第15話 爆発と冒険者!

「ふふん。どうだい、この竜車。風魔法によって振動は0ッ! ふわふわ浮くから地面からの抵抗もないッ! だから速いッ!!!」


 『ミストルテイン』が『ヴィクトル』を救出した翌日。


 伯爵の館の庭で俺達は伯爵の自慢話を聞いていた。というか、聞かされていた。


 魔術都市に行く『竜車』についての自慢だが、伯爵は私財を注ぎ込んで若干地面から浮いている『竜車』を作ったらしい。らしい、というのは普通に車輪がついているし、見た目は他の『竜車』とほとんど変わらないからだ。


「リッチー伯爵! 質問があります!!」

「うん、何でも聞き給え! っと、君の名前は?」

「マリです」

「マリ君ね。うん。しっかり覚えたよ。それでマリ君、君の質問は何かな?」

「ほんとにこれ浮いているんですか?」

「なるほどぉ! 確かにそういう疑問もあるだろう。確かにそれも良く分かる。説明しておこうっ! あんまり浮かせすぎるとそのまま空高くまで浮かび上がっちゃうからちょっとしか浮かせないのだ!!!」

「へぇー」


 なんでこいつこんなテンション高いんだよ。


「レグ君! テンション低いよ!! 君も男の子ならテンションあがるだろう!?」

「まー。上がるっちゃ上がりますけど……。浮いてるか浮いて無いか分かんないですからねえ」

「乗れば分かるさ。さ、上がりたまえ。おっと、その前に1つ。この竜車のデメリットを教えておかないと駄目だったね」

「デメリット?」


 浮いているから事故りやすいとかか?


「これね、私が乗ったら重さで地面についちゃうんだよ」


 欠陥品じゃねえか。


「なーんて、冗談さ。あははっ。ささ、乗った乗った」


 ということで伯爵について、竜車に上がる。


 お? 確かに浮いているような感じがしないことも無いぞ??


「ほんとに浮いてるんだって。ちょっとだけ、ちょっとだけだけどね」

「石とかにぶつかったらどうするんですか」

「そのための車輪だよ」


 ということで4人用座席にフェリ、エマ、マリ、そして伯爵のメイドと座りその対面と俺と伯爵が横に並んで座る。2人とも身体がデカいからこれでいっぱいいっぱいだ。


「ということでレッツゴーだ! 今日の夕方にはついているよ」

「速いっすね」

「途中で何にも出くわさなければ、だけどね」


 そういって伯爵はウインク。


 意味深に言うのは勘弁してくれ。


 竜車は伯爵領の中を駆け抜けて、魔術都市に向かっていく。魔術都市というのは学術都市のこと。つまり、街一個が魔術を専門的に勉強している場所である。


 マリの母校……と言っていいのか分からないが、レイズ魔法女学院もそこにある。


 『ミストルテイン』は伯爵の護衛クエストを受けている……というていになっている。本当の目的を知っているのは俺と伯爵だけだ。


 というのも、“魔女”の持っている魔法はどれもこれも超級のため、どの国もどこの集団も欲しがっている。だが、“魔女”を捕まえたのは王国に住む、俺達。だから、いま王国が“魔女”を管理しているのだ。


 しかし、王国は“魔女”を封印したのは良かったが、“魔女”から魔法をほとんど聞きだせていないのだという。そのため、何故か伯爵に白羽の矢が立ったというわけである。


 ほんとに何でコイツなんだろ……。

 ……きっと嫌がらせなんだろうな。


 ちなみに伯爵の来訪は表向きには魔術都市の視察ということになっている。


 そこでの護衛も俺達の仕事である。

 

 護衛の報酬も出してくれるので嬉しいが、そこまで何でもかんでもやってくれるとちょっと怖い……というか不気味だ。


「レグ君、見たまえ」

「なんすか?」

「これから山に差し掛かるだろう?」

「ああ、ほんとっすね」


 小さな山だが、ぐるりと回るよりも山を越えた方が速いのだろう。竜車は細い道をどんどん進んで行く。


「ここをね、まっすぐ進むとさ。山を削って作った道があるんだよ」

「山を削って、ですか?」

「うん。そこはね、道の両サイドが上から見下ろせるような高台になってるんだ」

「上から、道を……」

「しかもね、魔術都市と私の領地との唯一とも言っていい道だよ」

「……出るんですか」

「うん。出る」


 リッチーはニコニコとしながら竜車に積んであったパンをかじった。


 あんたさっき昼食食べただろ。


「何が出るんですか? レグさん」


 先ほど談笑していたフェリがこっちを振り向いて尋ねてきた。


「盗賊」

「……えッ」


 強いモンスターを狩る実力がなく、冒険者だけでは生活を維持できない。だが、まともな職にもつけないような連中は野盗になる。


 基本的に通行料を渡せば通してくれるが、金を払いたくない行商人や野盗に金を払っているという事実を作ってはならない職種の人間――例えば伯爵――なんかは冒険者を雇って強硬突破したりする。


「気にすることはねーよ。竜車の中にいればどうってことは無いんだから」

「そ、そうなんですかね?」


 そんなことを話している間に、竜車がくだんの場所についた。確かに山を削って作っただけはあって、近道だろうが道の両サイドが高台のようになっている。


 つまり、そこから盗賊が下を見降ろすことが出来るわけで……。


「おっ。結構いるな」


 俺は竜車から顔を出して盗賊たちを見た。


 そして、念のためにフェリに『身代わりダミー・ダメージ』を使っておく。


 そして、竜車が高台の下に入った瞬間、真上から矢が降ってきた。だが、どれも威嚇目的のものだ。こっちを強く狙おうとしている者はいない。


 そのうちの一本が俺に向かって飛んでくる。


 その時、弓を撃った盗賊の顔が「しまった」という感じに染まった。


 そりゃそうだ。盗賊が人を殺してしまえば、領主は絶対に許さないだろう。騎士団や冒険者によって壊滅させられてしまう。


「……はぁ」


 俺はそのまま弓矢を見ていると、矢が途中で木っ端みじんになった。そして、弓を撃った盗賊の弓のつるが切れる。


 故意じゃなければこんなもんだろうな。


 盗賊たちは竜車から俺が顔を出しているので、やり辛そうに弓を撃って竜車を止めようとするが止まらない。というか、止まるはずがない。


 そして、時折軌道を外れて俺に向かって飛んでくる矢は、やはり空中で粉々に砕け散ってしまう。『竜車』の屋根にぶつかった物は屋根で弾かれる。


 これモンスターの素材でコーティングしてんな。


 そして、盗賊の弓の弦が切れる。そうなると、もう弓は撃てない。


「どうだい、レグ君」

「ん……。そろそろ抜けますよ」


 そして、俺達が山を越える頃には全ての盗賊の弓が壊されていた。


「うん。レグ君のおかげで助かったよ。流石は未来のSランクパーティーというべきかな?いやあ、盗賊とは困ったものだねえ」


 よく言うぜ。

 放置しているくせに。


「山を越えたら、もう見えてくるよ。ほら、もう見えた」


 伯爵はそう言って遠くの街を、目を細めてみた。


「魔術都市だ」


 そう伯爵が言った瞬間、魔術都市の建物の1つが爆発した。


「おっ、ド派手な歓迎だねえ」

「いや、絶対違うでしょ!!」

「あ、大丈夫だよ、レグ。あの街だとあれくらいは普通だから」


 ……そんな街だったか?


 そんなことを考えた瞬間、もう1つの建物が爆発した。

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