第20話 考えちゃだめだ

コラボと言っても一緒に行動するわけではないらしい。


「ふぅ……」


深呼吸してとあるダンジョンの入口前に立つ。

ここはBランク昇格試験で使われる場所らしい。


リカポンが言うには「この難所をソロで突破して、やばいくらい盛り上げて実名ネタを忘れさせよう!」ということらしい。


っていうわけで、ここまで必死に顔を隠してやってきた。


案外バレなかった。


「でも、ほんとに配信して大丈夫かよ」


委員長はこう言っていた。


『ここでやめたら過激派とかはリアルで探しに来るかもしれないからあえて配信しよう。そうすることでリスナー達の衝動を少しは抑えられるかも』


との事らしいが。


はぁ。

たしかに俺に出来ることなんて黙って引きこもるか配信するかくらいだけど、さ。


配信の準備をしていく。


もちろん、鎧を装備。


ゴクリ、


「配信、スタート」


特に告知していたわけでもなかったが


"ナイトだけにグッドナイト。なんつって"

"寒っ"

"はぁぁぁぁぁ……"


配信スタートして数秒でコメントがつきだす。

今のところ名前について突っつく人はいないらしいな。


"よく配信できたな?この前は大分慌ててたようだけど"

"顔出しするつもりなかったんだろ?"

"その件で今やばいよなぁ。ネット"


チャットがどんどん更新されていく。



¥5,000

高三です!

お小遣いでスパチャします。

タイプの雰囲気です。頑張ってください。


¥10,000

素顔見せてー

リアタイで見たいー



見せるわけないんだよなぁ。

なんて思ってたら



ユラッチ:ナイトに素顔なんてないよ?(´꒳`甲冑が動いて喋ってるんだよ( ˙-˙ )



ユラッチはどうやら俺の味方でいてくれるらしい。


"そう言えばナイトはリアルバレたのにユラッチがバレる気配すらないのはなんなん?"

"活動長いのに学生以外の情報出てこないよなこの人"

"マジで謎。プライベートの盗撮とかないもんなユラッチ"


話題はユラッチから俺に戻った。


どうしても読んで欲しかったのだろう。

そのコメントはスパチャだった。



¥1000

ナイトは深奥エリアは行かないの?

海外じゃ前から噂だったけど、最近日本でも発見されたんだって。

行ってほしい。



深奥エリア。

噂には聞いたことあるな。

俺たちが普段行くダンジョンは通常エリアと呼ばれている場所。


んで、ダンジョンの中には一番奥までクリアしたら更に難易度の高い深奥エリアと呼ばれるマップが広がってることがあるらしい。


ちなみに先日のドラゴンは深奥エリア、ではない。

あれはただの隠しボスだった。


だから俺は深奥エリアには行ったことがない。

行くつもりもないけど。

高難易度マップなんて時間的に無理!


「ヨテイハナイ(予定はない)」


難易度が上がるし、ちょっとした空き時間で行ける物じゃない。

そこは本職の冒険者が行けばいいだろう、と思う。


さてと、答えたところで。

俺は立ち上がっていつもの場所、頭の後ろにカメラを固定。


「カイシスル(開始する)」


"たしかリカポンとナイトで同じダンジョンを別のルートで攻略するんだっけ?"

"そうらしいよ。ナイトは難易度の高い方、リカポンは低い方行くってさ"

"流石にナイトが勝つか?いや、でもリカポンも強えからな結構"


ダンジョンの入口に入っていく。


ダンジョンの通路を進む。


しばらく進むと


"本名で配信やればいいのに"


チャットがきた。


やるわけないだろ……。

なにかやらかした時のリスク高すぎるんだもん。


あとあれ。ユラッチのガチ恋に殺されそうで、怖いよなぁ?


"本名でやってる人割といるもんなぁ冒険者だと。こんなに強いのに、もったいない"

"だよなぁ。Sランク冒険者ってだけでみんなチヤホヤすんのに、その中でもずば抜けて強いんだから、モテまくりだろ?"


なんていうふうにコメントがどんどん更新されていくが、それ系統はすべて無視していくことに決めている。


とにかくいっぱい配信して。

本名ネタはもう風化させていく。


リカポンとはそういうふうに決めている。


と、そのとき。


前からエネミーが近寄ってきていた。


それは幽霊のようにボーッと透けていた。

それで空中浮遊している。


それを見たリスナーが反応する。


"うわ、ゴーストじゃん"

"ナイトどうやって倒すんだ?"

