第10話



 糸川が無線機の前に座る。


「こちら巡航型潜水艦くらまです」


「こちらウルグアイ、カプロ海軍基地です」


「艦長、どうぞ」


 通信士の矢作が艦長に代わる。


「私は艦長の糸川です。そちらの状況は如何ですか」


「やぁ、艦長、私ですよ、ガルデスです」


「やぁ、貴方でしたか、お久しぶりです」


「糸川艦長、船の具合は如何ですか」


「そうね、みんな退屈していますよ」


「そうですか、こちらは皆んな、それぞれに楽しんでいますよ」


「そりゃいいね、で、どうですか? 我々の艦の受け入れは?」


「受け入れ準備は整っているにはいるのですが・・・。」


「どうしたんですか?」


「勿論、受け入れに問題はありません。ただ北米からの汚染が進んでいるようなのですよ」


「放射能・・・。」


「ええ、ウルグアイはまだ大丈夫なのですけど、北米から徐々に放射能が広がっているようなのですよ」


「もうすぐ南米に上陸するっていうことですか?」


「そういうことです、そのニュースが流れてくるや否や、皆んないろいろな行動に出ていますよ」


「死を覚悟したって訳ですか?」


「ええ、その通りです。いつ、ここまで放射能が届くか分からない状況なのですけど北米はU.S.A.を中心に壊滅状態ですよ、その情報を知るや否やで乱痴気騒ぎを始める者や、静かに暮らす者、死ぬまでにやり遂げたかったことを始める者。お金の価値が無くなってきてますからね。物々交換なんかで好きなように暮らしていますよ」


「そうですか、上陸を楽しみにしている、とは言えない様子ですね」


「まぁ、そう言わずに。通信がうまくいかなくて各国の様子を掴みにくくなっているのですが、生存者がいる国なら強弱はあっても似たような状況だと思いますよ。とにかく、上陸をお待ちしています」


「ありがとうございます。約束通り上陸はさせていただきますよ」


「ええ、航海のご無事を祈ります」

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