタッ!


ケルベロスが走ってくる。


迎え撃とうとしたけど


「ここからだよ。私たちはなにもできなかった。全滅しそうになりながらなんとか撤退した」


何をしてくるんだろうな。

動きを観察。


「ダークファイア」


(避けるしかないか)


ダークファイアを避けると


「ガァッ!」


避けた方向にケルベロスが向かってくる。


連携か。


ガチン!!!!

伸びてきた、首。


剣で弾いたけど、


「ガァッ!」


首はみっつある。

残るふたつも俺を狙っていて。


「ダークファイア」


ハデスが魔法を放ってきた。


(避けれないな、これ)


ファイアが当たって爆発に巻き込まれた。


煙が起きる。


"どうなってんだ?これ"

"煙で、なんも見えねぇ"

"てかドローンくんナイトのこと見失ってて、ハデスの方行ってんじゃん"

"ドローン「配信者こいつやったっけ?分からんわ」ってかw"


チラッと配信画面に目をやるとハデスの後ろにドローンは回り込んで、俺の方を撮影してる。


「イキテルカ?シンデルカ?」


どうやらハデスが俺に聞いてるらしい。

まさかモンスターにそんなことを聞かれる日がくるとは。


剣に手を伸ばし、


(五月雨斬り)


フィールド全体に斬撃を飛ばす。


手応えはない。


煙が晴れた。

ハデスもケルベロスも傷を負っていなかった。


こんな全体攻撃じゃ無理か。


(仕方ない。リミッターを解除しようか。鎧が邪魔だな)


あー。もう。脱ぐつもりなかったんだけどなぁ。

頭部以外の鎧を脱ぎ捨てた。


そのままハデスの方へ近づいて行く。

制服に付属のリミッター装置を解除しながら。


(本気出すか)


カチッ。

カチチチ……。


100%から150%へ。

いわゆる、本気というもの。


"こいつ今何したの?"

"リミッター解除じゃない?"

"高校の制服ってリミッター付いてるんだよ。能力を縛った状態でどこまで動けるか測るテストもあるから"

"え?じゃあ今まで能力縛ってたってこと?"

"あれで?縛りプレイだったの?"


ジョニー:え?う、嘘だろ?あれで制限してたのか……?本当に言ってるのか?嘘じゃないのか?


「ラクニシテヤル」

「ガァッ!」


向かってくるケルベロス。

俺も突っ込んですれ違いざまに。


ザン!


一刀両断。


あー。やっぱ体の動きが違うなぁ。


リミッター解除するとなぁ。


ハデスが驚いていた。


「バ、バカナ」


後ずさる。

逆に俺は一歩距離を詰めた。


これでプラマイゼロ。

俺たちの距離は変わらない。


モンスターにプライドとかあるのかは知らないけど。


こいつの場合挑発しておけば乗ってくれると思っている。


ので続ける。


「ニゲルノカ?」

「ダークファイア!」


ブン!


剣を振った時の振動で風を作り出して全ての火を消した。


「ダークサンダー!」


飛んでくる黒い雷。


空間斬り!


空中に浮かんだ穴から異次元へと送り込む。


「クッ!」


俺から目を逸らした。

目を向けた先は、山野。


「アイツダ!」

「オソイ」


バシッ。

ファイアボールを投げつけてハデスの手から杖を落とさせた。


お前の相手は俺だろ?なんで勝手に相手変えてんの?


「オレヲミロ」

「アガ……」


その場に膝を着くハデス。

こいつは喋れる。


ということは知能が高いのだろう。

つまり、今までの戦闘で俺とこいつの力の差、というのをはっきりと感じていると思う。


「ヤ、ヤメロ……ク、クルナ……」


最初に言われたセリフをそっくりそのまま返してやろうか。


「ゼツボウセヨ。ソレダケヲユルス」


"初見ですが、ナイトさんは今負けてる方で合ってますか?"

"ハデス目線になって分かったけどナイト怖すぎだろwww"


スっ。

近付いてハデスの首を左手で掴む。


「ギガガガガ……」


ハデスの体を宙に浮かべる。


「ゼツボウセヨ」


剣を構えて。


「ヤ、ヤメテ」


悪いね。恨みはないけど俺のために死んでくれ。


ズバッ!


ズルッ……。


上半身と下半身が分かれて、下半身は落下。

そして、ハデスだったものができあがった。


念のため頭を潰しておく。

これで安心だ。


今回は最後まで問題はなかったので、後は街に帰るだけ。

よし、簡単だな!


簡単すぎてあくびが出ますねぇ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る