第25話



 ウルグアイの田園に一台のガソリン車が入って来た。

ポルシェ930ターボは、速度を落とすと真っ直ぐに丸太を積み上げられた家へと向かった。

遠くから、その光景を見ている者がいる。

馬に跨って、長い髪を風に靡かせている。


「誰かしら?」


 車はログハウスの前で止まると、中から一人の男が降りて来た。


「軍服?」


 馬を走らせて、ログハウスに近づいてみる。


 軍服を着た男がログハウスに入って行く。


「こんな所に、軍人に、何の用があるの?」


 彼女の気持ちが引き締まる。

馬上から降りてログハウスの前の柵に馬を繋ぐと中へ入ってみる。

中では父とその軍人が握手をしている。


「父と知り合いか」


そう思うと彼女の心も少しはほぐれていく。


「やあ、メラニー、そんな所で何をしているんだい。もっと奥に入って、そう、コーヒーを3人分作ってくれないか」


 メラニーは言われた通りにキッチンへ行きコーヒーを淹れて、リビングへ運ぶ。


「紹介するよ、彼はカツラギさん、これから離れの小屋で住んでもらうんだ」


 軍人で東洋人、離れの小屋で暮らす?

そう思うがメラニーは軽く手を差し伸べて握手を促す。

葛木は彼女の手を軽く握り笑顔を作る。


「葛木です。お世話になります」


「私はメラニー、そう呼んでくださって結構ですわ」


「ありがとうございます、メラニーさん」


「カツラギさんは、自分で食事も作るし洗濯もするって言ってるんだが」


「あら、そんなご心配をなさってるんですか、2人も3人も同じようなものだけど」


「いえ、そう言う訳にはいきません」


「そうですか、ところで父との御関係は?」


「メラニー、取り敢えず座ろうじゃないか。折角のコーヒーが冷めてしまう」


 メラニーの父はスペイン語、葛木は笑って対応はしているが話の内容があまり掴めていない。

方やメラニーは英語で喋ってくれている。

しまった、スパニッシュ、ここは都会じゃないんだ。田舎なんだ。想定しておくべきだった、と葛木は思っている。

そして、この女性がいてくれたことに感謝をする。


 3人は椅子に座ると、葛木が今までのこと、シトローサ少尉の父親とメラニーの父親が知り合いであった事、自分は日本から来た軍人で潜水艦乗りある事、この国で最後を迎えようと思っている事などを話した。

時々、メラニーはスペイン語で父に説明を加えたりしていた。


 葛木は訊かれたことには丁寧に話した。

時々身振りを加えたりしながら、発音を間違えたり、選ぶべき単語が見つからなかったり。

それでも、そんな葛木の純朴な性格が気に入られたのか、3人は打ち解けあっているかのように見える。


 話が終わった頃には3杯目のコーヒーを飲んでいた。

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