第38話 耐久配信の準備

登校すると、田中が近付いてきた。


「見てたぜ昨日の。お前まじですごいよな」

「そうか?」


俺としてはやれることをやっているだけに過ぎないんだけど。


「同接も昨日とんでもない事になってたしなぁ」


ペラペラと喋り始める田中。

こいつとの距離感はいつまで経っても変わらないよな。



今日の授業が始まる。

1時間目、図工室に移動した。


「今日は魔法道具作成の授業だぞー」


先生がそう言って魔法道具の作成の授業が始まる。


ガチャガチャ。

机に予め用意されてた材料を手に取って魔法道具、【ポーチ】の作成を進めていく。


「ポーチの作成方法は、分かるな?」


そう全員に聞いてくる先生の言葉を聞いてから作業を進めていると。


「イックン、分かんないよ」


由良さんが作り方を聞いてきた。


「なにが分からないの?」

「んー、ここ」


そう言って由良さんが指さしたのは


「あーっ。魔力の注ぎ方かな?」

「うん」


ポーチの作成に使われることになる材料の布は普通の布だ。


初期状態の耐久性、とかは全部一緒でそのまま作れば全員同じものが出来上がるんだけど。


実際には同じものができることは無い。


なぜかと言うと、作成するときの手順に自分の魔力を布に染み込ませるという作業があるんだけど、この作業で出来が変わってくる。


「ふぅ……」


息を吐いてから布を広げて、スーッと自分の力を浸透させていく。


説明しながらやっていく。


「全体的に自分の魔力を浸透させるようにしていく」

「うん」


食い入るように見てくる由良さん。

失敗したら嫌だなーとか思いながらそのまま続けていく。


「魔力が浸透したかどうかはなんとなく分かると思う」


言葉だけじゃ分かんないと思うけど、ほんとにこういうのって感覚でさ。


布に手を当ててたらどれくらい浸透してるかっていうのは分かるようになってる。


「分かった?」

「うん」


そうして魔力を浸透させて、後は口の部分を作って、紐で縛れるようにすれば魔法道具作成は終わりだ。


キュッ。


右手でアイテムポーチを握ってポーンポーンとお手玉みたいにして遊ぶ。


「すごい。速いよねー」


由良さんはそう言いながら自分のポーチ作成に戻る。

そのとき、


「西条くん?」


(この声、マドンナか)


そっちに視線をやるとマドンナが立ってた。

名前は知らない。


俺陰キャだからクラスメイトの陽キャの名前は覚えてないんだ。


「えーっと、なんの用かな?」

「私にも教えてほしーなーって。作り方」


そう言って俺の左に座って作業を進めようとするマドンナ。


逆側に座ってた由良さんが俺の裾を引っ張ってきたから振り向いたら


「んっ」


俺にメモを見せてきた。

そこには


浮気ですか?


って書かれてたけど。

俺別に由良さんとなんの関係もないよねぇ?!


ってか。


(さっきからクラスの男子たちの視線が突き刺さるような感じだよなぁ)


多分マドンナが来たからなんだけど。


(心を無にしよう)


俺はそのまま椅子に座って授業が終わるのを黙って待つことにしたんだけど。


5分後くらい。


「もうできたのか?西条」


驚いたような顔でそう聞いてくる先生。


「はい。できました」

「見せてみろ」


スっ。

作ったアイテムポーチを渡すと。


「さすがだなぁ。西条は」


とか言ってきてそれから


「でも耐久性とか、は大丈夫なのか?」

「授業レベルで考えると十分だと思います」

「西条は授業のこと舐めてる?」


別にそんなつもりで言ったんじゃないんだけど。


なんか呆れられてる?


