第15話



 糸川は、この基地の司令官室で暖かい珈琲を飲んでいる。

たいした荷物の量ではないが、艦から降りるなり、そのまま荷物を持って来ている。


「では司令官殿、2件の報告を伺いたいのですが」


 世界で3回目の戦争が勃発してから、ガルデス大佐と糸川は秘密裏に連絡を取り合ってきた。

当時存在した日本の司令室に知られないように細心の注意を払って。

その頃から、何故か気が合う仲間のようになり、身分を越えての付き合いになっている。

当時、日本の縦社会の軍隊では考えられないような話だ。


「うん、先ずは、あなた方を含めた私達の運命から始めましょう」


「ええ、非常に興味深いですね」


「実は、放射能汚染がメキシコにまでやって来てくれたようです」


 ガルデスはコーヒーカップを持ったままで両手を広げ、更に言葉を続ける。


「ただ単に観測されただけなら良いのですが、一番濃度の薄いところでも10%以上の放射能が観測されています。これは診療放射線濃度を越えるものです」


「なるほど、ウルグアイが汚染されるのも時間の問題という訳ですね」


「そうです、汚染の広がりが想像以上に早いようです」


「その分だと期待していた北極は既に汚染済み、と考えた方だよさそうですね」


「はい、間違い無いでしょう。いずれ南極も、というか世界中です。地球上の生物が居なくなりますね」


「分かりました」


「何かお聞きしたい事はありますか」


「無いですよ、放射能への対策なんて無いのですから」


「潜水艦に乗って南極を目指すという手もあるとは思いますが?」


「行きたい人が行けばいい。潜水艦も約束した通り差し上げます。ただ、この大型巡航型潜水艦に今となってはどれくらいの価値があるのか分かりませんがね」


「ここにも潜水艦くらいはあります。が、巡航型と言っても貴方達が乗って来た艦よりも小型です」


「我々の艦なら南極まで行けますし、人数によっては南極で、かなりの期間の滞在が可能です。然し、どう考えても放射能汚染が無くなるまでには電気エネルギーは足りても、食糧が足りないでしょう。さらに言えば、海水も汚染されているでしょうから、海水分解装置で作られた真水も汚染されている。生きていけないですよ。」


「まぁ、それを承知で潜水艦と引き換えに皆さんを受け入れたのは私達ですから、ここに滞在、若しくは潜水艦で希望を持って離れる者、どちらを選ぶかは本人達に任せましょう」


「その通りですね、感謝していますよ。ガルデス司令官」


「礼には及びませんよ、糸川艦長。では、次に2件目の報告です」

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