第24話『開催準備と迷子の知らせ』

 結婚式当日ということで、集落は大変な賑わいを見せていた。

 昨晩と同様に、家中のテーブルや椅子が広場に出され、花や葉で飾り付けられていた。集落中の人間が外に出ていて、せかせか と きょう一日の仕事を終わらせようと汗をかいている。

「こんな時にたずねちゃって大丈夫かなあ」

 リクは言ったが、人々の しっちゃかめっちゃかとは反対に、ボイル家は いつもと変わらぬ朝を過ごしていた。

「おはようございます。昨夜は ありがとうございました」

 玄関を開けるや否や、ボイル氏は従業員たちと握手を交わした。

「興奮して、みんな眠れなかったと言っていますよ! かく言う私も、その中の ひとりなんですがね」

 さ、どうぞどうそ。と、昨日と おなじ、一行は家の中へ誘われていってしまい、コリンは またひとり、玄関の前に置き去りにされてしまった。

「また ひとりになっちゃった」

 外が騒がしいのをいいことに、コリンは独り言ちした。しかし、きのうと違うところは、答えてくれる鈴がないことだ。

 さびしく うしろを振り向くと、会場の準備をしていたリアンさんが運んでいた椅子に つまずいて盛大に転げていた。

「きょうはエーファとムルトさんの結婚式なんだ」

 信じられない。僕のいた時空せかいでは、エーファは僕と結婚したんだ。けれど、こっちでは違う。エーファは僕以外の人と結婚して、僕も、エーファ以外の人と結婚する──

 ここまで考えて、「おや? 」コリンは首を傾げた。

「ところで、こっちの僕は、誰と結婚するんだろうか? 」

 と、そこに、ひとりの男性が駆けてきた。脚がもつれてしまいそうなほど慌てた様子だ。

 コリンは目を凝らした。

「キーラのお父さんだ! 」

 キーラのお父さん、ロス氏は、血の抜けたような顔でコリンの横を通り過ぎると、エーファの家の扉を、ドン ドン ドン! 力いっぱい叩いた。

けたたましいノック音に急いで出てきたボイル氏は、目の前のロス氏を見て、「ロスさん、どうした」魂消た様子で尋ねた。いつものロス氏と言えば、しっかり者のキーラと真逆で、どこか抜けていて、おっとりした人物だったからだ。

「すごい音。どうしたの? 」

 ボイル氏の後ろにも、ボイル夫人にエーファ、一行と、玄関のロス氏をのぞいている。

「あの……ボイル……さん」

「まあまあ、息を整えて──」

 ボイル氏が家の中へ引き込もうとする手を、ロス氏は振り払った。

「急ぎなんです! 」

 肩を上下させてロス氏が叫んだ。

「娘が……キーラが、行方不明なんです! 」


 「キーラが行方不明になった」

という報告は、すぐに集落中に広まった。

 領主のボイル氏は、待ちに待った娘の結婚式を中止し、熱意をキーラ探しに向けるよう、集落の人たちに伝えた。

「おもてなししたかったのですが、申し訳ありません」

「いえ、とんでもない! 」

 ボイル氏から頭を下げようとするのを、ゾーイが急いで止めた。

「それよりも、キーラちゃん探し、私たちにも手伝わせてください! 」

 ゾーイのこの提案で、コリンたち旅の一行も、キーラ探しに加わることになった。

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