学校で俺をいじめてくる奴をダンジョン内でボコったら、いじめっ子が有名な迷惑系冒険者だったらしく、俺は異様に持ち上げられてます。それからいろいろあって配信始めたらバズりました

にこん

第1話 いやな奴

「あぐっ!」


ドカッ!

バキッ!


校舎裏でひたすら殴られていた。


「げほっ!」

「おらっ!おらっ!金は持ってきまちたかー?西条くぅん」


俺は蹴られた腹を抑えながら頷いた。


「も、持ってきたからもう許して……」


ポケットの中から俺は財布を取りだした。


バシッ。


ひったくるように取った高島は、財布から札を抜いて数えていく。


「ひぃーふぅーみぃー。しけてんな」


ドサッ。

中身を抜き取って財布を投げ返してくる高島。

その横にいた取り巻き2人が笑っていた。


「高島さん。今日もしけてますねぇ西条の財布は」

「ほんとにな。3000円で我々になにをしろって言うんだろうなぁ?西条くんは。はっはっは」


俺の髪の毛を掴んでくる高島。


「なぁ、西条。明日は3万持ってこいや。じゃなきゃ、もっと殴るぜ?」

「や、やめてくださいよ」

「聞こえねぇなぁ?」


バキッ!


殴ってきた。


「返事をする時は、はい、又はYESで答えましょうって教えたよな?」


バキッ!


また俺を殴ってきた。


そして胸ぐらを掴んできた。


「いくら持ってくるか選ばせてやるよ?西条。俺の腕を指でトントンってしてみ?持ってくる金額分トントントンってな」


トントントン。


「さ、3万用意するよ」


バキッ!


「5万だよ、5万。分かりまちたかー?」

「ご、5万は……」


バキッ!

また俺を殴りつけてきた。


「口答えすんじゃねぇよ。5万だよ」

「……は、はい」


にんまり。

笑顔になる高島はやっと俺の髪の毛を掴むのを辞めた。


「じゃ、よろしくなぁ?西条くぅん」


ゲラゲラ笑って三人が去っていった。


その道中であいつらは話していた。


「高島さん今日はダンジョンに行きましょうよ。例の配信者が来るらしいですぜ」

「マジかよ?なら俺たちの知名度も上がっちまうかもなぁ」


そんなよく分からない会話をしながら去っていった。


それを見送ってから立ち上がる。


「げほっ。」


ふらっ……。

殴られすぎて意識が薄れそうだ。


でも


「やばい。速く帰らないと……」


時計を見る。

午後5時。


あの子が心配する。


そうしながらボソッと呟いた


「死ねよ……あいつら全員。ダンジョンでモンスターに食われたらいいのに」


高島は良いとこの息子って聞く。

だからやりたい放題。


俺が学園とかに報告しても、もみ消されるだけ。

仮に俺が反撃して勝ったとしても俺が悪者にされるだろう。


世の中って厳しいんだよね。


俺じゃ、なにもできない。

だから


「モンスターにやられて死ねばいいのに」


今はこうして呪うことしかできない。



帰り道。

スーパーに立ち寄った。


「これもいつまで気付かれないかな?」


俺はカツアゲ用の財布と普通の財布を使い分けていた。

今日取られたのはカツアゲ用の財布。


その中には3000円しか入れていない。


だから普通の財布の方にはまだお金が入っている。


1000円だけど。


「何か買えるかな……」


そんなことを思いながらスーパーを歩く。


(あんまり安くなってないか)


流石に時間が早いからかそこまで安くなっていない。

どうしよう。


そう思いながら3割引のシールが貼ってあった刺身が目に入る。


(ユカはそういえば刺身好きって言ってたよな)


600円の刺身セットが3割引。


(いくらなんだろう?もう計算するのも、めんどくさいな)


