第22話 俺はフリー素材じゃありません
「おいおい、やべぇことになってんぜ?」
田中がいつものように話しかけてきた。
言われなくても俺が一番理解してる。
エゴサまではしてないから見える程度のことだけど、それでも十分に現状のやばさは伝わってくるけど、田中から話された内容は予想を遥かに超えていた。
「お前の小中の卒アルの写真とかも全部出てるわ。あと動画も作られてるぞ。ネットは無法地帯になってる」
んで、田中は俺にどんなものがあるのかを見せてきた。
【ヤンデレの妹に死ぬほど愛された西条さん】
【西条さんが死にゲーをやるようです】
こんな動画がズラーっと並んでる。
なぁ?
俺に人権は無いわけ?
配信者になっただけでフリー素材みたいになってるんですけどぉぉぉぉぉぉ?!!!!
心の中で叫んでたら
「西条くん昨日は途中でやめてごめんね」
委員長が話しかけてきた。
「昨日チャットしてきてた人いたでしょ?私のとこにも来ててさ。それで、どうしても西条くんの手が借りたいから切り上げてくれって話をしてたから……さ」
とのことらしい。
まぁ、ちょっとヤバそうな奴だったし
「気にしないでよ」
「ご、ごめんね」
謝って自分の席に戻っていく委員長。
そんなこんなで一日が始まり2時間目が始まってすぐ。
「教室を移動するぞー。今回は実技だから必要があれば、ダイヤルを回しておけー」
その言葉を聞いて制服の胸につけられた校章バッジをいじった。
実はダイヤルになってて、回せば魔力などの出力を制御する機能がついてる。
魔力を増大させたりできる……んだけど。逆もできる。
デフォルトでは100%。つまり自分の全力を出せるようになってる。
カチッ。カチッ。
(授業レベルだと15%でいいか。それにしてもみんなはいつもどれ位で調整してるんだろうね?聞いたことないな)
調整も終わって教室を移動しようと扉の前まで来たら
「困ります。……様。お待ちください!手続きがまだ……」
「さっきも言ったろ?急ぎなんだよ!説教ならあとで聞く!今はあいつしか頼れねぇんだよ!」
廊下からかすかに声が聞こえてきた。
(なんだなんだ?喧嘩でもしてんのか?)
そう思いながら横にスライドさせて扉を開けたら。
目の前には男の顔。
「西条 樹、だな?」
シュバッ!
ガッ!
男が急にナイフを突き出してきたので、俺はそれを手で掴むことによって防御。
(誰だこいつ、知らないけど。とにかく、制圧が先だな)
ガッ!
グルン!
足を蹴り飛ばして男を宙で一回転させてから、拘束して組み伏せる。
カラカラ。
持っていたナイフが転がっていく。
壁に当たって刃が柄の中に引っ込んだ。
(おもちゃ?)
「げふっ!ま、待てって!今のはタダの力試しさ」
指示を聞くために先生に目を向けようとしたけど。
その瞬間、男が言う。
「噂通りの実力だな、約束通り迎えに来たぞ。西条」
それで記憶がフラッシュバックした。
そうか、こいつか?昨日スパチャしてきたヤツは。
まさか、本当に迎えにくるとは思わなかった。
ザワザワ。
教室中が騒がしくなる。
「えっ?!今迎えに来たって、言った?!」
「昨日の配信で迎えに行くとか言ってた人いたよね?!じゃあやっぱりナイトは西条くん?!」
「今まで否定してたけどやっぱり確定なんだ?!」
組み伏せた男を睨みつけた。
状況が余計に悪化した。
「はぁ、余計なこと言ってくれたなぁ……」
「おっと、隠してたつもりなのか?悪いことをしてしまったな」
まったく悪びれる様子を見せない男。
そこで目の前に陰が落ちたのに気付いて顔を上げると校長。
顔は青ざめていた。
「て、手を離してください。西条くん……そのお方は……大事な客人ですので」
客人?こいつが?
