第38話『月の湖畔と贈り物』

 日が落ちきり、月の明かりしか手掛かりがない湖のほとり。キーラの姿はあった。

「お嬢さん」

「メル! 」

 名前を呼ばれ、メル⁼ファブリは茂みから姿を現わした。

「どうして? 旅の人たちと行ったとばかり──」

「渡し忘れた物が、あったんじゃ」

「渡し忘れた物? 」

 尋ねられて、メル⁼ファブリは両手の包みを持ち上げた。

 キーラは首を傾げたが、すぐに受け取ってくれた。包みを開き、目を見開く。

「洋服? 」

「ドレスじゃ」

 と、メル⁼ファブリ。

「結婚が近いんじゃろ? 」

 言うと、キーラの顔がほころんだ。

「ありがとう」

 胸に抱えて、礼を言った。

「その林檎の指輪をつけている間と同じように、このドレスを着ている間は、妖精が見えるようになる」

 メル⁼ファブリは言う。

「着るか着ないか、この服を どうするかは、お嬢さんに お任せするぞ」

 説明を聞いて、キーラは こっくり、頷いた。

「最初は、あんなに無口だったのに」

 微笑んで、メル⁼ファブリを見る。

「着るわ。大切に着る」

 小指に はめた、種の指輪を、月明りに照らす。

「これをはめる前まで、アナタに会う前までは、妖精なんて見えなくていいと思っていたのよ。ひいばあさんは、妖精が見えたせいで、されたくもない特別扱いをされた。腫れ物に触れるように扱われ、ろくに友達もできなくて。見えなくなったらなったで、勝手に失望されて、妖精からは無視をされ、集落の人たちからは変人扱いされて──いるかいないかも わからない妖精のために、毎日 家の床にパンとミルクを用意したり、森にある巣穴にパンを持って行ったり、正直、うんざりしてたのよ」でも、「アナタと会って、すべてが変わった。本当に妖精はいた。私のワガママに付き合ってくれて、こんな、素敵なドレスまでくれた」

 私ね。

「これから、妖精を見続けることにするわ。うまく付き合っていくの。今すぐ集落の人に言うかはまだ悩んでいるけど、でも、いつかは告白するつもり。私は妖精が見えるのよってね。うまく共存してゆくの。どうかしら? 」

「素敵じゃと思うぞ」

 少女のおおきな夢に、メル⁼ファブリは しっかり頷いた。

「ありがとう」

 微笑みを交わす。

「ところで」

 メル⁼ファブリが切り出した。

「おつかいを頼みたいんじゃが、いいかの? 」

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