第20話



 機関長の葛木は、シトローサ少尉の部屋でソファーに座りリラックスしている。


「ようこそ、ウルグアイへ」


「ありがとうございます」


「で、お願いしていた。船の機関長の件ですが?」


「ええ、適任者を見つけておきましたよ」


「それは有難い。カプロにも良い機関長はいるのですけれどね、何分にも日本の潜水艦のことを知らないし、練習期間も充分に取れない」


「勿論、分かってますよ。潜水艦に乗り込むのは私の補佐役を務めてくれていた者ですし、英語もできます。スペイン語はちょっと無理ですけどね」


「それなら問題ないですよ、私達が日本語を使えないのと同じことですから、艦内の公用語は英語にする予定です」


「それなら彼も喜ぶでしょう。何と言っても彼は最後まで生きる望みを失わない人間ですからね。ウルグアイでは南極に移住する計画があることを知って、大型潜水艦くらまの機関長を自ら引き受けてくれましたよ。だからこそなんですけどね、公用語が英語となると彼も移住してからの生活を孤独で過ごさなくても良くなります」


「ちなみに、日本人で潜水艦の乗船希望者はどれくらいになりそうですか」


「それが、私には分からないのですよ。艦長の糸川海佐にも聞いてみたのですが、秘密事項でもないので隠すつもりはないが、増えたり減ったりで実況を把握できない、でいるようです。ただ、くらま、いつたき、こうじんの乗組員数は70人、ウルグアイに留まりたいという乗組員は40人前後である、と聞いていますし、残りの30人のうち南極まで行こうとしっかりと意思表示している者は10人前後です」


「なるほど、それならカプロの希望者を合わせても70人を越えることはないかもしれません。まぁ越えたとしても基地には巡航型の小型潜水艦もありますし、日本からは、くらまに加えて中型の巡航型潜水艦が2隻も寄贈されています。充分に余裕がありますね」



「それなら安心できます。で、私からのお願いですが? どういう状況でしょうか?」


「ええ、既に連絡済みですよ。私の父の知り合いで農園を持っている人がいましてね。父が相談を持ちかけると、これから物騒な時代にもなりそうだから軍人が一緒に住んでくれるなら有難いことだ、と言って快諾をもらったそうです、後で住所をメモに書きますので、行ってみてください。乗り物は私の車を差し上げますよ」


「いや、其処までしてもらってはいけない。お気持ちだけで充分に嬉しいですよ」


「ははは、遠慮しないでください、もう使っていないのですよ。私は、軍用車で移動していますし、ここでは治安の関係上、軍用車が便利なのです」


「そうは言われても・・・。」

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