第22話 おしおきの冒険者!
さて、リックに啖呵を切った俺はギルドに頼んで修練場を貸してもらった。冒険者なら誰でも利用できる運動場のようなものだ。端っこの方には魔法射撃場とかもある。そのど真ん中に1つ、俺達が陣取っていた。
周囲の冒険者たちは遠巻きにこちらを眺めている。というか、見物している。
魔術都市とはいえ、冒険者たちは冒険者。
そりゃ、戦うのを見るってのは面白いわな。
「へいへい! そこの姉ちゃんたち! どっちに賭ける!?」
「レグに、銀貨5枚」
「あ、じゃあボクは銀貨7枚」
「ちょ、ちょっと2人ともお金賭けすぎですよ。あ、私は銀貨10枚です」
しかし、全体的な金のかけ方を見たところ俺が優勢。そりゃそうだ。元Sランクパーティーの、正式2つ名持ち。それとCランクから上がったばかりの駆け出しBランク、それも自称2つ名持ちのリックとじゃあ俺の方が勝つに決まってる。
それでも、リックはやる気満々だ。パーティーメンバーたちは、ここまで来たらどうしようもないって感じでリックの支援をしていた。良い仲間たちだ。
だからこそ、彼らが
「はっきり言おう、俺とお前じゃ相手にならん」
「やって見なきゃ分かんねえぜ」
………………。
「俺とお前、一目見ただけで実力差が分かんねえってのは致命的だぞ。
「……ッ! 何だよ、何が言いたい」
「ハンデをやる。お前のパーティー、全員でかかってこい」
俺の言葉で、周囲が一瞬静寂に包まれると……。次の瞬間、どっと沸いた。
「流石Sランクパーティーの
「良いぜェ! レグ!! その若造の鼻っ柱叩き折ってくれ!!」
「1対1じゃあ話になんねえからよォ!」
会場の沸き具合に、リックは明らかに不機嫌そうな顔になった。
……え? こいつマジで俺に勝つつもりだったの??
「つっても、お前の仲間が良いって言わなきゃ流しても良いが」
「やります!」
「お?」
最初にそう言ったのは、さっきからリックを羽交い絞めにしていた
「Sランクで活躍されていたレグさんの実力、見てみたいです。それに、1対1だとリックはすぐに倒されるでしょうし」
「なっ、なんだよ! その言い方」
「現実見ろ。勝てるわけないだろ」
2人の言い方は棘のある感じではない。
仲の良い、悪友という感じがする。
「しょ、しょーがないなあ。2人がそう言うなら」
「あ、じゃあ私も」
なんと、4人全員が乗ってきた。
「リック」
「んだよ」
「良い仲間を持ったな」
「あったりまえだッ! 俺達は将来、Sランクになるんだぞ!!」
「良い目だ。さて、良く聞け。お前の仲間の参加を許したのは、俺からのお前に対する
「はッ!? 馬鹿にするのもいい加減に――」
そのリックの言葉を俺は手で遮った。
「俺はスキルを使わない」
使えばこの中の誰かを殺してしまう恐れがある。それだけは、避けたい。
「ば、馬鹿にしやがって! 一瞬で決着つけてやる!!」
リックはそう言って剣を構えた。俺も盾を構える。頭の中で【因果応報】の反撃をオフにする。
「おい! 野次の連中! 誰か合図だせ!!」
という俺の声に。
「じゃあ、俺がやんよ」
と、1人の魔法使いが出てきた。
「お前ら、模擬戦のルールは分かってるよな?」
「あったりまえだ!」
「ああ。大丈夫だ」
俺とリックが返したのを見て、魔法使いは笑った。
「じゃあ、この魔法が爆ぜたら戦闘開始だ」
そう言って、空中に球を残す。Lv1の風魔法『
俺とリックの視線が交差する。
そして、パァン!! と、破裂音が響くと同時に俺の脚は反射的に地面を蹴った。
「食らえ! 『嵐鉄いっ――」
何かを剣に纏おうとしていたリックを、まず盾で押しのける。「ぐべっ」という、声とともにリックの身体が後方に押し飛ばされる。
