第30話 話題になりすぎです
~世界冒険者機関~
歴代最年少、歴代で最も美しい、世界冒険者機関の局長と呼ばれたマリーは本部で驚愕していた。
異例の経歴を持つ彼女ですら驚くような報告が持ってこられたからだ。
「それは、本当なの?ジョニー」
「イエス。マリー局長。日本の冒険者イツキ サイジョーはレジェンドです」
「深奥エリアをソロ攻略?そんな馬鹿な……聞いたことがないわよ?そんなこと」
「本当です。自分がこの目で見ました。配信を始めた当初、深奥ソロは無理だと思って止めましたが、彼はすべてのボスを粉砕し称号を獲得しました」
マリーは口を抑えて吐き気を抑えるのに必死だった。
今まで冒険者の育成環境、その他もろもろ。
冒険者関係では一歩、いや二歩も三歩も遅れていたダンジョン後進国の日本にそんな化け物が存在したことに驚いていたのだ。
彼女の住むアメリカはダンジョン攻略においてはいつも最前線。
その自負があったのに。
それを否定するような少年が現れたのだから。
「ジョニー、オンラインで緊急会談を始めます。各国のギルドの最高責任者を招集なさい。もちろん、日本国も、ね」
「了解しました」
カタカタカタカタカタ。
ジョニーは世界各国に招集の連絡を送った。
そうして集合してくる世界各国の責任者。
中国、ロシア、韓国、インド、オーストラリア、フランス……と続いていく。そして、最後に日本。
「お忙しいところよく集まってくれました」
マリーは英語を話しているが、AIが自動翻訳して聞き手に届けてくれるので、会談に言語の壁はない。
当然、返事もまた英語。
「まったくアル。どうしたアルか。こっちはもう夜中ネ」
中国の責任者からの問いかけにマリーは本題を切り出す。
「日本からとんでもない冒険者が出現しました」
ザワザワ。
ザワザワ。
責任者たちから動揺の声が上がる。
「日本から?」
「日本って弱小だろ?」
「そのはず」
「局長、どれくらい強いんだ?その冒険者は」
局長が口を開いた。
「深奥エリアをほぼソロで攻略したようです……」
ザワザワ。
ちょいちょい。
ジョニーが小さく局長の肩を叩いて。
「配信を見せてあげましょう。彼らも納得するはずです」
そうして再生される深奥エリアのソロ攻略配信。
各国の責任者たちが口を揃える。
「ば、馬鹿な……」
「こんなことが……ありえるのか?」
「日本はダンジョン攻略で遅れを取っている。違うのか?!どうにか言ってみろ!日本人!」
日本の責任者が重く口を開く。
「話題のイツキ サイジョーですが、事実確認が取れていません。以前から日本では話題にはなっていましたが、プライバシーの問題などもあり調査ができていませんでした」
しかし、と続ける。
「現在彼が利用するギルドのマスターに事実確認をさせています。イツキ サイジョーの力が本物であれば我々日本は世界のトップに立てるでしょう」
「ば、バカなことを言うアルな。日本がトップ?笑っちゃうネ」
マリーには本能的に分かった。
中国はイツキ サイジョーを恐れている、と。
中国は現状ダンジョン攻略において最前線にいる。
つまり絶対的な自信を持っているはずなのに、それでも日本の冒険者が深奥エリアソロ攻略、というのは衝撃を感じるのだろう。
この日、高校生のたった一回の配信で世界の情勢は変わったのだった。
・
・
・
動画再生が終わった。
「というのが君がここに帰ってくるまでの短時間に起きてたんだけど。二時間くらいのわずかな間にさ、全世界が君に注目してるんだよ」
俺はギルマスの部屋に天羽に連れられてやってきていた。
んで、会談の動画を見せられていた。
「分かる?自分のやった事」
うん、俺はここでやっと理解したよ。
(やべぇことになってんぜ?)
事態が大きくなりすぎて、そんな言葉しか出てこなくなってきた。
今回の深奥エリア配信で、配信はやめようと思ってたのに。
取り返しがつかないところまできた。
「で、こんなもの見せてどうしたいの?」
「とりあえず事態の大きさを知ってもらって、さ。それから君に色々と提案がある」
ゴソゴソ。
汚い机の上から紙を取り出してきたギルマス。
この人絶対掃除出来ない人じゃん。
ピラッ。
よれよれの紙を俺に渡してきた。
「見てもらえれば分かるんだけど。ギルド公認配信者へのお誘い」
そう言われたので目を通すことにした。
日本ギルドの顔になりませんか?
