第30話『名付け親と迷子の理由』

 「キーラちゃーん」

「キーラちゃーん」

 旅芸人一行は、森の中で探索を続けていた。


 「手分けして探したほうがいいと思うんです」と提案したのは、コリンたち一行の方だ。

「では、私たちは、森を──」

 言い掛けたロス氏を、遮ったのはアントワーヌで、ほとんど無理矢理、ロス氏を集落へ押し返した。

 いたずらに森を探索されて、停車中の汽車を見つけられてはまずかったからだ。


 「それにしても、メルにそんな過去があったなんて! 」

 レアが言う。

「メルとキーラちゃんに そんな関りがあったなんてね」

「そうだね。世間は狭いわ」

 ゾーイもうなずく。

「それにしても、メルって、メル⁼ファブリって名前だよね? 」

 とリク。

「ファブリはどこから来たのかな? 」

「俺がつけた」

 アントワーヌ。

「〈創作の精レプラホーン〉は人見知りでな。最初、名前を聞いても名乗らなかったのだ。“オマエ”と呼ぶのも不便だからつけた」

「いつしか心を開いてくれるようになってね。ジブンのこと、“メル⁼ファブリ”って名乗るようになったのよ」

 レアが締めくくる。

「素敵だね」

 リクが ほっこり笑う。

 一行が微笑みを交わす中、ひとり、暗い顔をしている人物がいた。コリンだ。

「キーラ……どこに行っちゃったんだろう」

 コリンの つぶやきに、他の従業員たちも、本来の目的を思い出したようだ。

「そうね。家に戻ってると良いけど」

 ゾーイが言う。

「家に戻ってるんだったら、家妖精ホブゴブリンたちが伝えにくるだろう」

 妖精とコミュニケーションが取れる一行は、妖精たちにも、キーラ探しを頼んでいたのだった。

「それにしても、変よね。私たちがキーラちゃんを探していることは、ホブゴブリンだけではなく、他の妖精たちにも伝わっているはずなのに、こんなに見つからないなんて」

 レアの言葉に、リクが、「うーん」と続けた。

「さっきミカが、“呼ばれてたのはメルだ”って言ってたでしょ? 」もし、もしもだよ。汽車をキーラが呼んだんだとしたら「私たちに、見つけて欲しくないのかも知れない」

「なるほど」

 と、アントワーヌ。

「メルを望んだのはキーラでも、汽車を呼んだのは妖精たちだ。俺たちがキーラや、メルを見つけるのを、妖精たちが望んでいない、ということか──」

「なら、どうするのよ」

 と、レアが言った時。「あ」一行の目の前を、黄色い、ぽわぽわ したものが通った。

「〈迷子の精ウィル・ウィズ・ウィスプ〉──」

 アントワーヌが つぶやいた。

「〈迷子の精ウィル・ウィズ・ウィスプ〉? 」

「森に住む小妖精だ。こうしてランタンの明かりのように光り、目の前に現れることによって、追ってきた人間を迷わせるという。いたずら妖精の ひとつだ」

 リクの問いに、アントワーヌが答えた。

「でも、こんなに近くに現れちゃったら、意味無いんじゃないの? 」

 ランタンの明かりじゃないって、丸わかりだよ。

「もしかして──」

 ゾーイが、リクの言葉に はっ となって言った。

「もしかして、私たちのことを導こうとしてるのかも知れない」

「間違った方向に導くのが、〈迷子の精ウィル・ウィズ・ウィスプ〉なんじゃないの? 」

 レアが聞くのを、ゾーイは、「違う」と否定した。

「リクも言ってたでしょう、“こんなに近くに来たら、ランタンじゃないって分かっちゃう”って。きっと、私たちをメルのもとに導こうとしてくれてるんだよ」

 そうでしょう? ゾーイは、光に聞く。光は ふわふわ 宙に浮いたきり、うんともすんとも言わない。きっと違うわよ、と言うレアの言葉を遮って、ゾーイは再び、〈迷子の精ウィル・ウィズ・ウィスプ〉に尋ねた。

「私たちを、メリィとキーラのところへ、連れて行ってくれる? 」

 すると、黄色く光る玉は、左右に揺れると、ふわふわ と、まるで、誘うように、移動をしはじめた。

「ついて行こう」

 リクが言い、全員が無言のまま、同意した。

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