第13話 初めてのソロ配信
「おかえりなさい兄さん」
家に帰るとユカに出迎えられたが
「悪いユカ。バイトだ」
「お、お気をつけて」
寂しそうな顔をしている。
でもお兄ちゃんを許してくれ。
荷物を投げ捨てるように置くと俺は直ぐにまた家を出ていった。
「よし」
目的地に付いた俺は早速準備を進めていく。
バズってしまったのは完全に予想していなかったことだが。
「伸びている内に稼がないとな」
なんだってそうだけど伸びてる時が大事だ。
これが何年も続くかもなんて思わない。
だから今広告収入で稼げるだけ稼ぐ。
稼げるだけ稼げたら後は適当なタイミングで消えればいい。
これから数年暮らせるだけの額が稼げたのなら、高校卒業後は冒険者になればいいし。それでなんとでもなる。
「ふぅ……」
鎧OK。
身バレの心配も無さそうだ。
よし、
「配信、スタート」
俺が配信ボタンを押すと告知などしていないにも関わらず直ぐに同時接続が増え始める。
そしてチャットもすぐにくる。
"ナイトの配信きた!(๑•̀ㅂ•́)و✧"
"待ってたー"
"初見"
「フー……」
深く深呼吸してから俺はダンジョンの中を進み始めた。
極力コメントは読まないつもりだ。
またお前は黙ってろと言われそうだし。
チャット欄にはあんまり目を向けずに歩いていたが。
"学生ってまじ?"
書かれると思ってたコメントが目に入ってしまった。
田中に聞いた話だが既にナイトという配信者が光坂高校の人間というのはネットを通じて広く知られているらしい。
"ネットじゃ学生説濃厚だよなー"
"てかほぼ確定だよ。あのペン最近配られ始めたものらしいから持ってるのおそらく学生だけ"
"教師とかは?"
"こんだけ強いならわざわざ教師なんてやらず冒険者になるだろ。めっちゃ稼げるしチヤホヤされるのにw"
"学園の中じゃ特定されてたりすんのかなー?"
"流石にまだなんじゃないか?"
まぁ、そりゃそうだよな。
一日で特定とかされたら俺の今までの身バレ防止の苦労はなんなのか聴きたくなる。
"でも、一応ネット上では『坂本 コウタ』が本名みたいに書いてるとこもあるけど"
坂本?知らない奴だな。
全然違うけど誰かがなりすまそうとしたのだろうか?
まぁ、俺にとっては都合のいい話だな。
だって、俺は正体をバレたくないし。
そのときだった。
ナイト様に踏まれたい
¥50,000
活動資金にしてください。
赤いチャットが見えた。
そういえば一人の時にスパチャされるのは初めてだな。
他の配信も見てるから知ってるけどみんなコメント読みあげてそれから投げ銭にお礼を言ってたな。
「サポートカンシャスル(サポート感謝する)」
返事をするとチャットがどんどん更新される。
"この声ゾクゾクするなぁ"
"なんか地の底から響く感じ?"
"今までにないタイプの配信者だよなぁw"
しばらく歩くと中ボス部屋の前に来た。
チャットが盛り上がりを見せ出す。
"お、中ボス部屋じゃん"
"相手だれだっけ?"
"ここの中ボスだとミノタウロスじゃなかったっけな"
"ミノタウロスはボスじゃなくて中ボスなのか?!"
"それだけ難易度の高いダンジョンってわけよ"
そんな会話がされていた。
なるほど。
ここのダンジョンは俺の庭程度に思ってたけどそんなに難易度の高いダンジョンだったんだな。
世間とのズレをここでやっと実感できた。
ギィ。
扉を押して中に入ると
「ブモォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」
俺を見るなり直ぐに突撃してくる。
"本日の最初の犠牲者です"
"ミノタウロスさんに黙祷"
"さよならミノタウロス。お前は強かった"
そんなチャットが見える中俺は納刀状態の剣の持ち手に手をかけ
「イアイギリ(居合切り)」
居合切りで振り抜いた。
スパン!!!!!
振り抜いた瞬間勝負は付いた。
ドォォォォォォォン。
沈むミノタウロス。
静かになるフィールド。
それからチャットは真逆に盛り上がりだした。
"出たぁぁぁぁあぁぁ!!!!ナイトのワンパン"
"ミノタウロスすら一撃とかほんと頭おかしいわ(褒め言葉)"
"なにを食べたらこうなるんだろうな?"
