第40話 新技の歌姫!

「ぬわあああああ、痛い痛い痛い!!」

「我慢してください。あり得ないくらい凝ってますよ」

「うおおおおおおおおおっ!!!」


 真昼間っから大声を出す俺と、それをたしなめるフィロ。何をやっているのかというと、最近身体が重たくなってきたのでマッサージをフィロにお願いしたのだ。


 すると、目の色を変えたフィロが全力で俺の身体のツボを押しまくるの何の。


「はい。これで終わりです」

「おおー……。身体が軽い…………」


 俺はOFFにしていた反撃機能をONにする。【因果応報】の使い辛いところと言えば、こういうところだろうか。


 だが、これだって別に意識すればデメリットにすらなりはしない。


 俺が身体を起こして服を着替えると、家の呼び鈴がなった。


「ん? 客か?」


 入ってきたばかりのこの家に? 誰だ??


「私が出ます」

「怪しいやつだったら無視して良いぞ~」


 なーんてことを言って、しばらく待っているとフィロがすぐに戻ってきた。


「巨乳の女の人です。レグ様に用があると」

「巨乳の女の人?」


 雑な人物紹介もここまで来ると飲み込めるような気がする。いや、無理か。


「いや、もっとこう……名前とか聞いて無いの?」

「ルーナと言ってました」

「先生じゃんッ!」


 何で急にポンコツになるのか意味が分からないっ! 


 俺は大急ぎで部屋を飛び出して、客間に向かった。


「お久しぶりですわね、レグ」

「お、お久しぶりです。先生」


 相変わらず、というか今日も綺麗なツインロールだ。


「聞きましてよ。【神狩り】になったそうじゃありませんの」

「ええ、まあ……」


 先生の前でこの話を出すのは気が引ける。だが、先生が自分から振ってきたということは、【神狩り】の話をしても大丈夫だということだろうか。


「どうでした。初めての【神狩り】は」

「うーん……。今でも実感がわかないんです」

「ふふっ。そんなものですわ」


 先生は笑って流す。そこにフィロが俺たちのお茶を入れて運んできた。気が利くぅ。


「この方があなたの専属メイド?」

「はい。フィロと申します」

「よろしく」


 一礼。


 こうして見ると、とても綺麗な礼だ。学校で徹底的に仕込まれているらしい。


「それで先生。どうして王都まで?」

「エマに用事があったんですの」

「エマに? どうしてまた」

「ちゃんと“吟遊詩人”としてやっているかどうかを見に来たんですわ」

「ああ、そういうことでしたか。なら、案内しますよ。エマの家はこっから近いですからね」

「では、お願いしたしますわ」


 そう言って先生と俺は席を立つ。


「どうです、最近は」

「まあ、ボチボチですよ」

「ボチボチでは2週間でFランクパーティーから【神狩り】まで駆けあがれませんわよ」

「ん……。まあ、そうですね」


 噛み合った、と言うべきだろうか。

 俺のスキルと、世界から拒絶されていた彼女たちが運よく噛み合った。だから、俺たちは駆けあがった。


 1つ1つがマイナスでも、足し算じゃなくて掛け算だったのだ。俺たちは。


 だから、ここまで来た。


英雄は少ないんですの?」

「白昼堂々、よくこんな所でぶっこみますね。先生……」


 【神狩り】の数が不足しているというのは、国家機密だ。世界の脅威に対して、人間の対抗手段が少ないとなれば人々の間で何が起きるか分からない。暴動、略奪、革命。


 国を維持できるかどうか。冗談でも誇張でもなく、【神狩り】の数というのはそれに起因している。


「というか、先生。今もっていうのは……」

わたくしの時も少なかったんですわ」


 先生のいた【神狩り】パーティーは5年前に引退したということになっている。だが、俺は本当のことを知っている。先生のいた【神狩り】は、先生を残してしたのだ。


 結果として大きなトラウマを抱えた先生は冒険者を辞め、今は“歌姫”として各地で物語を歌って生活している。


わたくしの時は5つのパーティーまで減ってましたの」

「それって全部の国あわせてですか……? それとも王国だけ……?」

「勿論、王国だけですわ」


 そう言う先生に、俺は告げるべきか迷った。だが、向こうも話してくれたのだ。俺も話すべきだろう。


「今は、3つのパーティーしかいないそうです」

「…………3つ?」

「はい。俺たちと、【勇者】と、『バルムンク』……。これだけが王国の残している戦力だそうです」

「……思ったよりも、追い詰められてるんですわね」

「でも、まあ、何とかなるんじゃあないですか? これまでも何とかなってきましたし」

「嫌に楽天的ですわね。あなた」

「楽天的じゃなけりゃ冒険者なんてやってませんよ」

「それもそうですわね」


 そんなことを話していると、エマの家が見えてきた。


「あそこですよ」

「本当に近いですわね」


 俺の住んでいる家とまったく同じ形をした家が見えてきた。


 呼び鈴を鳴らすとメイドじゃなくてエマが直接出てきた。


「わっ……。先生?」

「お久しぶりですわね。レディー」

「あがって、ください……」


 ということでお邪魔させてもらうことにした。あがってすぐに客間に通される。


「先生。あの……」


 先生が喋り始めるかと思ったのが、俺の予想に反して最初に喋りだしたのはエマだった。


「どうしましたの?」

「歌を、書いてみたんです……」

「歌を?」


 こくり、と頷くエマ。


「それを聞いて、欲しくて」

「なるほど。レグ、反撃をOFFにしなさい」

「分かってますよ」


 初めての歌、というのは期待している通りの効果がでるかどうかは分からない。デバフなんかかけようものなら、俺のスキルでエマにデバフが反映されてしまう。俺は【因果応報】の反撃機能OFFにして、待機。


 そして、エマがそっと歌い始めた。


 今までの静かな曲調とは違って、激しく波打つような歌。


 声だけで奏でているとは思えないような複雑な音は、声に魔力が乗っている証拠だ。


 ふと気が付けば、いつもよりも頭の中がスッキリしているような気がしてきた。……いや、気のせいじゃない。頭の中がスッキリしている!!


「レディー、これは魔法発動時間を短縮するための歌……ですわね?」


 こくり、とエマが頷く。


「それだけじゃない。貴女自身の歌も効果が発揮されるまでの時間が早くなっていますわ。この効果はどれくらい続くんですの?」

「30、分……」

「上出来ですわ。でも、少し歌詞を変えれば2時間は持つようになりますわよ」

「ほ、本当?」


 魔法やスキルの発動時間が短くなる? 


 いったいどれくらい短くなったんだろうかと思って、先生とエマに交互に『身代わりダミー・ダメージ』を発動した。今までの発動は感覚的に、5秒程度の空きがほしかった。


 ……いや、時間を空けなくても発動は出来るのだが水の中を無理やり移動するかのような抵抗を覚えるのだ。


 さて、どれくらいで発動するのかと思って発動してみる。


 とりあえず、4秒間隔。抵抗なし。


 3秒間隔。これも抵抗なし。


 ……あれ? 作ったばっかりなのに上手くいきすぎじゃね?


 2秒間隔でやって見る。だが、これも抵抗がない。


 もしやと思って1秒間隔でやって見ると、これでも抵抗感を感じなかった。


 ……発動時間を1/5にしてんの?


 …………そんなことある??


 聞いたこと無いトンデモパワーに思わず笑ってしまった。

 そして、その意味を理解した瞬間に戦慄した。

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