第五章:思い出の旨味と青い空④
「先輩、ハッキリ出来ないのは、自分よりも他人を優先するという性格があるからと分かってます。けど、落とし所なんてないです」
まぁ、それはそうかもしれないけども。
「……わ、私。私が、その、引くべきだと、思っています。……私は、この後に及んで……「先輩の絵が描けなくなると困る」と思いました。多分、資格というものがないです」
「……いや、それは俺も似たようなもんだしな。……あー、その、まぁ、いや……あんまり俺だけ心情を隠すのは卑怯だと思うし話がこんがらがるから言うが……俺は、二人ともがすごく心配だ」
ふたりが声を出すよりも前に矢継ぎ早に言葉を話していく。
「ストレスで味覚障害や不眠症を患ってるやつを放っておくのも、一年話してもない男のいる高校に入学するやつも、どっちも放置していられないんだよ……」
思い切り息を吐いて、ふたりをジロリと見る。
「好きとか嫌いとか以上に……「コイツら俺がフッたらマジで死ぬんじゃないか?」という懸念があるんだよ……」
「死にませんよ。失礼な」
「いや、マジで……シロハ、お前……一年越しに会ったやつがこの距離感だぞ、全然普通じゃないからな」
息を吸って、深く吐き出す。
「……本当に、ずっと心配だった」
「……む、むぅ」
「それでキイロ」
「へ? は、はい!」
「味覚は?」
「苦いのは少し……」
「寝れてるか?」
「さ、最近は、少し……」
キイロの話を聞いて、シロハの方を向く。
「二人ともこんなんだぞ!? そりゃ心配にもなるだろ……!」
「…………すみません」
「フラれるのも覚悟してます……みたいな雰囲気出してるけど、こっちはかなりいっぱいいっぱいなんだよ……! ふたりとも全然俺以外の友達作らないしな!?」
「そ、そんなに簡単に作れませんよ、友達なんて……!」
「そ、そうです! 矢野さんの言う通りです!」
ふたりして反論してくる。何で友達を作れないところだけ息が合うんだよ。
「ふたりとも顔がいいんだから適当に笑いかけてたら男女問わず入れ食いみたいに引っかかるだろ。それをムッツリと不満そうな顔をしたり、無限に絵を量産したり……!」
少しずつ、自分の中に秘めていた言葉が具体的なものになって口から漏れ出ていく。
「そんな奴らをフれるか! マジで俺がフったら学校で誰とも話さないだろ!」
「ぷ、プリントが回ってくるときとか、ちゃんとありがとうって言いますもん!」
「そうだそうだ!」
「それは会話って言わねえんだよ……! 言っとくけど、今この場でどちらかを選ぶみたいなことになったら、どちらの方が好きとかじゃないからな? どっちの方が要介護レベルが高いかの話だからな、覚悟しとけよ!?」
「お、お昼を食べにきただけなのにめちゃくちゃ言われてる……」
「それはごめん」
おほん、と、咳をしてからシロハを見る。
「それで、何か話はあるか」
「……ちゅ、中学生のころ、人と関わるのが嫌という理由で家庭教師と塾の両方を断りました。親に納得してもらうためにめちゃくちゃ自主学習をしました。結果、親は余計に私の心配をしました」
「こ、コイツ、恋愛に勝つためにダメさをアピールし出した……。何でそのなりふり構わないメンタリティを友達作りに活かせないんだ」
シロハから目を逸らしてキイロの方を見ると、キイロはピシッと背を伸ばす。
「それで、キイロ。何かあるか」
「え、えっと……最近一切勉強してません。も、もし学校を辞めることになってもフミ先輩が面倒を見てくれそうだと思って……!」
「面倒見てくれそうだと思って……! じゃねえんだよ! 何で怒られてちょっと嬉しそうにしてるんだ、天下一ダメ人間コンテストをやってるんじゃねえんだよ、今、俺、東野に対してよりもキレてるからな!?」
「あ、新たな強力なライバルが出ましたね」
「違えよ!? キイロ、全校集会何してたんだよ!」
