第11話『探索と同行人』

 決断してしまえば、行動は早かった。

「出発は昼過ぎだ」

 アントワーヌが言った。

「探索のメンバーは? 」

 すかさずリクが尋ねる。

「同行したい者は? 」

 アントワーヌが従業員たちに問うと、ぱらぱら と手が上がった。

「はい! 」

 まずは、好奇心旺盛なリク。

「リクが行くなら、私も行こうかしら」

 とレア。

「なら、私も」

 ゾーイも控えめに手を上げた。

「リリイが行くなら、行こうかな。もしかしたら言語で役立てるかも知れないし」

 コリンがいた時代が どうだったかは分からないけど一応ね、と彼女は付け足して、はにかんだ。


 何度も言う通り、“無番汽車”は摩訶不思議な汽車だ。コリンやリク、レア、アダム、ゾーイ、その他従業員たちの ほとんどが、違う国籍を持つ、乗車してしまった人たちなのだ。そうなると無論、言語も違ってくる。

 従業員たちの言語問題を解決しているのが、汽車の天井中に張り巡らされた小型の翻訳機械、通称多言語同時翻訳発声システム。話し手の発した言語を“同時”に“複数の言語”に、話し手の声や喋り方の特徴そのまま翻訳してくれるという優れものだ。従業員たちが外で活動する場合は、耳に装着する補聴器タイプのものを使用している。

機械のお陰で、彼らは なに不自由なく内外関わらず お互いに意思疎通ができている。が、当然、翻訳機をつけていない人間相手には無力なのだ。


 ゾーイのネイティヴは英語だ。彼女の通訳は、これまでの旅でも非常に役立っていた。

「そうだな。ゾーイがいてくれたほうがいい」

 アントワーヌも頷いた。

「言語の観点で行くなら、アダムさんも同行すべきではないでしょうか? 」

 部屋の隅で ひっそり話を聞いていたソジュンが ひっそり言った。

「アダムさんも英語、喋れますよね? 」

 ソジュンからの問いに、アダムは苦い表情で「まあ、いちおうな」と答えた。

「あんま使わねえから、かなりカタコトだけどな」

 じゃあ、アダムさんも行くってことで──と言い掛けたソジュンを遮ったのは、アントワーヌだ。

「いや、今回、アダムは同行させない」

 指揮官は キッパリ 言い放った。

「どうして? 」

 と、リク。

この質問をしたがっていたのは、彼女だけではなかった。全従業員、なによりもアダム本人が尋ねたがっていた。

 視線をあつめる指揮官は、「もちろん お前らの考えてることは分かっている」とでも言いたげに、頷き、汚れていないスーツの胸元を払った。

「アダムには、汽車に残って貰う。俺が留守にしている間、汽車における全権と全責任を負ってもらう」

「え」

 誰かが声を漏らした。

「と、いうことは──」

「今回の探索、俺が同行するということだ」

 アントワーヌが ゆっくりと告げた。

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