第27話『消える森と妖精の家』

 ロス夫人が銃声を追い、ロス氏が夫人を追い、従業員一行がロス氏を追った。

「キーラ! キーラ! 」

「リビー! リビー! 」

「ロスさん! 待ってください! 」

 必死に追いかけたが、森は動物や妖精たちの持ち物だ。人間の道なんてない。

 幹をまたぎ、枝をくぐり、顔にかかる葉を押しのけている間に、ロス夫人の声も、ロス氏の声も、聞こえなくなってしまった。

「ふたりとも、どこに行っちゃったのかしら」

 レアが、息を切らしながら言う。

「ふたりとも、見失っちゃった」

 リクが つぶやく。

「森の中で バラバラ になるなんて」

 と、ゾーイ。

「ねえ、コリン。この森のこと、詳しい? 」

 聞かれ、コリンは ぶんぶん 頭を振った。

「全然! 森には入るなって言われてたから。林道ではよく遊んでたけどね」

「帰るための目印もつけてこなかったし、完全に迷った──」

 ゾーイが言った。

「僕たち、迷子になっちゃったってこと? 」

 コリンが言った、その時だった。

「たぶん お目当ての ふたりなら、“妖精の家”のほうに行ったと思うぜ」

「うわっ! 」

 背後から声を掛けられた。

 コリンは、思わず腰を抜かしてしまう。

「おいおい、大丈夫かよ」

 と茂みから出てきた3つの姿に、従業員一行は「あ! 」と声を上げた。

 現れたのは、汽車で留守番していたはずの、炭鉱夫ふたりアダムとニック、コリンと同じスチュワートのミハイルだったからだ。

「お前ら! なぜこんなところに。汽車はどうした」

 アントワーヌが尋ねた。

「こんなところ? 」

 アダムが首を傾げる。

「ここらは汽車が停まってるすぐ近くだぜ? 知ってるだろ」

 ほんの5分も歩かねえうちにある、と、アダムは後方を親指で示した。

「ミハイルが、どうしても鳥の丸焼きが食べてえっつーからよ、狩りに来たんだ」

「狩り? 」

 リクが聞いた。

「ああ。狩り! つっても、こんなのしかねえがな」

 と、アダムが手に握った物をアントワーヌに差し出した。

「これは──」

「ピストルだ! 」

 リクが叫んだ。

「さっきの銃声は、アダムたちだったんだ」

「そう」

 アダムが頷く。

「人が来たから、咄嗟とっさに隠れた」

「どうしてこんな物を? 」

 ゾーイ。

「ニックが持ってたんだ」

 アダムが答えると、ニックも前に進み出て、自分の分を見せた。

 アダムが持っている、すべてが細長いピストルと違って、ニックが持っているのは銃身が ふっくら していて、銃口が細い、ハチドリのような見た目をしていた。

「二丁あって、一丁をアダムに やったんだ」

 とニック。

「足元がわりい森の中だ。まさか、トニたち以外の人間が入って来るなんて思いもしなかったんだよ」

 アダムが説明した。

「おとこのひと、おんなのひと来た。だから鳥、まだとれてない」

 ミハイルが ぼんやり付け足した。

「お前らの事情はよく分かった」

 アントワーヌが冷静に言う。「それより」

「その ふたりが消えた先──」

の方だろ? 」

 何とも無い、というように、アダムが答えた。

「その、妖精の家って? 」

 コリンが尋ねると、アダムではなくミハイルが、前に出てきて説明してくれた。

「妖精、おうち、もつ。にんげんと、おなじ」

 でも、とミハイルは続ける。

「おうち、つかわれない。ずっと むかしの おうち。おうちの ぬけがら。それが、《妖精の家》っていうの」

「あそこにあったのは、誰の おうちだったの? 」

 と、リク。

「〈創作の精レプラホーン〉」

 ミハイルは、はっきり答えた。

──〈創作の精レプラホーン〉! 

 旅芸人一行は顔を見合わせた。

「あのね、アダム」

 と、リクが言う。

「メルもね、いなくなっちゃってるの! 」

「メルがか⁉ 」

「そう。ここはね、コリンの故郷だけじゃなく、メルの故郷でもあったんだよ! 」

 アダムとニックが目を丸くしている横で、〈入れ替わりの精チェンジリング〉を正体に持つミハイルだけが、ぼんやり 落ち着いた顔をしていた。

「メル、帰ってるかも。やっとわかった。呼ばれてたの、コリン、ちがう。メルが、呼ばれてた」

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