第37話 武器が落ちた

(ヤマタノオロチ、ねぇ)


今日は制服を脱いできて、ギルドの戦闘服を内側に着てる。


ダンジョンに入る前にリミッターを解除してある。


200%


それが、今俺が出せる力。

いつもなら、この機能は使わないけどね。


初めて挑むダンジョンの初めてのモンスターだからここまでしてる。


(とにかく、中に入ってみるか)


ドカッ。

ドアを蹴り開けてボスフロアの中へ入る。


"足癖悪いなこいつwww"

"でも、一応ダンジョンの中じゃこれくらいが一番いいけどね?手で丁寧に押す必要ないし。モンスターが来ても両手フリーなら直ぐに対応できるからね"

"へー。そういう意味があったんだぁ"

"あんまり意味無いことはしてないと思うよ"


中に入るとヤマタノオロチがすぐに俺に目を向けてきた。


「シャァァアァァア!!!!!!!」


8つの首がすべて俺を威嚇してくる。


さて、どうしようか。

と思っていたら


"般若ちゃん戦ってみてよ"

"ナイトが戦ったら勝つの分かりきってるからなぁ"

"たしかに般若ちゃんの力見たいー"


そんなチャットが増えてきた。


チラッ。

ニーナに目をやってチャット欄を見せた。


「私に?」


"うん。見てみたいな"

"ナイトに同行できる冒険者のレベルが見たい"


「いいよ」


そう言って手に持っていた杖を構えるニーナ。


"すっこんでろナイト"

"般若ちゃんの活躍を見とけ"


(ヘイヘイ)


まぁ、俺としてもニーナがどれくらいできるのかは、知っておいた方がいいと思っていたので少し任せることにした。


「シャァァアァァア!!!!!」


猛ダッシュで距離を詰めてくるヤマタノオロチ。


「パラライズ」


ビリリッ!


ニーナが麻痺魔法のパラライズでヤマタノオロチの動きを止めた。


"え?パラライズ?"

"雑魚にしか効果ないんだろ?これ"

"パラライズがボスに通った?"


ビリビリ。

痺れて動けないようなヤマタノオロチを見て口を開くニーナ。


「やはり日本はモンスターのレベルも低いようだね。パラライズこんなの海外のボスには効かないのに」


そう言ってから


「ポイズン」


"ダブルマジック?!"

"ふたつの魔法を同時に使うって高等テクニックじゃないのか?!"


「このまま一方的に蹂躙してあげるよ。ジャパニーズモンスター」


"つえぇぇぇぇ!!!!"

"さすが、ナイトに同行できるだけはあるな!"


「ここでモンスターが死ぬまで見ててあげるよ」


そう言ってるニーナだけど、俺は気付いてた。


(手が震えてるな)


プルプルプルプル……。

魔法を使ってるニーナの手が微かに震えてる。


この反応を見る限り強がってるだけなようだ。


剣に手をかける。


"ナイト?お前にもう出番ねぇぞ?"

"般若ちゃん強えじゃん。信じてないのか?"


そんなコメントが流れた、そのとき。


「あぐっ!」


バチィっ!


弾かれたようにニーナの体がうしろにすっ飛ぶ。


タッ!

ザン!


ヤマタノオロチが完全に動き出す前に、


8つの首を、一振で全て切り落とした。


ドボドボ。


落ちてくる首。


だけど。


パキーン!

俺の剣も折れた。


"剣折れとるwww"

"いろんなもん斬ってきた剣くんがついにお亡くなりになったwww"

"剣くん「もうついていけませんわ。こいつの武器になるのブラックすぎる。心も体も折れました」"

"安らかに眠ってくれ"


ポイッ。

折れた剣をその辺に投げる。


"不法投棄すなwww"

"ナイトの武器の末路は悲惨"

"これええんか?"

"環境破壊は楽しいからな"

"マジレスすると、ダンジョン内のゴミは時間経過で無くなるから問題ない。マナー違反じゃないし、みんなダンジョンにポイ捨てする"

"冒険者が消えた後に掃除するダンジョンくんのこと考えると(涙が)で、出ますよ"


まさか、ここで武器が折れるのは予想外だったな。

まぁ、予備があるからそれ使えばいいんだけど、そう思いながらニーナに近寄る。


"そういえば、般若ちゃんどうなったん"

"てかさっきのさ、ナイトの反応やばくね?"

