第8話
大型巡航型潜水艦くらま。
第7潜水隊に属する。
勿論、戦時中であれば、そして日本海軍が存続していればの話である。
中型巡航型潜水艦いつしろ、こうじん、この潜水隊に属していた。
くらま、最大乗組員数70名に30人、いつしろ、こうじん、同じく最大乗組員数50名にそれぞれに20人。
合計70名の乗組員になる。
乗組員の居ない空いているスペースには大量の保存食が積まれている。
くらまの船型の特徴は甲盤が平たくヘリコプターの離発着にも利用できるようになっている。
その分、航行速度に弱い。
その平たい甲盤に最後のグループ10人の男達が出てきた。
その中の4人一塊のグループが相変わらずの雑談を交わしている。
「やっぱり自然の光は良いですね」
と機関長の葛木が言う。
「そうですね、早く陸地に上がりたいものです」
と副長の江島が言葉を受ける。
「さて、いざ出てはみたものの何をする? あそこに立っている船員みたいに太陽を拝んでみるか」
糸川が指を差しながら一人の男を見る。
確かに、その乗組員は太陽に向かって両手を合わせているように見える。
「彼は、神父ですよ。ではなくて実家が教会なので、みんなで神父って呼んでます」
「ほう、面白いね。日本最後の航海に神父様がいるとは有り難いな」
通信士の矢作の答えに糸川が応ずる。
しかし、どうも様子がおかしい。
何か独り言を言っているようである。
「彼は、お祈りでもしているのか?」
葛木が呟く。
一人の男は確かに祈っていた。
「神よ、貴方が作ってくださったこの世界を我々は破壊してしまいました。この罪は許されるものではありません。しかし、この船の乗組員達だけでも罪を許し、助けてください。いえ、申し訳ありません、やはり御心のままに。しかし許されるのなら、いえ、そうです、御心のままに。しかし、ならば、この命と引き換えに、アーメン」
「おい、様子がおかしいぞ」
最初に気付いたのは糸川であった。
「誰か、彼を止めろ」
矢作が甲盤を走った。
「アーメン」
神父と呼ばれていた船員が最後の祈りと共に海へ飛び込んだ。
「救命ボートだ」
江島が叫ぶ。
「無駄です、彼が鎖を足に巻いているのを見ました」
葛木が頭を振りながら呟くように言う。
「なんてことだ」
江島は叫ぶように言う。
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