第32話 今までと変わらない配信

『頼めるか?光坂への転入手続きは終わっている』

『イエス。この件は、私にお任せ下さい。日本に向かいますよ』


ジョニー?

お前日本に来るのか?


局長が口を開いた。


『あの強さは人間のものではない。おそらく日本が行った人体実験によって生まれた生物兵器だろう。ダンジョンができた当時は人体実験が行われていた。まだやっている国があるとはな』


はぁ?!生物兵器?!

俺が?!


そう思ってたらジョニーがとんでもないことを口にする。


『イエス。イツキは日本による非人道的な人体実験の犠牲者でしょう。核兵器と同じです、絶対に持たせてはいけません』


俺核兵器扱いされてんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!!!!

てかお前も俺の事信じてないの?!!!!


ちょっと、ショックだよなぁ。

ジョニーは信じてくれてると思ったから。


でもそれだけ俺が人間やめてんのかなぁ?とも思う。


てかさぁ。

この動画、日本に送ってきていいものなのか?!


『イツキ サイジョーがよく使うギルドのマスターにも話を通してある。彼女も協力してくれるそうだ。アマバネという。仲良くしておけ』

『日本に協力者がいるのですね。頼もしいです』


チラッ。

寝ているギルマスに目をやる。


こいつは敵なのか、味方なのか。


『彼女自身も確かめたいようだ。非人道的な実験の結果なのか、それとも努力の結果なのか』

『ちなみに局長はどう思うんですか?』


局長は真顔のまま告げた。


『日本はこれまで他国と比べて一歩遅れていた。その差を埋めるために人体実験をやったのだろう』

『……』


そのまま続ける局長。


まだ人体実験の証拠はある、と。


『なぜ、これまではイツキ サイジョーが目立たなかったか、分かるか?』

『いえ』

『日本によって隠蔽されていたからだ。隠されていたのだイツキ サイジョーは』


なにを言ってんだこの人達。


すっごい妄想だ。


『かわいそうに。彼がナイトとして配信を始めたのは我々WGOに人体実験を知らせるためだろう。助けを求めてるんだ。よって、余裕があれば保護してくれ。イツキ サイジョーを』


俺が配信を始めたせいで世界規模で大変なことになってるようだ。


てか。

WGO?

WBOじゃなくて?


『なるほど。さすがは局長です』

『あのデスボイスも聞くに耐えん。あの声は人体実験の結果、人格が破壊されて出てるものだろう。意思と反して』


俺はそこでもう、動画を見るのをやめた。


(あーあー。やばいもん見ちゃったよ。俺はただ配信をしてただけなのに、たいへんなことになってるよ)


これを見たことが天羽にバレたらきっと面倒なことになる。

黙っておこう。


んで、1時間後。


「うわ〜よく寝たわ〜」


やっと起きてきた。


きっちり1時間後に起きるなんてすごいよな、この人。

んでまさか、と思った。


(まさか、今のはなにかのメッセージだったのか?)


考えても見ればそうだ。

不自然だよな?


あんな動画が流れてるなんて。

あんな重要そうな動画、普通は垂れ流しにしとかないよな?


「わっ!」


そこでなにかに気付いたような顔をする天羽。

タブレットの方に目をやった。


それから俺に目を向けてきた。


「見た?」


俺と天羽の中で読み合いが発生する。

なんて答えればいいのか。


んでも、一番無難そうな答えを。


「なにを?俺はずっとここにいて、ゲームしてたよ」

「ほんとにぃ?」


頷く。


この天羽。

アホなように見えて意外と策士なのかもしれない!


昨日思ってた。

やけに馴れ馴れしい。


初対面の男をデートに誘ったりな?

あれも何かの作戦の一部だったのかもしれない。


(分からない。こいつの考えていることがまったく分からない!)


「いやぁ。良かったよ」


ホッと一息吐く天羽。


「WBOからさぁ。他言無用の極秘の資料が届いてたからさ。見られたかと思ったよ。あっ。やっぱ今のなし。何も聞いてないよね?!極秘だからね!」


分からない!

俺には!なにも!


