第25話『事情聴取と捜索開始』

 ロス氏いわく、キーラは毎晩、どこかへ出掛けてゆくのだそうだ。昨晩も宴会中に席を外し、日が変わる頃に帰ってきたのだと言う。

「どこかへって、どこへ行っているのか知らないのかな? 」

 ボイル氏は、住民たちを野原や林へ、捜索に出した。

ロス夫妻を家へ呼び出し、最近のキーラについて話してくれるように頼んだ。

「どこへ行くのか聞いても、答えてくれないもんですから。で、うちの娘は」ご存知だと思うのですが、「私ら夫婦よりも、ずっと しっかりしているんです。なので、本人が大丈夫なら、私らが口を出すものではないな、と」

「きのうは帰ってきたんですか? 」

 とボイル夫人。

「ええ、いつも通り、日が変わる前には帰ってきました」

 ロス夫人。

「いくら娘が大丈夫と言え、私たちも心配ですから」

「そうですわよね」

 婦人たちは眉を下げ合って、黙ってしまった。

「なら、いなくなったのは、ついさっきってことなんですか? 」

 ゾーイが口を開いた。

 ロス氏の ぽかん とした顔に気がついて、ボイル氏が言葉を訳して伝えた。

 ロス氏が答える。

「いえ、それが、明け方なんです。“ちょっと行ってくる”と言って出て行ったきり、帰って来なくて──」

「でも、ふだんも長い時間 帰って来ませんよね? 」

 そうだ。きのうの宴会は午後7時ごろから開かれて、9時ごろ終わった。途中で抜け出した、ということを考えると。8時ごろ抜け出したと考えて、午後12時。つまり、4時間は出掛けていたことになる。

「早朝に出たと おっしゃってましたが、いまも まだ午前中です。どうして きょうは心配になったんですか? 」

 ゾーイからの鋭い質問に、ロス氏は、「それは、あの……」と口ごもってしまった。

 一瞬押し黙って、何かひらめいたというように目を見開くと、「だってほら」と口を開いた。

「エーファ嬢の、結婚式なんですから。すぐに戻って来て、準備を手伝うのは当然のことでしょう」

「そうか」

 ロス氏の説明に、ボイル夫妻は納得の様子だった。が、旅の一行は、そうではなかった。

 ゾーイは悟られないようにサイドのふたりを見比べた。どうやらレアもアントワーヌも納得していないようだ。腕組みをするアントワーヌとうなずき合うと、ロス氏に向き直る。

「とにかく、事情はわかりました。一緒に捜索させてください」

「ああ、助かります」

 ロス氏は何度も何度も、旅の一行に頭を下げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る