殴られすぎてフラフラで計算もできなくなっていた。


「ま、いっか。ユカの笑顔見たいな」


そう思った俺は刺身を手に取ってカゴに入れて歩く。

自分は何を食べよう。


「これでいっか」


俺は200円のスカスカの弁当を手に取った。


レジで会計を済ませて家に帰る。


鍵を開けて。

ガチャ。


扉を開けて家の中に。


「ただいま、ユカ」

「おかえりなさい。イツキ兄さん」


ユカの声が聞こえてホッとしながら中に上がる。


こうしてユカと2人で過ごす時間が俺にとってなによりも癒しの時間となっていた。


「今日はユカの大好きな刺身を買ってきたよ」

「ほ、本当ですか?!兄さん?」

「高かったんだ。味わってね」


ゴトッ。


席に着いたユカの目の前にパックを置いてあげた。


そのときに思う。


(高島が死ねばこんなものいくらでも買えるのにな……あいつさえいなくなれば……)


「ありがとう兄さん」


ユカは改めて礼を言って刺身を食べていく。

その姿を黙って見つめる俺。


見つめてると彼女が聞いてきた。


「半分こしませんか?」

「いや、いいよ。遠慮、とかしなくていいからさ」

「そ、そうですか」


そのとき、テレビのアナウンサーが話す。


「Sランク冒険者の溝谷さんにインタビューしてみました」

「溝谷さん?!」


そう言って反応を示すユカ。


「ユカは好きなんだね溝谷が」

「は、はい!かっこいいじゃないですか。日本最強と呼ばれている冒険者ですし」


そこで気付いたように訂正する。


「ご、ごめんなさい。イツキ兄さんの方がもっとカッコイイです」

「無茶しなくていいよ?俺じゃ溝谷には勝てないよ」


妬けてしまうけどそれが事実。

俺は顔も溝谷には勝てないし、実力でもそう。


溝谷に何一つ勝ってるところがなかった。


「無茶じゃありません。私はイツキ兄さんは世界で一番カッコイイと思ってますから」

「ははっ、ありがとう」


そう答えて俺も弁当を食べ始めた。


食事も終わって数時間後、時刻は20時くらいになっていた。


「ユカ、ごめん。今からバイトがあるんだ」

「ご、ごめんなさい。兄さん。兄さんにだけ負担を」

「いや、いいんだ。ユカの幸せが俺の幸せだからさ」


そう答えて俺は部屋の隅に置いてあったリュックを手に取った。


「それじゃ行ってくるよ」

「お気をつけて」


バタン。

扉を閉めて俺は夜の街に繰り出していく。


コンビニを通り過ぎ本屋を通り過ぎ、居酒屋を通り過ぎて。


「着いた」


俺は目の前の建造物を見上げた。


「ダンジョンナンバー3。ミノスの塔、か」


俺は呟いてその塔の近くのトイレに入っていく。


この塔が俺のバイト先ってわけ。


バイトと言ってるだけで中身は全然バイトじゃないけどね。


トイレの中でリュックの中に入れていた黒いローブを身につけて剣を手に取って。


「行きますか」


トイレを出て塔の方に向かう。


何かいいお宝とか鉱石とか取れるといいな。


その道中。


(ん?)


俺の視線の先には


(なんでここに……)


見たくないものが映っていた。


「高島さん今日もいっぱい活躍してしまいましょうよ」

「そりゃ、そのつもりだぜ?おい、ちゃんと配信機材持ってきたろうな?」

「ばっちりですぜ高島さん」


そう言ってダンジョンに入っていく高島たち。


思い出した。

なんかダンジョンに行くとか言ってたけど


「よりによって、ここかよ……違うダンジョンにするか……?」


チラッ。


時間を確認してみた。


「いや、ここじゃないと間に合わないな」


渋々俺はこのダンジョンに向かうことにした。


ユカのためにも俺はダンジョンに向かって金を稼がないといけないのだ。


(あの子は俺が守らないと)


俺とユカには親がいない。

そんな状況で俺達が周囲に頼らずに生きていけるのは、俺がダンジョンに潜って金を稼いでいるからだ。

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