「いいか?西条。Sランク冒険者だからって授業レベル、とか下に見てるんじゃないぞ?そういうところでだなぁ」


と色々言ってくる先生。


「別に下に見てるわけじゃないんですけど」

「じゃあどういう意味で言ったんだ?」


そう聞かれたので考えていたことを答える。


「ダンジョン内では授業みたいにひとつのアイテムを作るのに50分とか、長時間かけられません」


だから、無駄に高性能のアイテムを作るために無駄に時間をかけるとかっていうのは論外。


ダンジョン内じゃ時間は有限だからだ。


ひとつひとつの作業をすぐに終わらせる重要性がダンジョン内では高くなるわけ。


それを考えると


「無駄な性能は省いて、評価でも満点を取れると踏んだ結果のものです。粗悪品ではないと思っていますが」


さらに続ける。


「さらに高品質なモノも作れます。でも、それが状況を考慮した場合1番いいモノだと考えています」

「それは冒険者としての考え方、というやつか?」


頷く。


「はい。耐久性も十分にあります。ですのでそれで問題ないんですよ」

「だ、だがなぁ。西条?みんなまだ作ってるんだぞ?」


そう言った先生の言葉に答えたのはニーナだった。


「みんな作ってるからなんだと言うんですか?早く終わったら偉いでしょ?普通は」


ガタッ。

立ち上がって先生にポーチを渡すニーナ。


「私も完成しましたので、後は好きにしてていいですよね?」


そう言いながらニーナは端末を操作し始めた。


「ちょ、ちょっと?!」

「なんですか?ボーッと座ってた方がいいですか?時間の浪費、そうは思いませんか?」

「う、うぐぐ……わ、分かった。2人のアイテムポーチの耐久性を測る」


先生は俺たちふたり分のアイテムポーチを持って、ドリルを手にするとドリルの先端をポーチに向けた。


「これで破れたら作り直してもらうぞ?」

「「どうぞ?」」


俺とニーナの声はほぼ同時に響いて。


先生がドリルを回転させ始めた。

そして、ポーチに近付けたけど。


ガキン!

ポキッ。


ポロッ。

逆にドリルの方が折れて、床に落ちた。


「おぉぉぉぉぉっっっ!!!」

「すっげぇ!!!ドリルの方が折れたぞ?!」


俺たちのやり取りを見てた生徒たちから歓声が上がった。


「こ、このドリルはダイヤでできたドリルだぞ?!それが折れるのか?!」


ダン!

机を叩いていた先生。

どうやらこうなるとは思っていなかったらしいけど。


この授業の課題で満点を出そうとするとダイヤのドリルで破れないようにする、くらいは必須条件だったと覚えてるから、それくらいの強度は持たせてる。


「もう好きにしていても?」


そう聞くニーナに何も答えなくなる先生。

そのままニーナは端末でなにかをし始めた。


それからマドンナが俺に声をかけてくる。


「ねぇ!あぁいうの私も作りたい。教えてよ」

「別に、普通に作るだけだよ?」

「その普通が分からないのぉ」


とは言われてもなぁ。

チラッ。


残り時間30分。

ギリギリまで教えてみようか。




昼休憩。

屋上でニーナと話す。


「今日も行くのよね?オノコロには」

「もちろん」


ズコーっ。

紙パックのジュースを飲みながら答えた。


日本最高難易度のダンジョン。


俺もずっと行ってみたかった場所。

それにやっと行けるようになったんだから。


昨日試しに行ってみて分かったけど長丁場になりそうだよなぁ。

だから


「届け出、出してくるよ」


この前みたいにダンジョンに行くことを学校側に届けようと思う。

そうすれば公欠扱いになるから。


んで、完全攻略までの耐久配信ってわけ。


「ここから厳しくなると思うんだ」

「それはなに?海外の冒険者としての、カンみたいなもの?」

「うん。だから絶対に私の力が必要になる、と思う」


昨日のセリフを思い出す。


そういえば、言ってたよな。


「俺が君に助けを求める姿楽しみにしてなよ」

「絶対に言わせてあげるから、助けてジョニーって、さぁ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る