"冥界出身説出てるし冥界で悪魔でも食べてきたんでしょ(適当)"
"こいつ冥界の王ハデスすらワンパンしてそう"
"それは草なんよ"
"ハデス逃げて!悪魔が来る"
「フー」
討伐完了。
チャット欄が盛り上がってるししばらく落ち着くまで休憩しよう。
この部屋の中にあった岩に腰を下ろそうとした時
"素材回収せんの?"
"ドロップ拾ってないよー"
"アイテムドロップしてるよー"
そんなチャットが流れてきた。
そのことか。
これからも言われそうだし説明しておくか、と思ったらチャットで説明してくれてる奴がいた。
"証明書関係じゃない?高レア素材は自分が討伐した、とかきちんと自分が回収した素材だってことを証明する必要があるんだよ"
"書けばいいじゃん?ミノタウロスの素材は最低でも1万はいくでしょ?"
質問にそいつは代わりに答えてくれていた。
"学生の身ならめんどくさいんだよそれが。学生が高ランクダンジョンに向かう場合、本来ギルドから認められた同行者が必要になる。んで、学生が証明書を書く場合その同行者のサインも必要になる。それがなければ素材を買取してくれないんだよ"
"同行者付ければいいじゃん?"
"予約制なんだよ。数週間待ちとかだぞ?しかも向こうも商売だから金も必要になる"
"知らなかった"
「ダイタイソンナトコロダ(大体そんなところだ)」
俺は今の話を肯定するように呟いた。
証明書無しで売りに行くと偽造品を疑われることもあるし。
それであちこちタライ回しにされたことあるから、それから高レアアイテムは持ち帰っていない。
"じゃあこのアイテムここで捨てていくしかないって訳か"
"もったいねぇ"
"1万円がー"
俺だって嘆きたいけど、仕方ないんだよな嘆いたって。
どうにもなんないことだし。
"でも今ので学生って認めたよな?こいつ"
"たしかにw"
あっ。
そう言われて気付いた。
またやっちまったよ。
まぁ元々学生説はほぼほぼ確定してたようなもんだし諦めるか。
再度チャット欄に目を向けると
リカポンファン
¥500
リカポンとコラボするってまじ?
マジなら楽しみすぎる
「ナンノハナシダ(何の話だ)?」
リカポン?
あの大手配信者のリカポンだよな?
なんでいきなりその話が?
と思っていたら
"え?知らないの?ナイト?"
"リカポンが自分の配信でナイトのこと特定したみたいなこと言ってたよ?"
"それで近々コラボ申し込むみたいな話してたけど"
(なんだそれ全く知らないんだが)
ちょっと考えてみたけど、頭の中が疑問で埋まる。
まぁ、今ここで考えても答えなんて出ないか。
さて。
休憩を終わろう。
それと今日はもうここまでにしよう。
時刻はもう10時くらい。
明日に響くしな。
「キョウハココマデニスル(今日はここまでにする)」
俺がそう言うと
"え?もう終わり?"
というチャットで溢れたので。
「イモウトヲマタセテイル(妹を待たせている)」
そう言うと
"その見た目でい、妹思いかよwww"
"配信中断の理由が妹かよwww"
"そこはナイトっぽく『鍛錬』とかでいいだろwww"
"まさかのシスコンwww"
そんなチャットで溢れた。
確かに適当な理由でよかったかぁ。
地獄に行ってくるとか言った方が盛り上がったかもしれないな。
配信を終わろうとすると最後にチャットが見えた。
"やっぱ妹もナイトみたいにゴリラみたいなの?"
むっ。
そんなわけないだろ!
「妹はめっちゃかわいい。正直彼女にしたいくらい可愛いし結婚したいとも思ってる。とにかく可愛くて可愛くて目に入れても痛くないし、あと性格は天使だね」
とか言ってから気付いた。
俺はなにを話してんだ?
ユラッチにも言われたじゃないか。
あんまりプライベートのこと話すなって。
"やば、こいつほんとすこだわwww"
"【悲報】ナイカスさん重度のシスコンだった"
"やべぇなこのシスコンwww妹さん逃げてwww"
"どんな時も演技してるのに妹の話になった瞬間、素に戻るの面白すぎるだろwww"
「ト、トニカクコレデハイシンハオワリダ(と、とにかくこれで配信は終わりだ)」
俺は冷静さを取り戻して配信を停止した。
ふぅ、今日はもう帰るか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます