第19話 さらば愛しの陰キャライフ

朝起きると田中から山のようにメッセージが来ていたが。

最後にあったのは


"とりあえず学校で待ってる"


との事だった。


「はぁ……バレたな」


夢ならば良かったのにな。

顔バレも身バレも全部夢ならば良かったのに。


そんな叶いもしないことを思いながら俺は家を出た。


「よっ」


最寄り駅に着くと改札で田中が待っていた。


「まぁ、なんだ。細かいことは聞かんよ」

「そうしてもらえると助かる」


なんて答えながらいつもの道を歩いている時。

ヒソヒソヒソヒソ。


「あれ西条先輩じゃない?!」

「うそぉっ!あれが?!」

「素敵〜」


女子生徒たちの声が微かにだけど聞こえてきた。

いつもなら聞こえないだろう声量なのに、はっきりと聞こえる。


それだけ俺の耳も意識してしまっているようだ。


「はぁ……」

「英雄じゃん?」


田中にはそう言われたけど、ちっとも嬉しくないね!

そのとき。前を歩いていた女子生徒が俺の方を振り返った。


そしてトコトコと歩いてきた。

わざわざ。


「西条くん、だよね?私3年なんだけど、良かったらID交換しない?」


首を横に振って何故交換が必要なのかを聞く。


「なぜ?」

「今ナイトが西条くんってことで有名でしょ?」

「知りませんよ。人違いですよ」

「え?」


先輩の横を通って学園の方に歩いていく。


「お、おい待てよ」


田中が追いかけてくる。


「めちゃくちゃ美人じゃねぇか?交換したらいいのに」

「別に。要らないよ」


そのあともたくさん話しかけられたが、なんとか教室まで辿り着いた、けど。


「おっす西条」


普段は絶対に喋らないであろうクラスの陽キャが挨拶してきた。

てか記憶にある限りだと今まで喋ったことがない。


「びっくりしたぜ西条、すげぇやつだったんだな。お前がナイトなんて。なんで名乗り出なかったんだ?」

「悪いけど、人違い。俺は何も知らない」


自分の席に向かおう。


でも、違うって否定したのに着いてくる陽キャ。


「なぁ西条」


その後もベラベラ話しかけてくる。

はぁ、始まったよ。


これだよ。

これが嫌なんだよなぁ。


俺が初めてSランク冒険者になったのは中学生のころ。

その頃はギルドから渡された腕章を着けていた、仮面も外して。


するとどうだろう。

めちゃくちゃ人が話しかけてくるようになった。

初めは嬉しかった。

俺の実力が認められたようでさ。


でもそれを繰り返すうちに段々うんざりしてきた。

ひとりでいたいときも、構わず話しかけてくる。


それで思った、ひとりでいたいんだから放っておいて欲しいってさ。


それで俺はいつしか腕章を外した、その後付けることはなくなった。

どこにでも居るようなモブの陰キャになりきった。


なのに昨日でそれは終わった。


「今度さ。他の学校の女子と遊ぶんだけど。来てくれないか?」


首を横に振った。


「悪いんだけど。興味無いんだよね。俺が行ってもシラケるだけさ」


そう言うと陽キャはやっと無駄だと悟ったらしい。


「そうか」


と言って去っていく。

そうしてクラス中が俺の話題で持ち切りの中で朝のHRが始まる。



昼休みになった。

クラス中の視線が気になる。


頭がおかしくなりそうだ。

現に今も


「あ、あの西条くん」


普段話さないようなクラスのマドンナの女子が俺の机の前に来た。

ほんとにうんざりする。


放っておいてくれないか?

お願いするからさ。


悪いんだけど君たちが俺に興味があっても、俺は君たちに興味無いんだからさ。

なんて思っていたら。


ザッ。


「西条くん」


顔を上げる。

げっ。


今度はクラス委員長の白田 梨花が立っていた。

カタブツ委員長の出現に先程の女子が離れていったけど。


(一番残って欲しくないのが残ったか!)


苦手なんだよなこの人。

めちゃくちゃ真面目で。


授業とか手を抜いてるとすぐグチグチ言ってくるし。

そのとき


「西条、メシー」


田中が来た。


『おはぽん!』


田中の端末からリカポンの声が聞こえてきた。

どうやらリカポンの動画を見ているらしいがそのとき、委員長が口を開く。


「田中くん。歩きながら動画を見ないで。危ない」


そう言われた田中だったけど。


「へーい、って。ん?」


自分の端末の画面と委員長の顔を交互に見た。

口を震わせて。


震える指先を委員長に向けて。


「あ、あれ。リカポン?」

「なっ……?!」


ビクッと反応する委員長。

それより。今なんて?


「え?リカポン?」


俺も驚きで口に出ていた。

田中が説明してくれる。


「え、あー、うん。リカポンって左目の下にホクロがあるんだけど、委員長もあるんだよ。それにプラスしてさ。顔似てない?」


そう言われ俺もリカポンの顔を思い出す。

あー。言われるとたしかに。


「似てるな」

「やべぇ!生リカポン!!!!!」


急に大声で叫ぶ田中。

その声でクラスの視線は委員長に向かう。


「え?委員長がリカポン?!」

「まじで?!委員長があの大人気配信者なの?!」

「うっそだー!!!」


そんな声がどんどん出てきて。

委員長は、顔を赤くして、


「そ、そうよ。だから黙ってて!」


配信中とはまったく違う声色でそう叫んだ。


それから委員長は俺に小声で話しかけてきた。


「ねぇ、西条くん。聞いての通り私はリカポンって名前で活動してる。君はナイト、だよね?」


無視しようかと思ったら端末を操作して。

動画を見せてくる。

その動画の中では3人の男が剣を持っている。


一番左が仮面をつけた俺、2番目はナイトの俺。

そして1番右は制服を着た俺。


この前の授業でカメラを向けていたのはこれを撮るためだったのか……?


それを全部再生して口を開く委員長。


「全部一緒の振り方だよね?この事から同一人物なのは確定だよ」


なるほど。

委員長だけはもっと前から俺の正体に気付いていた、ということか。


それでもあまり認めたくないけど。


「だとしたら?」

「今大変なことになってるよね」


そう言って委員長は俺に別の画面を見せてきた。

そこには匿名掲示板のまとめサイトが表示されていて


結局ナイト=西条 樹で確定か?


001 名無し

光坂のやつおらんのか?


002 名無し

同じクラスだけど顔の感じはめちゃくちゃ似てる


003 名無し

まじかよ。今日見に行こうかな?

現状日本最強言われとる冒険者のサインなんてめっちゃ価値あるやろ

貰いに行くわw


004 名無し

アイドルかよ


005 名無し

会いに行けるアイドルなんだよなぁ



「……」


まさかこんな大事になるだなんて思っていなかった。

しかもこのクラスの中にこんな書き込みした奴がいるのかよ!

とんでもねぇ。


「見てる感じこの状況をあんまり好ましく思ってないよね?」


委員長の言葉に頷いた。


さっさと元の陰キャに戻りたい。

教室の隅で寝ていて、それをクラスメイトに笑われるような陰キャに戻りたいんだ俺は。


「そこでなんだけど私と手を組まない?」

「手を組む?」

「うん。私とコラボして欲しい。その見返りにこの現状をどうにか打開したいと思ってる」

「信じていいのか?」

「そりゃもちろん」


頷く委員長。

どうやって打開するのかは分からないけど。


ワラにもすがりたい気分なのは確かだ。


「はぁ、まぁいいよ。それなら」


委員長がどうやってこの現状を変えようとしてるのかは分からないけど。


「よろぽん」


そう言って差し出してきた手を俺は握る。


「じゃあさっそくなんだけど。今日の放課後は空いてる?」

「空いてるけど」


そこまで会話したら昼休みが終わった。

席に戻っていく委員長。


はぁ……。

背もたれに深くもたれた。


もう授業なんて頭に、はいんない。


気付いたら放課後になった。


委員長が来るまで待っていると


「西条くん」


クラスのマドンナが本日2回目のおしゃべりに来た。

あーもうやだやだ。


帰ってくれないか?どうしても俺と関わりたいなら配信者とリスナーの距離でいいじゃん?


それで我慢してくれ。

嫌味っぽく笑って口を開く。


「俺みたいなやつと話すの楽しい?変わってるよね」


そう答えると


「西条先輩って、ちょっとダークだね!」

「分かるぅ!私もあんな風に対応されたーい!」


教室の入口から1年生だろうか?

そんな声が聞こえてきた。

なんでそうなるんだよ?


そう思いながら委員長のことを待っているとマドンナが口を開いた。


「西条くんと話すの楽しい!そのトゲトゲしい感じもゾクゾクしてたまんないのぉ!!!!!」


ズコッ。

余りに予想外の返事が来て椅子から滑り落ちた。


そんな事をしていた時だった。


「行こっか、西条くん」


委員長が俺の席の近くまで来た。


今こんな状態だけど。


俺の陰キャライフはいつ帰ってくるのだろうか。


早く帰ってきておくれぇ〜。


俺はぁ!目立ちたくないんだよぉ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る