倦怠を噛んで血を吐く黒蜥蜴
私は1日に二回も三回も気分が変わることがあるので、自分でも制御に手を焼いている。怒りや負の感情が多く、今は年齢も重ねたので表に出すことはほとんど(ウソです。あまり、くらいだな)ないが、学生の頃を振り返ってみると、あれは周囲の人間は戸惑っただろうなぁ…と思い当たるフシが一つや二つではないのだ。
最近俳句をよく作るようになって、前ほど制御に困らなくなったので助かっている。仕事中もよく作っている。たとえ考えている内容が俳句だったとしても、外目には仕事のことで熟考しているようにしか見えないだろうから都合がいい。退屈な仕事の特効薬に俳句はとても有効なのだ。
この句は、そんな風に変わり安い気分の中の、多分どん底にいた時に作ったものだと思う。「倦怠」を噛むというのは結局何を噛んでいるのかよくわからないが、その後吐血しているので体にいいものではなさそうだ。
この句では「倦怠」は外部にあるものらしいが、人間で言うならこれは体(心か?)の内部にきざして次第に膨れ上がってくるものであろう。癌細胞みたいなものだ。そのせいで血を吐くということだ。
黒いトカゲは、陰湿なじめじめした感情を体現する生物として登場させたのだろう。無論作者自身の姿を代入させた存在でもある。ある種の文学者は自分の姿を生き物に投影させるのが好きだ。芥川が河童を自分の化身のように絵に描いたのなどいい例だ。ああいうのは結局どういう心の作用だろうか。ナルシシズムだろうか。芥川なんか写真の決めポーズからしていかにもナルシストっぽそうだから多分そんなところだったのではないか。なら私が黒トカゲを持ち出したのも似たようなものかもしれないが、今初めてこういうことを考えたので本当のところは自分でもわからない。
黒いトカゲはどんな色の血を吐くのか知らないが、この句の黒トカゲは黒い血を吐いて欲しい。それは体内に巣くった「倦怠」の色である。
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