屑籠は無地で十分花の雨

 ゴミ箱というのは要するにゴミをまとめて中に入れられればいいのだから、変な模様や写真がプリントされている必要なんかない。無地で十分。何も言うことはない。そういう意味である。

 そうは言うものの、私が自室で使っているゴミ箱にはなぜか「TEA YOURSELF」という文字が乱舞している。もう10年以上前に百円ショップで買って以来使い続けているものだが、この文言に何の意味があるのか全くわからない。英語でありさえすればカッコよく見えるという日本人特有のアレか。よく物見遊山の外国人が着ている「夜露死苦」Tシャツみたいなものかもしれない。

 ゴミ箱は大抵、いやほぼ床の上に置いて使われるものだから、なおさら模様や柄なんかどうでもいいのだ。わざわざ手に取ってためつすがめつすることなどない。床に置かれたが最後、その位置に永住するようなものだ。

 しかしゴミ箱はなぜ机の上で使われないのか。考えてみれば不思議だ。これは捨てるという行為が通常上から下に向かってなされるということと密接に結びついているのだろう。逆はちょっと考えづらい。重要なものはいつも上にあって下にはない。ゴミ箱に入れられるものはもはや重要性を失ったものばかりだ。セロテープの芯、食べ終えた後の弁当箱、終わった仕事のメモ、穴のあいた軍手、等々。そうやって日常の細かいところにも上下関係の意識を埋め込むのが人の性なのだろうか。ゴミ箱が机の上に設置して使われないのもそのひとつか。

 この句も下五に何の季語を置こうか困った。別に何でもいいのだ。どの季節だって構わないのだ。その時奇跡的に「花の雨」という言葉が頭に浮かんだ。ちょうどこの日は雨が降っていたから都合が良かった。それに「じゅうぶん」と口を閉じる形式で終わる発音の後に「はなの」と口を開いて発音するA音が続くのはリズム的にもよいので動かない下五になった。

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