ギルド公認配信者になると、お得な特典がたくさん!
・あなたはギルドの顔です。あなたへの感想や、イメージはギルドへの感想やイメージでもあります。
あなたが殺害予告をされたり誹謗中傷を受けたりした場合、ギルドに殺害予告をしているようなものです。
ギルドはすぐに、各種機関と協力して捜査を開始して、法的処置をとります。
これはギルドの総力を上げて行われます。
つまり過激なアンチはギルドの総力を上げて潰します。
ちょーこわい☆
これは過去のものにも有効です。
個人配信者として誹謗中傷などを受けていた場合、過去のものも捜査して潰します。
天羽ちゃんってば、チョーユーシュー。
・もしものことがあってはたいへんです。
見えるだけの誹謗中傷や殺害予告をする人物を取り除けても潜在的なものまでは取り除けません。不安ですよね?
そこでギルドはあなたのプライバシーの保護にも全力で取り組みます。
定期的な引越しの手伝いをしますし、住居はこちらで用意もできます。
ギルドの住居は安心安全。最新のセキュリティを使ってます。
不審者は門前払いなのです
・その他豪華特典が盛りだくさん!
・【目玉特典】今ならお姉さん系ギルドマスターがデートしてあげます。うれしいよね。
以上。
よろしく
一行で分かるまとめ
損はさせないから、黙って公認配信者になれ
ピラッ。
「読んだけど、なにこれ」
「ん?書いてる通りだよ」
「これ、正式な書類じゃないよね?」
「私がその正式な書類の本文を要約して書いた。堅苦しくて長いの読みたくないでしょ?A4用紙50枚読みたい?」
まぁ、そりゃ読みたくないけど。
ピッピッピ。
そこで端末を操作して俺に画面を見せてくるギルマス。
(なんだ?)
そこにはひとりの配信者が映ってた。
どうやら、部屋の中で配信をしてるらしい。
顔出し、とかはしてないけど。
「これ、イスナって配信者なんだけど。見てて、面白いことが起きるから」
タイトルは
【ナイトは殺害予告スルーする聖人。西条殺す。その10】
「こんなもの見せてどうしたのさ?」
と、見ていると。
『西条 樹を殺します。チキンレース楽しいな?』
俺の話をしてるようだったけど、そのとき。
コンコン。
部屋の扉がノックされて。
ガチャッ。
扉が開いて、そこに立っていたのは、警察?
『う、うわっ!なんだお前らは!』
『匿名掲示板に殺害予告を書き込んだ件と言えば分かるよね?恥ずかしくないの?子供相手に殺害予告って』
ドタバタ。
イスナという配信者はその後取り押さえられていた。
「この人さぁ。君の実名出して殺害予告とかして遊んでたんだって。捕まっちゃったねー」
他人事のように話すギルマス。
それから続けてきた。
「公認になればこういうことが毎日起きるかも?悪い人はギルドがどんどん捕まえるもん。ギルドと関係者への誹謗中傷は絶対許さないのです」
ニヤニヤしてる。
「なんでそんなに楽しそうなの?」
「え?悪いやつが制裁されるの見てて楽しくない?人生終わっちゃうんだもーん。ぷぷー。ざまー。アンチは駆逐してやる!」
今のを見て分かったけど、たしかに公認配信者になれば、きっちり守ってくれそうだな。
というより、
「なるしか、なさそうだな」
もう全世界に顔は知られたし名前も知られてる。
今更隠せるものでもないし、それなら実名で活動した方がいいと思う。
んで、ギルドに守ってももらおう。
もう俺は引き下がれないとこまで来てしまった。
「正式なの貸して、読むよ」
渡された書類を読むと、ほんとにメリットしかないらしい。
俺が損することはない。
炎上系みたいな配信者以外はなり得らしい。
「まさか、中抜きもされないの?」
「日本ギルドの顔だから、公認配信者がイヤがることはしないよ。冒険者のSランクみたいなもので配信者ってみんな公認になりたいくらいだよ?それくらい特別な存在」
やっぱりそうなんだ。
デメリットが存在しないんだな。
「分かった、なるよ」
俺の返事でこの話は成立。
(帰ろう。疲れた)
椅子から立ち上がったら天羽の声。
「オモテで待っててよねー」
「なんで?」
「え?お得な特典のデートしないと」
「いらないんだけど」
「えぇ?!ガーン!これが一番の目玉なのに?!天羽ちゃんチョーショック〜」
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