第35話『懺悔と足音』
キーラを集落へ送り届けたあと、メル⁼ファブリも汽車に戻っていた。
「よかったのか? 」
アントワーヌの部屋の扉を開くや否や、尋ねられた。
「ワタシを呼んでいた人間には会えたのでな」
「そうか」
アントワーヌはメル⁼ファブリの言葉に短く
「それなら、どうして俺の部屋に来た? 」
「感謝を伝えに来たのじゃ」
メル⁼ファブリは答えた。
「感謝? 」
「日頃の感謝じゃ。ワタシに仕事を与え、ワタシの服を着てくれている」
ワタシに名も与えてくれた。
「アントワーヌ、お主はワタシの恩人じゃ。その感謝を伝えに来た」
「恩人か──」
メル⁼ファブリが作った
「なら、どうして黙っていなくなった。恩人だというくせに、
問われ、メル⁼ファブリは耳を畳んだ。黒目がちの目を パチパチ
「言うべきじゃった。しかし、鈴だった
「違う」
メル⁼ファブリの言い訳を、アントワーヌは食い気味に制した。
「お前は最初から すべてを分かって計画していた。コリンに、あいつの時代に停まると言って
あいつが〈プーカの衣装箱〉を持っていることは、リーレルたちが知っていたからな。
「いちばんの疑問は、なぜ、俺に相談しなかったのかということだ。汽車が呼んでいたのがコリンではなく お前であったと最初から知っていたなら、俺はリスクを抱えてまでコリンを汽車から降ろさなかった。他の奴らに探索に出掛けさせ、お前も解放してやった。妖精である お前を汽車に
「まったくもって、その通りじゃ」
メル⁼ファブリは深く頭を下げた。
「たしかにワタシは、コリンを そそのかすようなことをした。妖精らから、呼ばれているのはワタシじゃと言われておったのに、黙っておった。アダムが〈衣装箱〉を持っていることも、知っておった。それもアントワーヌ、お主の言う通りじゃ」
じゃが。メル⁼ファブリは顔を上げて、アントワーヌを見た。
「ワタシは、目的を果たす気はなかった。黙ってお主らから離れる気も。ただ、故郷が見たかっただけなんじゃ。それはコリンも同じ気持ちであったろう」
「故郷を見て、心が変わったと? 」
「情けないが、その通りじゃ」
メル⁼ファブリは再び、視線を下げた。
「故郷を見て、森を見て、ふと、ワタシを呼んだ人間に会ってみたくなってしまったのじゃ。かつて住んだ巣に帰れば、答えがわかるような予感がした。その直感に
じゃが、お陰で、もう悔いはない。また、衣装係として ここで働かせてもらいたい。
そう言って
「汽車の出発時間はいつと言っていた? 」
「今回は丸3日、明日の午前1時頃と──」
「そうか……」
頷いたきり黙ってしまったアントワーヌを、メル⁼ファブリは そっと見上げた。
なにを考えているのだろうか? アントワーヌはメル⁼ファブリの背後に位置する扉を じっと見つめている。
「アントワーヌ──? 」
尋ねようとした、その時だった。こつん こつん。こちらに迫って来る、足音が聞こえた。
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