第36話



 巡航型潜水艦に次々と食糧や日用品が運び込まれて行く様子をガルデスは見守っている。

いかにも満足そうな姿であるが、内心は不安だらけである。

それでも、その胸の内を態度で表す訳にはいかない。


 軍の規律、そんなものは捨てておきたかったが、これからどうなるかもしれない未来へ向けて復活させても良いのではないかとさえ思う。


 ドイツの社会学者マックス・ウェーバーの言葉を思い出す。


 大衆の想像力を捉え、自分に対する不動の忠誠心と献身を鼓舞するような雰囲気を持つものだけをカリスマと呼ぶことができる。


 死と直面している人々を導いていけるのだろうか?


 この艦に乗って来た日本人達は、皆んな何らかの軍との関係を持っている者達であった。

今回は違う。

ガルデスが率いる潜水隊は家族も乗るのだ。

乗組員全ての精神の安定を願っている。


 そこへ聞きなれない英語で、大きな声で何やら話し掛けている者がやって来る。

池波航海士である。

池波は慣れない英語でウルグアイの航海士に日本の巡航型潜水艦の特徴を説明しているようだ。


 少し離れたところから見ているガルデスに、話に夢中な一行は気づいていないようである。

その数人のグループは、潜水艦に登り、ハッチへと姿を消して行く。

実際に計器を前に理解し合おうということなのであろう。


 ガルデスは、そのグループが一人残らず潜水艦に消えてしまうと、ニヤリと笑う。

皆んな、それぞれの役目に一生懸命だ。


 何かに挑戦をする事、それは不安から逃れることのできる方法の一つであることは確かだ。

迷い悩んでいてはいけない。

ならば、それを、その原因を如何にして乗り越えるのかと行動するしかないのだ。


 ガルデスは、ポケットに仕舞い込んでいた、糸川から江島、そして自分に渡された木箱から取り出していた葉巻を一本、服の上から撫でてみた。

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