第21話
江島は、兵舎にある糸川の部屋を訪ねている。
「で、如何でしたか」
「うーん、どうもかかりつけの医者が言うには、白血病らしいんだ」
「それは・・・、お気の毒です」
「ありがとう、でもどう思う? この時代に白血病だよ、放射能の影響を考えたら遅かれ早かれ誰もがかかる病気じゃないか。それどころか即死レベルの放射能が近いうちに襲って来る。放射能汚染濃度が50%を越えれば、皆んな1週間以上は生きていられない。核爆弾だけじゃない、世界中にある原子力発電所まで破壊されているんだ。いつか、それを越えるレベルの放射能が、やがてやって来るんだ」
「苦しむ暇も与えてもらえない?」
「そうとまでは言わないけど、事故でも無い限り皆んな一緒にあの世行きじゃないか」
「つまり、それは、お子様と一緒に、と?」
「うん、そうなんだ。私は放射能汚染濃度が10%を越える前に、この兵舎を引き払って病院で過ごすつもりさ。その頃には、ウルグアイ軍に差し上げた巡航型潜水艦くらま、も南極へ向かって出港しているだろうし、陸上に居る者はそれぞれの最後をそれぞれに受け入れた時間を大切にするべきだと思うんだよ。私はといえば医者も看護師も何人残っているかも分からない病室で過ごさせてもらうよ。あの子と最後まで過ごすつもりなんだ。そう、そうなんだ、約束したんだ、あの子と、ね」
糸川の、その言葉を聞いて、江島はつぶやくように言った、
「約束などしなくても艦長は、そうするつもりだったのでしょ?」
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