第20話『森の中と行方』
カラン、カラン、カラン、ドスン。
上機嫌に転がっていたメル⁼ファブリだが、ふいに変身が解けて地面に投げ出された。
目的地までまだ すこし距離はあるが、変身が解けたのが森の中で良かった。メル⁼ファブリは思った。
とつぜん飛び出してきてしまって、アントワーヌたちは心配するだろうか。ひと言かけてくればよかった。と思ってすぐ、口のない鈴に何を伝達できただろうか! と考え直した。
目の前で カランカラン と鳴って動き出せば、きっと汽車の一行は どうしたのかとメル⁼ファブリを追って来たに違いない。メル⁼ファブリは “ひとりで”、ひっそり行動する必要があったのだ。
人の気配がして、身を
月明りしかない、暗闇の林の中。
カレには名前がなかった。
カレは一介の〈
妖精には おおきく分けて、3種類ある。小妖精、中妖精、大妖精だ。
ピクシーのように体が ちいさく、群や家族と常に行動を共にする力の弱い妖精が、小妖精に分類される。一方、“砂の精”のように力が強大で数が少なく、常に単独行動をしているのが大妖精。そして、それ以外の半端者が、中妖精に振り分けられる。
〈
巣穴に隠れて物を作っていたり、どんぐりや石ころをコインに変えて人間に いたずらしたり、特にこれといった力を持っていない〈
陽のあたらない穴倉で チクチク サクサク 愛すべき衣服たちを
「ああ、誰か」
〈
誰とも言葉を交わさないから、ガラガラ になった声で つぶやいた。
「ワタシの作品を見ておくれ。着ておくれ。ああ、誰か……!」
その時だった。
「巣穴の天井が崩れ落ちたのじゃ」
メル⁼ファブリは語った。
「ひとりの少女が、私の巣穴を壊したのじゃ」
「へえ。オジイサン、よくそれで無事だったね」
ピクシーの ひとりが言った。
この6匹組のピクシーたちは、この時空の この場所に滞在している物好きらしい。いまは睡眠前の散歩中で、たまたまメルファブリに出くわしたのだ。
「で、なにか ご用かい?
リーレルたちと違いお人好しで、察しがよいピクシーは、メル⁼ファブリに尋ねた。
「その少女を探しておるのじゃ」
「おや、また どうして」
ピクシーたちは目を まんまるにして質問した。
「呼ばれたからじゃ」
と、メル⁼ファブリ。
「お主らも知っておろう、“あの汽車”の存在を──」
「“ボクらの汽車”のこと? 」
「そうじゃ。人間らの間では、“
メル⁼ファブリの言葉に、ピクシーたちは「“無番汽車”? 変な名前っ! 」と笑うと、「ああ、なるほど」と続けた。
「人間が“汽車”を呼んでるって話は聞いてたよ」ここの妖精が騒いでたからね。「呼ばれてたのはオジイサンだったんだ! 」
ピクシーたちは合点と言うように細く ちいさな手を打ち鳴らした。
「ここらに来ておらんか? 」
メル⁼ファブリが尋ねると、ピクシーたちは体に見合わない おおきな
「来てるよ。ついてきて! 」
そして、メル⁼ファブリを連れ、森の奥底へと飛んで行った。
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