エピローグ『日常』

 「ふぇぇ、くっしゅん! 」

 くしゃみが廊下に響き渡る。

「もう冬だよ! 」

 自分より すこしだけ ちいさな背丈のモップを担ぎなおして、コリンは持ち場へ向かう。

きっと今頃、ぼんやりした相方、ミハイルが なにかトラブルを起こしている頃だろう。それか乗客の妖精や幽霊たちが、部屋を めちゃくちゃにしているかだ。どちらにしろ、大変なことには変わりない。

 様々な大惨事を予想して、溜息を吐く。これが、コリンの日常だ。

 もし“砂の精”に出会わなければ、もし汽車に乗り込まなければ、コリンはエーファと結婚し、幸せに暮らしながらも、領主としての修行に追われていただろう。

 でも、もし“砂の精”に出会わなければ、もし汽車に乗り込まなければ、広い世界を見ることは無かっただろうし、いまの仲間たちに出会うこともなかった。キーラの本音に触れることもなかっただろう。

 元の世界に帰ることを諦めた訳ではない。置いてきてしまったエーファのことだってある。

 いま、彼女は なにを考え、なにを思っているのか、考えない日はない。

 だからこそ、とコリンは前を向く。

 元の世界に帰ることがあるのなら、成長した姿を見せたい。彼女を生涯 笑わすことのできるような、強い人間になっていたい。

「エーファ、ごめん、でも、待っていて欲しい。キーラ、どうか、エーファをよろしく」

 3人は ずっと一緒だ。だから、この“日常”を精一杯に生きよう。


 パタパタパタパタ。

 ミシンの音が回る部屋。コツコツ 軽いノックが鳴る。

「どうぞ」

 メル⁼ファブリは客を招き入れる。

 ポロロロロン、ポロロロロン、入ってきたのは、ふたごの木製人形、“マリア”と“マルコ”。汽車の機関助士、マリアとマルコだ。ここは摩訶不思議な“無番汽車”。ふつうの人間から呪われた人間、妖精や幽霊、はたまた命を宿した人形までもが共存する。

「どうしたんだ? 」

 メル⁼ファブリが尋ねる。

「リーレルたちからの伝言だよ! あっははは! 」

 と、マリア。

「キーラ、ロバ頭のじいさんのドレスで結婚式! ひひひ、ひひひ」

 マルコが言う。

「とっても綺麗だって! あっははは! 」

「そうか、そうか」

 嬉しい報告に、メル⁼ファブリは目を細めた。



【『【世界異次元旅行記】ミスターロコモーティヴと満月の花婿』完】

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【世界異次元旅行記】ミスターロコモーティヴと満月の花婿 サトウ サコ @SAKO_SATO

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