そう思いながらここでやっと拘束していた手を離してやる。
「Sランク冒険者の溝谷様です。も、申し訳ございませんでしたぁぁぁ!ごゆっくり!」
校長は顔を青ざめさせて走っていった。
溝谷は立ち上がると口を開く。
「ホントに強いなお前、そこで話がある」
「用件はなに?授業中なんだけど」
そう聞くと他には聞かれない方がいいのか小声で話し出す男。
「山野パーティが深奥エリアに向かって行方不明になった件は知ってるか?」
昨日急上昇してた動画で知ったので頷いた。
「今ギルドでその件が騒がれていてな。山野パーティは有能なパーティだ。それで現在救援クエストが出ている。で、俺のパーティは救援に向かう。それに君も同行して欲しい、とそう思っている」
なんでこうなるのかは分からないけど。
「断ったら?」
「断るメリットはない。実名知られて困ってるんだろ?」
そう言って魅力的な提案をしてくる。
「参加してくれたら情報を撹乱させるよ。西条 樹はナイトではない、他人の空似だ、ってさ。俺、こう見えて各方面に顔が知られてるんだぜ?」
それは魅力的な提案だ。
実際に撹乱してくれるのであれば、今のこの流れを変えられるかもしれないし。
「それなら、構わないけど」
今実名が晒されまくっててやばい事になってる。
正直ワラにもすがりたい気分だった。
「決まりだな」
笑って先生に顔を向ける溝谷。
「授業中失礼したな」
そう言った時先生がやっと動きだした。
「い、いえ……」
ポカーンとしている先生。
逆にクラスメイトは盛り上がってた。
「あれ、溝谷さんよね?!西条くん、すごくない?!シュババって組み伏せてたよ?!」
「さすが西条くんって感じだよね!」
そんな感じで盛り上がってた。
陰キャだったころに帰りたいですね。
溝谷は先生に目を向けると。
「仕事だ。西条 樹を借りてくぜ?」
ザワっ!
クラス中が湧く中先生が溝谷に聞いた。
「あ、あの。西条が最近有名なナイトって噂が流れてますけど、まさか関係が?」
「いーや。関係ない。こいつは遠い親戚の知り合いなんだよ(大嘘)急用ができちまって。それで仕事に連れてくんだよ。これは元々約束してた話でな(大嘘)」
俺が同行すると言ったからかそれっぽいことを口にしていた。
ありがたい話である。
「そ、そうなのですか」
「んじゃ、こっからはプライベートな話なんでな」
ボソッ。
「ついてこい」
俺にだけ聞こえる声量でそう言ってから。
溝谷は歩いて教室を出ていくとそのまま職員室に向かった。
「こういうクエストに参加する時は公欠扱いにできる。中に入って申請を出してこい」
それは知っていたので特にそれ以上確認することなく職員室に入る。
すると中にいた職員が対応してくれるようだ。
若い女の人だった。
授業とかで見た事ないから先生じゃないと思う。
「授業中だけど、どうかしたの?」
そう聞いてくる女の人に今までのことを話す。
ナイトであることは伏せて。
「というワケで申請したくて」
「え、え?ご、ごめんね。そんなこと言われたの初めてで……えーっ、と書類はこれでいいのかな?」
初めてのことらしく戸惑っているらしい女性から書類を受け取るとそれに記入していく。
理由:救援クエストに参加するため
補足には溝谷に誘われたので、証明が必要なら溝谷に連絡するように、と書いておいた。
こんなところでいいだろう。
書類を返すと職員室を出た。
「急に押しかけて悪かったな」
「俺以外に誘えそうな奴はいなかったの?」
「深奥エリア。新しくできた高難度ダンジョンだ。そんなところだし、生半可な奴だと死ぬだけだ」
そんなに信頼されてるんだろうか?俺は。
これだけ無理やり押しかけるほど信頼している、というのは伝わってくるけど。
まぁ、俺としても悪い話ではないようだし、多少のことは見なかったことにしよう。
少しでもこの状況をマシにするのが一番考えるべきことだし。
それから軽く作戦の中身を説明してくれる。
「お前はいつも通り配信してくれ」
「配信して大丈夫かな?」
「問題ない。俺のパーティは誰も配信しない。んで西条樹がいる、って世間に思わせながら任務を進める。俺は信頼あるから誰も疑わないはずだぜ?」
なるほど。
言いたいことは分かった。
「つまりナイトは単独で乗り込んできて勝手に深奥を目指している、という設定でいくんだな?」
「そうだ。同じ人間は別々の場所にはいられない。そこでナイト=西条、という世間の思い込みは崩れるわけだ」
(たしかに、うまくいきそうだな。この作戦なら)
俺はもはや勝ちを確信していた。
これで、俺はタダの陰キャに戻れる……と思う!!
それにしても深奥エリア、か。
この前の配信では行かないと答えたけど。
前言撤回になるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます