人の身のかなしさ撒きて冬の星

 世の中の人はやれ不平等だとか格差社会だとか口を開けばかまびすしく騒いでいるが、現実感の希薄な私はおおむねそういうことに関心がない。

 私はいつも草花を羨ましく思っている。彼らは自分が何者であるか悩み苦しむことはない。「将来何になりたいか」などと課題を突きつけられることもない。家族や子孫を持つことに躊躇いを覚える必要もない。ただ時が来れば芽が出て花が咲き、種をつけて枯れていくだけだ。芽吹いてから枯れきるまで、せいぜい半年の命である。人間ばかりが、何十年とこの世に縛りつけられて、あれこれ面倒で厄介なことどもを押しつけられ、その結果をもって判断されるのだ。人間と同じくらい長生きする生物もあるが、こんな重荷ばかり背負わされて存在しなければならないのは人間だけだ。下手に「万物の霊長」なんかになったばかりに迷惑している人は、私ばかりではあるまい。格差格差というならば、さっさとすべきことをして消えていける草花と人間との間の格差は一体どうなるのか。私は人として生まれてしまった自分を常にかなしんでいる。

 そういうかなしみを空に向かって撒き散らしたら、冬の星になった。かなしみは小さなものが無数にあるのか、根源的な大きなものが一つあるだけなのかわからない。前者の方が空に撒いた時、キラキラきらめいて美しいだろう。せめてこんな句でも作って、苦痛を癒すくらいが私にできそうなことの関の山である。

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