第35話



 ガソリン車から降りると、


「今度は私が乗馬を教えてあげるわ」


 とメラニーが笑いながら葛木に言う。

そして葛木が間借りしている小屋に入るとコーヒーの準備をする。

葛木はバッグからカンパンの入った袋を取り出す。


 二人で雑談をすると、メラニーは夕食の準備をするためだけに父の居る小屋へ帰っていく。

父に温かな料理を出し、父と雑談などしながら夕食を食べ終わるまで待ち、食器を洗うと、いつものようにバスケットに二人分の夕食とワインをバスケットに詰める。

父親は、そんなメラニーを笑顔で送り出す。


 メラニーが夕食を抱えて葛木の小屋へ戻ってくると、ワイングラスを片手にささやかな晩餐が始まる。

夕食を済ませると、二人で小さな流し台で食器を洗う。

そしてシャワーを浴びて、小さなベッドに二人して滑り込む。

そして次の朝が訪れる。


 その夜は、眠る前に囁くようにメラニーが葛木に語りかけた。


「ねぇ、いつまでこうしていられるのかしら」


「永遠だと思いたいよ」


「私もよ」


「一人で暮らすつもりでいたんだ。それが・・・。」


「あら、お邪魔だったかしら」


「いえ、そんな、感謝しています」


「失敗だったなんて言ったら、あなたが持って来た拳銃で撃ち抜いてあげるわ」


「これは、嘘でも言えないな」


「嘘でも言っていい言葉があるわ」


「愛している」


「本当?」


「嘘」


「確か拳銃は小さい方の鞄に入っていたわよね」


「冗談じゃない、勘弁してくれ」


「じゃ、もう一度言うのよ」


「愛しているよ」


「本当?」


「本当だとも」


「命に賭けて?」


「既に命懸けだよ」


「ねぇ、放射能がやって来るのよね。それでも、こうやって私を抱いていてくれる?」


「勿論だ、ずっと守っていてあげるよ」


「放射能から?」


「あ」


「いいの、嘘でもいいから言って欲しいの、放射能から私を守ってくれるって。怖いの、やっぱり怖いわ・・・」


「大丈夫だ、私は何処へも行かない」


「放射能で、私がどんな姿になっても?」


「どんな姿になっても、美しいメラニーを離しはしない」


「嘘でも嬉しいわ」


「嘘じゃない、本当なんだ」


「お願い、抱いて」

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