"ゴーストって物理一切効かないんだろ?"


そんなコメントが流れる中。


「フム」


考える。


ゴーストというのは珍しいモンスターで俺もあまり会ったことがない。

だからそもそもの戦闘経験がないのだが。


今後出てきた時の対策も必要か。

そう思った俺は剣を抜いた。


"剣でやるつもりか?"

"物理効かないんだって"

"馬に念仏。ナイトにアドバイス"


そんなチャットが流れる中俺はゴーストに近付いた。

そして剣を1振り。


スカッ。


"やっぱ無理か"

"ナイトが唯一負けたのがゴーストなのか"


なんて会話が聞こえてくる中。

攻め方を変えてみよう。


「クウカンギリ(空間斬り)」


ザン!

俺は空間を斬り裂いた。


俺の目の前にはポッカリと開く穴。


"何だこの穴?"

"えぇ……?なにこれは"


俺が黙って見ていると。

スゥゥゥゥゥゥ……。


ゴーストはその穴に吸い込まれていく。


"え?"

"穴に落ちた?"

"誰か解説してくれ"

"そもそも空間斬りイズなに?"


そのとき


リカポン:びっくり!空間斬り使えるぽん?


リカポンはどうやら知っているようでコメントしてきていた。


"え?なにいまの?リカポン説明してよ"

"解説求む"


リカポン:空間斬りはねぇ。魔法みたいなものぽん


"は?"

"魔力使ってないっぽいのに魔法なの?"

"?????"


リカポン:うん。剣術の極地ぽん。リカポンも見るのは初めてだけど、いわゆる達人とかって呼ばれる人は、木の枝で鉄を斬ったりできるんだけど、ナイトは剣で空間を斬り裂いたぽん


"え?"

"日本語でおk。空間を斬り裂く?"

"どゆこと?まじで"


リカポン:要するに、ナイトはワケわかんないことができるってことぽん!



リカポンはついに説明することを放棄したらしい。

まぁ仕方ないだろう。


(正直俺もこの技の理屈分からんしなぁ)


剣を振り続けていたらいつの間にか習得した技だ。

毎日剣を振っていた俺はいつしか今みたいに空間を切り裂けるようになっていた。


そしてその斬り裂いた空間は目の前の敵や物、魔法を飲み込んでいく。

それだけは知っていたので、ゴーストはどうなのだろう?と思い試してみたら、吸い込まれた。


リカポン:ワケわかんない相手には、ワケわかんない技をぶつけるんだよ!ぽん!いいから考えるのをやめるんだよ!みんなで脳筋になれば解決!


"なるほど。訳わかんないでいいんだな(脳死)"

"もう考えるのやめます"


「ソレデイイ。オレモワカラン(それでいい。俺も分からん)」


"お前も分かんねぇのかよw"

"【悲報】今のを説明出来るやつ0人"

"使った本人すら理解してないのかよ"


そんなリスナーの反応を見ながら俺は思う。


(さて、ウォーミングアップは終わりだな)


そうして俺は次の階層へ続く階段の前に立った。


ヒュォーッ。


そんな不気味な音が聞こえる不気味な階段が目の前にある。


"こっからだよな。真の問題は"

"ボスラッシュなんだっけ?"

"そうそう。このダンジョンの難易度高いルートはボス3連戦"

"キメラ→スケルトンキング→ヒュドラ。この3連戦やな"

"全部強いボスだな"

"普通にメンツの殺意が高いんだよな"

"果たして西条 樹はクリアできるのか"

"西条 樹ってだれ?"


"西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹西条樹"

"光坂高校2年光坂高校2年光坂高校2年光坂高校2年光坂高校2年光坂高校2年光坂高校2年光坂高校2年"


なぁ、リカポン。

この実名の流れ、本当にどうにかなるんだろうな?!

悪化する気しかしないんだけど?!


と、そのときコメントが増えた。


"間違えた、訂正。最後のはヒュドラじゃなくて、スモールドラゴンだった"


ドゴォッ!

気付いたら右手で真横の壁を叩いていた。


パラパラ……。

砕けた壁の欠片が落ちていく。


「殺すぅ!全滅させてやる。1匹残らず。根絶やしだ」


"あの件やっぱ気にしてんだな"

"演技忘れるって、マジ怒ですやん……w"

"顔バレの罪は重いな"

"ドラゴンさん今すぐ逃げてください"

"どらごん?今、西条さんから指名が入ってます。すぐ来れますか?"

"行ったら死ぬんだよなぁ"


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る