第9話
巡航型潜水艦が海中を航行している。
艦内は至って静かである。
糸川は、それが気に入らない。
早くも自殺者が出た。
想像はしていたが、早過ぎる。
乗組員の中には潜水艦が初めての者もいる。
精神的に弱っていく者は必ずいるはず、覚悟はできていた。
艦には船医がいることはいるが、心療内科医ではない。
その時が来たらどうするか?
船医と相談はしていたが、精神状態が悪くなると見える前に自殺者が出た。
ただ単に海中を航行している訳ではない。
放射能の下を航行しているのだ。
海中から外へ出られないだけではなく、この大西洋を放射能が覆い尽くそうとしている。
それはどこの海洋も同じことではあるのだが。
大地を見つけられても、この艦から外へ出られるのだろうか?
誰もが不安を抱えていることは手に取るように分かる。
戦争が無くなった今、一番恐れているのは精神の乱れである。
幸いにして艦内で事件は起こっていない。
然し、いつまでこの状態を保てるのであろうか?
そう、もしものことも考えておかなければならない。
こうやって潜水している間に海上では放射能が蔓延し、外へ出れなくなった時。
「艦長、ウルグアイと回線がつながりそうですよ」
江島が扉を開けて通路から声を掛ける。
「早いなぁ」
「どうも中継できる無線機が自家発電でもできるのか破壊されずに残っていたようです」
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