それを見る間もなく、俺は飛んできた矢に向かって盾を構える。カン! カン! と甲高い音が鳴って矢を防ぐと、俺はダッシュ。
魔法使いの少女に向かってタックルを仕掛ける。
その狙いに気が付いた狩人が俺に向かって短剣を持って接近。
――――かかった。
短剣の一突きを絡め手で防ぐと、少女の腕をしっかりつかんで背中に身体を乗せる。
「へ?」
そして、背負い投げ。何が起きたか分からず、背中を強打した少女の身体を捕まえて、詠唱し終えたばかりの魔法使いに向けた。俺の手の中で前後不覚に陥っている少女は、まだ目の焦点が合ってない。
「……ッ!!」
俺を貫こうとした魔法は、しかし狩人の少女が盾となって撃てない。仕方なく、魔法使いはその魔法を破棄。次の瞬間、俺は盾をセオに向かって投げた。
地面に倒れたリックを治そうとしていたセオは、魔法を中断して慌てて盾を避ける。
「く、クソ……! 負けてたまるか!!」
だが、地面に倒れていたリックは根性で起き上がる。そこに俺は狩人の少女から奪った短剣を投擲。
ヒュパ、と短く音を立てて鎧の関節部分。つまり、隙間に刺さった。
「負けて、たまるかぁぁああ!!」
だが、リックは大声で痛みを消すとあろうことか短剣を引き抜いたっ!!
「おっ」
流石の俺も、これには声を漏らす。だが、既に遅い。
「これでも食らえ! 『嵐鉄いっそ……」
当然、使わせない。
リックが剣を構えた瞬間に、俺のショルダータックルがリックの身体を吹き飛ばす。そして地面に落ちていた盾を飛び込み前転で拾い上げると、俺の後ろからやってきた魔法を防いだ。
「おいおい。こんな一方的なことあるか?」
「レグの野郎。スキルも魔法も使ってねえんだろ。バケモンだな」
「ちょっとアイツらが可哀想に思えてきたぜ」
狩人は既に昏倒状態。リックは今も地面に倒れている。
残るは後衛2人。
当然俺は、定石をなぞる。どでかい攻撃手段を使う魔法使いを優先的に狙った。
「飛んでッ! 『
Lv2の魔法。これは、俺を殺さないようにと配慮してくれたのだろうか。
俺は目の前から飛んでくる『火球』に盾ごと、
――ドォォオオッッツツツツ!!
爆炎、爆発。
だが、当然俺の身体は進む。
「良い魔法だ!」
「ありがとうございます……っ!」
魔法使いの少女は、『どうしようもない』みたいな顔を見せて……俺に、轢かれた。
「さて、残るはお前だ。セオ」
「ぼ、僕の名前を……!」
「見たところ、お前は
「はいッ!」
「同じ状況になったら、お前はどうする。ダンジョンの奥、森の奥、人の助けが来ない所で仲間は全滅。目の前にはモンスター。さあ、どうする」
「…………ッ!」
セオは考えて考えて考えて、そっとリックに向けて治癒魔法を使う……と、見せかけてポーチの中に入ってた煙幕を張った!!
「正解だ!
俺は煙幕の中を突き進む。俺でも煙幕の中が見えるわけではない。
だが、
俺が走り抜けた先、煙幕の切れたところにいたのは最低限の治癒魔法で癒されたリックの姿が。
「『嵐鉄……」
「技を使う時は」
俺は足を止めない。
「バレないようにしろ」
そして、三度目となるリックへの激突。彼の身体はぽーんと飛ぶと、地面に落ちて……気絶した。
俺はリックの側にいたセオを見る。彼はすぐに両手をあげて、
「降参します」
と、言った。
「す、すげえ! スキルも魔法も使わずに勝ちやがった!!」
「Sランクってほんとにすげえんだな!!」
「お前、
「れ、レグさん! サインください!!!」
ばっと俺の周りに集まってくる冒険者たち。
その中で揉まれながらも、俺のほうにやって来る3人の姿がとても可愛らしかった。
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