こいつが何を考えているか、まったく分からない!

極秘のくせに、そんな資料が届いたことを口にするこいつの考えが分からない!


(これ、配信してたらリスナーがアドバイスくれたんだろうなぁ……。ジョニーたすけて)


あっ。ジョニーは敵(?)だった。


ゴクリ。


「ギルマス?俺への用事はもう終わり?」

「うん。SSランクに上げる手続きのために呼んだからさ。寝かせてくれてありがとねー」


そう言って仕事に戻ろうとする天羽に最後にひとつだけ聞くことにした。


「WBOってずっと言ってるけど、World・Boukensya・Organizationの略?」

「え?うん」

「そっか」


俺は頷いて外に出て。

ギルドのホールまで戻るとすぐにインターネットで調べた。


WBO 検索

ヒット0


世界冒険者機関 検索

世界冒険者機関とは世界ギルド機関を日本語呼びしたものです。略称はWGO。


WGO 検索

世界ギルド機関(WGO)とは~~



(覚え間違えてる……?)



その日の夜、この前攻略を中断した、Bランク昇格試験に使われるダンジョンにまた来ていた。


そこでやっとフードとサングラスを外して、鎧は……もういいや。


もうふっ切れたよ。


公認配信者になる以上は顔は極力出してくれ、って言われてるし。


そうして配信をスタート。


同接。

しばらく待つと。


10万まで増えていた。


"だれ?"

"鎧は?"


「説明欄に書いてるよ。ギルド公認配信者になったから極力鎧は着るなって」


"こいつから鎧奪ったらなにが残るの?"

"鎧が本体なのに"

"着ろよ鎧"

"鎧のないナイトってなんだよ"

"とっとと着ろー。ナイト出せよ"

"ギルドはほんと余計なことしかしないよなー。鎧剥奪とか。ただの配信者じゃん"

"こいつがよく使ってるギルドのマスター天羽だっけ?クレームつけとくわ"


「あの人忙しそうだからやめてやってくれ」


(そこまで言われるならやっぱ着た方がいいよなぁ。極力顔出ししてくれ、とは言われてるけど。絶対に顔出せとは言われてないし。基本的に自由にしていい、とは言われてるし)


ゴソゴソ。


アイテムポーチからこの前と同じ鎧を取りだした。


(念のため買っといて良かったー)


鎧を装備する。


「コレデイイカ?」


"帰ってきたwww"

"このさぁ。人外感がいいんだよなwww"

"中の人なんていない。いいね?甲冑が動いて喋ってんだよォ!"

"マントもちょっとダメージ入ってて厨二感溢れるわwww"


実はと言うと俺がこれをフルセットで買ったのはその辺もある。

ゲームの鎧みたいでかっこいいんだよな!

ちょっと破れたマントとかこう心をね、くすぐられるわ!


"前もまったく同じ鎧来てたっぽいけど、これ高いやつ?"


右手の指を2本立てた。


"ピースすな"

"写真撮ってんじゃねぇぞwww"

"なんのピースだよwww"


ピースじゃありません。


お値段です。


「フルセットニセンエン」


"セール品かな?"

"↑夜にスーパーで半額シール貼られてそうだよね"

"これ機能性あんの?"

"数十年前の骨董品だからないよ。それプラス在庫処分で格安なんだろ"

"今どき鎧なんて着るやついないもんなぁwww"

"軽量化に軽量化を重ねて機能性求めた装備が人気あるからな。「よよよ鎧で冒険www」って笑われるよ今じゃ"


俺もこの鎧を初めて買いに行った店じゃ、変なものを見る目で見られたのを思い出した。


買いに行ったのギルドの装備屋なんだけど。


ギルドの店員すらそんな目で見てくるほど、現代のダンジョン攻略において鎧は一般的じゃなかったからなぁ。


当時は俺もコレクション、というかコスプレみたいな感じで着たくて買いに行ったわけなんだけど。


まさかそれをこうやって頻繁に装備することになるとは思わなかった。


そんなことを思い出しながらダンジョンの入口に目を向ける。


(さて、そろそろ攻略始めますか)

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