話している間にチャイムが鳴ったが……コイツら、どうせ内申点なんてあってもないようなもんなので続行だ続行。
「え、えっと、全校集会……?」
「さては夢中で絵を描いていてすっぽかしただろ。俺が演説したんだよ!」
「めちゃくちゃ下手な演技でした」
「うるせえ! そ、そんなんだからバッタになれないんだよ! ……はあ、俺だってさ、普通に女の子とイチャイチャしたいとぐらい思ってるんだ。でも出来ないのはな、俺を慕ってくれてるふたりがあまりにも問題児だからだ。……変わり者で有名な城戸の方がだいぶマトモだからな。「怪奇研究会:キャプテン」というアレな称号の持ち主よりもアレだという自覚を持てよ」
「か、かつてないほど酷い罵倒を受けてます」
長々と文句を言って、それからふたりを見る。……問題児だけど、優しいんだよなぁ。
見捨てるに見捨てられないほど情がある。
「はあ……俺だって本当は彼女作ってイチャイチャしたりムフフなことをしたりという青春を送りたかったんだ」
「え、えっと、いいですよ? しても」
「キイロ、誘惑するな。男子高校生の性欲を甘く見るんじゃあない」
「は、はあ……」
「だからな。俺がどちらかと付き合うためには、フラれた方が死なずに健康的に生きてもらう必要がある。分かるか」
二人の方を見ると、キイロはあまりピンと来てる様子はなく、シロハの方は「なるほど」とばかりに頷いていた。
「つまり……ダメ人間であればあるほど先輩が他の子と付き合うのを我慢してくれて、僕と付き合う可能性があがる。そういうことですか」
「あ、そういう話だったんですね。えっと、あっ、えっと……わ、私あれです、味覚がおかしくなる前から普通に偏食でした!」
「そういう話じゃねえんだよ……! 別にダメ人間が好みなんじゃないんだ……! ダメ人間が好みなら東野が一番ダメなやつだからな!? 俺が東野と付き合うことになってもいいのか!?」
「そ、それはなんか違うんじゃないです?」
とにかく、とにかくだ……。
「どちらかを選ぶとか、そういうレベルじゃないんだよ……!」
「す、すみません」
俺とシロハがそんなやりとりをしていると、キイロがぴょこっと手を挙げる。
「あの、素人質問で申し訳ないんですけど、交際って一人としかしてはいけないものなんですか?」
「そのフリからマジの素人質問が飛んでくるなよ……! 一人しかダメなんだよ……!」
「す、すみません。詳しくないもので……」
息を切らせながら、キイロの頭を撫でる。
「……けど、まあ、悪い。……どうするか、考えるか。文句ばっかり言ってても仕方ないしな」
「今日、フミ先輩のお宅に行ってもいいですか?」
「あー、今日は……他にやることが多いから。キイロは門限もあるから、そんなに遅くは無理だろ?」
「……いえ、平気です」
「そうか? なら、いいけど……あー、じゃあコレ」
ポケットから鍵を取り出してキイロに渡す。
「流石に何時になるかも分からないのに学校で待たせとくのも悪いし、俺ん家で待っといてくれ。城戸には俺から連絡しとくから」
「あ、合鍵……わ、私にもください!」
「合鍵じゃなくてメインの鍵だから……というか、一回貸すならまだしも、ずっと渡しっぱなしは無理だからな、城戸も住んでるんだから」
「む、むむぅ……先輩、私たちが真人間になったら城戸先輩と付き合うとかしないですよね?」
「するわけないだろ……。あー、悪いな、そろそろ授業に戻るか」
一旦解散して、授業を受けて放課後になった。
俺から動くまでもなく、いつのまにか始まっていた署名のリストが放課後になるのと同時に俺の机に運ばれてきて、ペラペラとめくって被りや不正なものがないことを確認してから立ち上がる。
……あー、臨時の代理とはいえど、生徒会長とかやりたくない。
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