第24話 最速のモンスター
ジョニー:オルトロスはとにかく動きが早いんだ。気をつけなよ!
とのコメントが早速見えた。
「フー……」
小さく息を吐きながら俺はオルトロスがいるフロアの中に入る。
同接が12万になった。
"ついにオルトロス戦?!"
そのときスパチャもきた。
私立〇〇高校公式アカウント
¥50,000円
私立高校の教員です。
オルトロス戦は初めてだと思います。
今授業の教材にしていますので、余裕がありましたらできればセオリー通りにお願いしたいのですが、可能ですか?
"草"
"まじで教材になってんのかよ"
"冗談かと思ってたわ"
"冗談じゃないよ?ウチの学校も今みんなナイトの配信見てる"
"こっちの学校はデカいスクリーンで映して、全員で見てるから同接以上に見てる人多いよこれw"
"実際の視聴者いくらだよこれw"
セオリー通り、というのは俺は苦手だけど、時間をかけて牽制をし合って徐々に体力を削っていく、というもの。
「デキタラ、ナ」
"お前も引き受けんのかいw"
"無茶しなくていいんだぞ?"
ジョニー:そうだ。オルトロスは無理にセオリー通りにしない方がいい。初動に全力の方が勝ちやすい。というよりそうじゃないと無理だ。相手が速すぎて結局ジリ貧になるから
頷きながらとりあえずオルトロスに気付かれる位置まで向かう。
もう後戻りはできない。
ピトッ。
足を動かしてオルトロスが俺に顔を向けた。
ゲームの強敵みたいに体からなんか黒い煙出てるんすけど……。
「グルルル」
"こええぇぇぇぇ!!!!!"
"くそこえぇぇぇぇ!!!"
"勝てんのかよこれ"
セオリー通り、だとまずはオルトロスの攻撃パターンを見……。
ガチン!!!!
ちょ、動き速すぎだろ?!
なんとか攻撃をかわせた。
(噛みつこうとされたっぽいな)
視線だけで右脇腹の辺りを見た。
甲冑がエグれて、かすかに制服が見えてる。
"え?なに?今のは"
"コマ送りにしてやっと見えたわ。噛みつきだ"
"甲冑えぐれとる……紙装甲かよ……"
バリボリ。バリボリ。
俺の甲冑を食べながら振り向くオルトロス。
「おぉ……怖……マジかよ」
"演技なくなったな"
"【悲報】ガチでやばそう"
"素の反応じゃんw"
"余裕なくなって中の人出ちゃってるw"
ジョニー:これが最速のモンスターのオルトロスだよ。一番速いモンスター。
"ジョニー、これ勝てるのか?"
ジョニー:デバフ魔法で相手の速度を下げればなんとか。それがオルトロス対策。何もしない状態ならトップ冒険者で目で追うのがやっとのスピードだよ。彼が今避けれたのも正直奇跡に近いと思う
それを見て話す。
「なるほど。これが最速なわけね」
ジョニー:そう。ダンジョン抜けのアイテムあるなら使った方がいい。デバフ使わずに討伐は無理だよ。何人ものデバフ魔法使いを集めてフィールド全体に魔法を使ってようやく体が反応できるスピードになる。だから、戻ってメンバーを集めた方がいい。
との事らしいが。
なるほどね。
俺は内心を口にする。
「安心したよ」
ジョニー:安心した?
「だって、この先さ」
オルトロスが俺に視線を合わせた。
ダッ!
予備動作が見えた。
近付いてきたのを見てからじゃ明らかに間に合わない。
だから。
(ここだ!)
カッ!
居合切り!
到底当たらない距離感で、先に攻撃を振った。
ブン!
次の瞬間、俺の横をすれ違っていたオルトロス。
俺は、居合切りを振り抜いたまま。
剣はまだ納刀できない。
やり切れていないのなら追撃のタイミングでまた最速で剣を振る必要がある。
反応できるように、精神を研ぎ澄ます。
"アニメかよ?!"
"今、どうなってんの?"
"ナイトもオルトロスも動かねぇよ?!"
"ナイトの甲冑また逆側がえぐれてるけど"
"オルトロスが早すぎて現実が追いついてないのか?"
"はよ、動けよ!"
"で、どうなったんだよ"
コメント欄がシビレを切らし始めた時
ユラっ……。
ドォォォォォン……。
オルトロスが横に倒れた。
それを確認して俺は先程の言葉を続ける。
「これ以上速いモンスターって出ないんだろ?」
ジョニー:嘘だろ……オルトロスのあのスピードを……捉えた?狂ってる……日本人はレベルが低いって聞いたのに……
盛り上がるコメント欄。
"やべぇぇぇぇぇ!!!!"
