明日死ぬる靴跡もあり春の土
先日、半年ぶりに渋谷に行った。日曜日であったから、まあ大した人出であった。用があったのは渋谷区東の方だったのでそこまで極端な人混みには巻き込まれなかったが、私の住んでいる街とは比較にならない。なにせ駅前の5階建てビルのうち4階分が空き店舗というのが私の街の現状である。ちなみに埋まっている一つの階は幸福の科学だ。
駅周辺の人の多さは言うまでもない。私は学生時代否応なしに渋谷に来なければならなかった関係もあったためか、雑踏を早く歩くことはわりと得意だ。というか渋谷に鍛えられたようなものである。ちょっとした隙間に入り込んで前方を注視しながら歩を進め、またできた隙間にサッと入り込む。そうして流れに合わせながらあくまで自分のペースで進む。
それにしてもこんな大勢の人間に一日中踏まれ尽くして、渋谷の地面はさぞ痛かろうと思う。と、すぐこんなつまらないことを考えてしまうのだが、まあこれが私の地金なのだ。同じ渋谷の地面であっても、元の色がわからないほど終日人が行き交うものもあれば、ほとんど誰も立ち寄らず石や枯れ葉が転がっているようなところもある。そこの地面として存在してしまった以上、運としか言いようがない。
こんなにも大勢の人間が私の脇を通り過ぎていくのだ。その中には未来のスーパースターがいるかもしれない。未来の通り魔がいるかもしれない。むしろ既に何かをやらかして、こっそり暮らしている者もいるかもしれない。そして、明日はもう生きていない人もいるかもしれない。
病人だけが常に死ぬ可能性を持っている訳ではない。健康で誰が見てもピンピンしている人だって、事故や天災や急性の病魔に倒れて儚くなってしまうかもしれないのだ。そういえば柴田
渋谷の地面は大抵アスファルトだが、そこに残っている靴跡の中には、昨日の生者・今日の故人のものも含まれているかもしれない。もしかしたら自分の靴跡と重なっているかもしれない。
舗装路であったとしても「春の土」と言うのかどうかは知らないが、春という季節の名前を含んだ言葉はどんな出来事も包んでしまいそうな幅広さが感じられる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます