第22話
「これは」
と葛木は絶句したように言う。
「ええ、ガソリン車です。燃費の問題を考えると乗れないですよ。然も、ガソリンを売っている所がほとんど無い」
シトローサは答えると更に、
「ガソリンはタンクに満タン近く入ってますよ、時々エンジンの調子を見るのに数キロだけ走っているんです。あと、倉庫にガソリン缶が幾つかあります。向こうまで行くには十分でしょう。現地に辿り着けば捨て置いてくださって構いません。どうせ私は巡航型潜水艦で南極まで行く身ですからね」
そう言うとシトローサは、葛木に車のキーを手渡した。
葛木はドライバーズシートに滑り込むようにして座ると、車にキーを差し込んでエンジンを回してみた。
「良い音だ」
と呟く。
「気に入ってくださいまいましたか?」
「ええ、3LDZターボ、ブースト圧0.77b、圧縮比6.5:1、最高速度は250キロを越えるモンスターマシーン。今時こんな車に出会えるなんて」
「やっぱり気に入って貰えましたか。カツラギ機関長と何度か通信を交わしている間に貴方が大のクラシックカー好きだと分かって、こいつをプレゼントしようと思っていたのですよ。ただ、少し違うところがあります」
「それは?」
「こいつは更に手を加えられた物で、1978年製です」
「と言うことは」
「分かりましたか。エンジンは3.3L、リアウイングに取り付けられた空冷インタークーラー、圧縮比は7.0:1、最高出力は300ps。まさに芸術品ですよ。この車、受け取ってくれますね?」
「申し訳ないなどと言っている場合では無いです。是非」
「では、どうぞ」
葛木は早速荷物を狭い後ろのシートに積み込み、ガソリン缶を積めるだけ積むと、ポルシェ930ターボのアクセルを踏んだ。
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