"般若ちゃんが弾かれたくらいで走り出したよな?"

"え?じゃあこうなるって予想してたわけ?"


「うぐ……」


右手を抑えて起き上がってくる。


弾かれた時に壁にぶつかってたようだけど、その時に怪我をしたのだろう。


壁の方に目をやると、尖ったところに血がついてるし。


「Shi……ごめん。慎むべきだね」


何か言いかけたけど立ち上がってくるニーナ。


"今悪態つこうとしたよな?w"

"英語?"

"海外か"

"日本と海外を繋いだナイトさん。さすがっす"

"マジで世界のナイトじゃん"

"てか日本語うめぇよなぁ。海外の人と思わなかった"


ニーナも立てたようだし俺はそのまま歩いて次の階層に向かおうとした時。


キラーン。


(ん?)


ヤマタノオロチを倒した付近で何か光ってるのが見えた。

タッタッタッ。


駆け寄ってみると。


"なにこれ?剣?"

"おいおい、これあれじゃねぇの?!"

"ヤマタノオロチと言えばあれだよな!"

"おい、分かるか?ゴリラ"


「クサナギ?」


そう言いながら剣を手に取ると。


うん、そうだった。


【草薙剣】


と文字が剣に浮かび上がった。


"おーすげぇ。こんなんも貰えるんだなー"

"ヤマタノオロチ「武器折れたっぽいから新しいの用意しといたぞ」"

"ヤマタノオロチくん聖人すぎんか?"

"ちゃんと自分の負けを認めて報酬置いてから消える聖人ですわ"


前の剣の鞘とか全部捨てて草薙剣を装備。


うん、意外としっくりくるな。

西洋風の鎧に、草薙剣は致命的に美的センスは終わってるかもだけど。


さてと、ニーナに目を向けてから歩き出す。


するとコメントが来た。


"お前何様だよ。今いちばん大変な般若ちゃんに声のひとつもかけらんねぇのかよ!"

"ヒスゴリやめろ"

"勝手に般若ちゃんが吹き飛んでダメージ受けただけなんだよなぁ"


とか、そんなコメントを見て声のひとつでもかけてやることにした。


「ソコデマッテルカ?(そこで待ってるか?)」


ピクっ。


痙攣したように少しだけ体を動かして俺を見てくるニーナ。


「気を使ったつもり?こんなのへっちゃらだよ。それよりそっちこそ今ので疲れたりしてないでしょうね?」


ヤマタノオロチの話か。

あー、あんまり強くなかったよね。あれは。


「ハナシニナラナカッタナ(話にならなかったな)」


そう答えると、仮面から見える目が、キッと細くなった。


多分、この細かい変化は俺しか気付いてない。


「へー。いいじゃん。いいじゃん。そー来ないとね。ナイト?やる気出てきたよ。その口から素の声を出させてあげる。般若ちゃん助けてって言わせたげるよ」

「キタイシテイル」


"妹disれば簡単に中の人出るぞ"


こら、そこ。

そういうこと言うのはやめなさい。


んで、次の階層に向かおうとしたけど。


ピルルルルルル。


(電話?)


「ワルイ」


リスナーにヒトコト謝ってから電話に出ると。


『兄さん?バイトはいつまでなんでしょう?ハンバーグ作っておきましたけど』


なんでハンバーグ?と思ったけど俺の返事は決まってる。


「まじ?!すぐ帰るわ!」


"……"

"……"


コメント欄が沈黙を始めた。


ピッ。

通話を終えて、配信は。


「オワル」


"草"

"妹の前だけ中の人がすぐ出てくるなwww"


しばらくしてから配信を切った。

それからニーナに目をやる。


「ホライクゾ」


ワナワナ震えてて。


「へぇ、挑戦的だよね?ほんと。絶対に私の前じゃ余裕は崩さないって?」


般若の仮面を外したニーナ。

その素顔は必死に引きつった笑顔を浮かべてた。

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