"やりやがった!!!!"
"なにが起きたんだ?!"
"コウタ先生解説してくれ"
"彼はもういないよ"
"ユラッチ解説して!"
ユラッチ:ユラッチ弱いから分かんない(´・ω・`)
たまには解説してやるか、そう思い口を開く。
「あのスピードは近付いたのが見てからじゃ反応できないから先に攻撃を出した」
あの速度だ。
オルトロス自身も大雑把にしか制御出来ないと思う。
俺が剣を振ったのを見てからじゃ急ブレーキも効かない。
だから走り出したら、後は攻撃に飛び込むしかない。
"予想して技を先に出したのか?"
"ガチの上級モンスター以外じゃ効かんだろうな、こんなん……"
"オルトロスとナイトのレベルが高すぎるでおk?"
そこでふと思い出した。
演技してなかったな。
そろそろ演技しておくか。
「ッテワケダ」
納刀してオルトロスの守っていた扉の方に向かう。
けど!
先日のドラゴンの件もある。
最後まで油断は出来ないので視界の端でオルトロスを見ながら歩く。
深奥エリアのモンスター。
たしかに強い。だからまだ勝負はついてないかもしれない。
だがコメント欄は勝利ムードになっていた。
"ジョニー見てるかー?これがナイトのレベルゾ?"
"ジョニーどんな気持ちなんだろ"
ジョニー:いや、これは凄いよ。ごめん甘く見てたわ。でもどうして彼は名前を出して配信しないんだい?世界でもトップクラスだよナイトは。顔も名前も出さないのはもったいないよ。ヒーローになりたくないのか?
"なりたくないんでしょ"
"ナイト説が出てるSIJも陰キャらしいからなー。バレたら学校でからかわれるんだろうなぁ"
SIJ?なんだそれ。
"抜け道作るなwまぁ、リークが本当なら絶対からかわれるんだろうな”
それを見ながらさっきスパチャしてくれた教員に謝っておくことにした。
「セオリーマモレナカッタ」
"そういえば教材になってたんだったなwでもこれ教材になんの?"
"レベル高すぎて無理だろ"
"教師「今のが予想して早めに出す攻撃です」"
"生徒「なるほど!どこで使うんですか?ウルフとかに使っていいんですか?」"
"教師「ウルフじゃ避けられるでしょうねぇ」"
"生徒「紹介した意味は?」"
俺も普段あんな技使わないから、深奥エリアくらいでしか使わないと思う。
なんてことを思いながら歩いていたそのとき。
オルトロスが素早く顔を上げて突っ込んできた。
「ガァッ!」
「アマイ」
スパン!
攻撃を避けながら下から上に切り上げた一振り。
それでオルトロスの双頭は吹き飛んだ。
ここまで反射で動いていた。
考えるのは終わってから。
(まだ生きてたのか)
"ナイト!危ない!"
"ナイト!来てるよ!"
今頃になってチャット欄が注意してきたけど。
このチャットが届いたのも全部終わってからだ。
"注意するまでもなかったわw"
"流石だなぁ"
と、そのとき。
ガチャン。
オルトロスの守っていた扉が開いた。
ということは確実にオルトロスの息の根は止まったな。
それを確認して扉の方に向かう。
ジョニー:いや、すごいなほんとに。言葉が出ない。Amazing.
"母国語出てますよ"
"あんまりにもすごくて母国語出たんやろなぁ"
それで俺は次のフロアに向かおうと思ったけど、オルトロスの死体の方にキラリと光るアイテムがあるのに気付いた。
近寄って拾ってみる。
【オルトロスの宝玉を入手しました】
(キーアイテムかな、回収しておこう)
アイテムには大きくわけて2種類ある。
素材として換金できたりするアイテムと、ダンジョンのギミックに使えるようなキーアイテムと呼ばれるようなもの。
これは恐らく後者。
さて、捜索を続けよう
「ヤマノハドコ?」
視聴者のひとりがこんなコメントをした。
"3階層のボスで全滅して2階層に逃げたんだって。2階層で今隠れてる。早く向かってあげて"
場所は分かったのでとにかく、次の階層を進むことにする。
そこで同接を見て見みた。
すると。
18万。
なんでこんな増えてるんだ?
なぁ、俺本当にこのまま配信続けていいのだろうか?
誰か教えてくれないか?!
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