第29話 終わった、と思うじゃん?


ズバッ!


ズルッ……。


ハデスだったものができあがった。


その物体を投げ捨てた。


(もう壊れちゃった)


初めて本気を出した相手。

だけど、すぐに壊れちゃったよ


"……"

"……"


チャット欄が黙った。


「カテタナ」


"私は外国から見ていますが、もしかして日本の冒険者ナイトは負けましたか?"

"負けたよ。あの骸骨のカッコして捨てられたのがナイト"

"いやー。深奥のモンスターはほんとに強いな!ジョニーの言った通りだった!流石ハデスの名を持つだけあるな!"

"誰が勝てるんだ?これマジでwww"

"草"


俺は山野に一瞬だけ視線を合わせた。

俺を見ながら棒立ちしてる。

先に帰ろう。


死体の横を通ってフロアの奥にある扉に向かう。


"伝説の回だわ……これは"

"ジョニー……見てたか?これが日本最強の冒険者だ"


ジョニー:目が離せなかったよ。日本最強っていうか、世界でもトップクラスは確実だね。日本の冒険者はすごいよ。友人に伝説を見たって話す。


"海外ニキ目線でも伝説なのか"

"そりゃまぁ。Sランク10人がかりで敗走した相手をソロでボッコボコだもんw"

"神回だったわ"

"つかもう、同接やべぇw60万超えてwwwこれから配信続けるなら100万も目指せそうだな"

"男の配信者でこんだけいくのやべぇわw"

"ヤバすぎwww"

"やっぱ深奥配信は伸びるんだなぁ"


扉を開けてクリアルームに入る。


中には台座みたいなのが置かれてた。

そこに文字が表示される。


【おめでとうございます。初回クリア報酬を受け取れます】


クリア報酬か、なんなんだろうな?

それから


【冒険者カードを画面にかざしてください】


と表示が出た。


「ナニコレ」


ジョニー:深奥突破報酬だよ。かざしてみると分かるよ


ジョニーがそう言ってたのでかざしてみた。

すると


【称号を付与しました。ご確認ください】


とのことなのでカードを見てみると


そこにはこう刻まれていた。


称号:冥界の王


なんか貰えたんだけど。

称号以外の部分を隠して配信に映してみよう。


"あ、冥界出身の方でしたか"

"そりゃつえぇわ"

"こいつやっぱ人間じゃなかったんだ"


そんなチャットがされていく。


最近はもう自分が人間離れしてる自覚をもってる。


さてと、あとは帰るだけだし配信切ろうかな。


そう思ったとき。


ギィッ。


扉が開いて山野が入ってきた。


俺が先に帰ろうと思ったけど。


(先に帰らせよう。俺はちょっと休憩してから帰ろう)


リミッター解除して疲れてるし、体を少しでも休ませるために岩に座る。

リミッター解除機能は自分の体の限界を超えさせるので負担もその分多くかかる。


ドローンが疲労を察したのか、俺のすぐ近くを飛び回ってる。

このドローンは優秀でヒーリングを少しだけどできるので頼ることにした。


疲れたぁ!

んで、山野に口を開く。


「先に帰りなよ」


それ以上は特に話すこともない。

溝谷のやつに救援を頼まれただけで、山野とはそれ以上の繋がりは無いし。


でも山野の方はそうじゃなかったらしく。


「すごかったです。こんなに強い人初めて見ました」

「そりゃ、どうも」

「お疲れ様です。配信は終わってるんですよね?」


その質問は配信を終了してるのを確信してるような聞き方だった。

このときは疲れで頭が回らなかったから、これはあとで気付いたことだけど。


「落し物しましたよ?」

「落し物?」


なにか落としたのか?

身体中触って確認してみたら。


俺はいつも右ポケットに生徒手帳を入れてるんだけど


(制服に穴が空いてる?)


さっきの戦闘でできたのだろう。穴があった。

んで、


山野が手に持っていたのは……。


にっこり。

笑って答えてくる。


「生徒手帳。落としてましたよ。西条 樹くん。きゃ、名前呼んじゃった!」

「えっ……」


チラッ。

コメントを見た。


"待て、今なんていった?"

"西条 樹って言ったよな?"

"【悲報】溝谷とSIJやっぱり嘘をついてた"

"こいつらグルだったんだ"

"あーあ。SIJはこれからユラッチファンに一生付け回されるんだろうなぁ"

"ユラッチんとこのガチ恋はやばいからなぁ"

"ご愁傷さま"


他人事のようにコメント欄は流れるけど。

俺にとっては他人事では無い。


ダラダラ。

大量の汗を流しながら山野の顔を見ると。


顔を赤くしていた。


「あの、連絡先教えてくれませんか?戦う姿に一目惚れしてしまったんです!」


"死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね"

"消せ消せ消せ消せ消せ消せ"

"うわぁ……(ドン引き)"

"山野も冒険者の中では結構ファンいたからなぁ"

"四方八方に喧嘩売ってくなぁ!?ナイトさんは"


ちょっ?!なんで俺が悪いふうなの?!

俺なにもしてないじゃん?!


「はい。生徒手帳」


固まっている俺の手に生徒手帳を押し付けてくる。

え、なに、どうしたらいいわけ。


てか、盛大に名前バラされたんだけどぉぉぉぉぉ?!!!!


「あれ?血が首まで垂れてる?」


なんだ?って思ったら。


ガポッ。

俺のカブトを脱がしてきた。


スゥっ。

空気に晒される俺の顔。


なにしてんの?この人……。

理解できない動作に反応すら忘れてしまう。


「やっぱり、ほっぺたをケガしてるじゃないですか……すごい出血ですよ?手当しないと」


スっ。

山野が俺の顔に手を当てて手当してこようとする。


チラッ。

目だけはなんとか動かせる。

おそるおそるチャットを見てみたら。


"はい確定"

"今度は同接60万。世界中に顔と名前が知られちゃったねぇ……"

"これは世界のSIJ"


ここでやっと頭が動いた。

やばい。


「ごめん、みんな。配信切る」


このまま顔を晒し続けるのはやばいと思った俺はとりあえず配信を止めた。

そこで、山野がやっと気付いたらしい。


「え、え?!まだ配信中だったんですか?」


どうやら、配信をしてないと思ってたらしい。

それもそうか、ダンジョン攻略配信はクリアルームに入ったらすぐに配信を切るのが一般的な流れだから、だ。だって、それ以上配信することがないから。


その上俺が疲れて演技をしてなかったのも見て、配信を終わったと思ってたんだろう。


すぐに終了しなかった俺の落ち度だ。責められない。

でも


「ごめん」


山野の手を払って離れる。


ピロン。


(メッセージ?誰から?)


メッセージアプリを開くと


田中:あぁ、なんだその。おめでとう、とは言わないことにするわ


そのメッセージを見て思う。

うん、深奥突破なんてどうでも良くなった。


「悪い。先に戻るよ。それと俺が言うのもなんだけど気にしてるようなら、別に気にしなくていいから」


山野にそう理って俺は転移結晶に触れる。


さすがに悪意のない行動までは責めれない。



転移先はギルドだった。

ここで溝谷と待ち合わせしていたから、なのだが。


「よっ。ナイト」


ニッコニコの笑顔でそう声をかけてきた溝谷。


なんか、やな予感がするよな?


「その呼び方はもう使わないんじゃなかったのか?」


笑顔のまんま溝谷はとある方向に指を指す。


そこには配信者っぽいのが山ほどいた。


んで、俺の方に近付いてくる。


「ナイトさん。自分は〇〇チャンネルの者です!深奥エリア突破について一言お願いします!」


溝谷に目をやった。


さっきから笑顔なのが気になってた。


こいつ、まさか。


「すまん、ごまかしきれずにポロっちまったわ。俺もこれで冒険者ランク下がったし、おいあこってことにしてくれ」


ピューっ!

そっこー走って逃げてった。


取り残された俺。

その後も動画投稿者に囲まれる。

質問攻めだ。


「ちょっ……」


うっそだろおおおおおおおおおおおお。

そう思ったとき。


パン!

ひときわ大きい音が鳴った。

どうやら手を叩いた音らしいけど。


それで静かになる動画投稿者たち。

助かった、けど。


音のした方に目をやると。


「げっ……」

「げっ、とはなんだ?」


何度も見たことのある女が立っていた。

見た目だけは日本人離れしたやつ、金髪ロングの


「ギルドマスターの天羽あまばねだよ。今回の件、それから今までの件も含めて全部、話を聞こうかな、同接60万のナイトこと西条くん。悪いようにはしないからさ?」


ねっとりと西条くんと口にした天羽。

あー……これ。


察した。


(逃げられないんだなこれ……)


俺は今日この日。

ナイトという呪いにかかった。


一生、ナイトとして過ごさなければならない、という呪い。


初めは小遣い程度になればいいと、軽い気持ちで始めた配信。


それがとんでもない形で俺をぶん殴ってきた。


軽い気持ちで配信を始めるのはやめようね!























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