第40話『ちいさな僕とおおきな僕』

 森の向こう、湖のほとりで、キーラから聞いた話しを聞いて、コリン青年は、しばらく固まっていた。

「僕とエーファのために、式を引き伸ばしたなんて──」

「そうだよ」

 コリンは つぶやくように言い、首を小さく、上下させた。

「それに、キーラが僕を好いてくれていたなんて。はじめて知った。キーラとの結婚が決まって以来、ずっと冷たくされていたから、てっきり、僕のことが嫌いなんだと思っていたよ。そっか、キーラは、自分の横にエーファを見ると思っていたんだね」

 そんなことないのに。と、コリン青年は言う。

「キーラはキーラで、エーファはエーファだ」

 たしかに、僕はエーファが好きだ。

「けど、キーラにエーファを重ねるなんてしないよ」

 僕は、エーファと同じくらいキーラも大切なんだから。

「うん、知ってるよ」

 それは、コリン自身も同じだった。

 コリンたち3人は、生まれてから ずっと一緒だった。どこに行くにも、何をするにも一緒だった。エーファに恋愛的感情を抱いていたのは否定しない。でも、だからといって、キーラが2番目だなんて、コリンの中にはなかったのだ。誰が1番で2番かなんて、はじめからなかった。

「僕たちは、ずっと3人だよ」

 コリンが言った。

「そう、僕たちは3人でいることに意味があるんだ」

 コリン青年も釣られて つぶやく。はっ として、コリンの栗色の目を見つめる。

「君──」

 2度、ゆっくりまばたきをする。

「君って、本当に“僕”なのかい? 」

「うん、そうだよ」

 コリンは可愛く笑う。

「ちょっと ちいさいけど、正真正銘、僕だ」

「夢を見ている気分だよ」

 コリン青年は両の手でほおを叩いた。「痛っ」と、自分で痛がっている様子を見て、コリンは笑ってしまう。

「夢だと思ってもらって構わないよ。というより、そっちのほうが都合がいいかも! 」

 うん、と自分の考えに頷き、青年を見る。

「僕、そろそろ行かなきゃ。ずっと にいることができないんだ」

「“こっちの世界”? 」

 尋ね返すコリン青年に、コリンは、「ま、いろいろあるんだよ」と はぐらかした。

「じゃあね」

 コリンは言う。

「うん。なんだか、不思議な体験だったよ」

 コリン青年が言う。

 行こうとして、振り返った。コリン青年は立ち上がった姿勢のまま、ちいさなコリンの背中を見送っていた。

「あのさ」

 コリン。

「キーラのこと、よろしくね」

「うん」

 コリン青年は やさしく微笑んで、頷いた。

「今までと おんなじに、幸せに暮らすよ」

「うん」

 今度はコリンが頷いた。

 ふたりは手を振り合い、それぞれの家に帰って行った。

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