第26話 王と冒険者!

「わぁ! すごい!! あれが王都ですか!!」


 王都を見るのは初めてなのか。竜車の中から外を眺めてフェリがはしゃいだ。窓にかじりついているエマとマリ。この2人も初めて王都を見るらしい。俺はそれに笑った。


「そうだよ。あれが、王都だ」


 俺達が住む王国、その最重要都市だ。


 大きな城を中心としてぐるり、と巨大な都市壁が街を守っている。その大きな壁を見ながら、俺達を乗せた竜車は進んで行く。


「やぁ、案外早い到着だったね」


 流石に座りっぱなしは疲れたのか、ちょっと元気がない様子で伯爵がそう言った。疲れてくると口数が少なくなるので俺としてはとてもありがたい。ずっと疲れててほしい。


「だいぶショートカットしましたからね」


 盗賊が出る場所やモンスターの住処すみかなど、普通は避けて通るような場所を『こっちの方が近いから』とか言う理由で突っ切ってきたのだ。そりゃ速いに決まってる。


 え? どうやって攻撃を避けたかって?


 全部、俺のスキル頼りだよッ!!!


 伯爵には追加で報酬を貰う予定である。そうでないとやってられない。この場合はなんと言うのか。スキル手当とでも言うのだろうか? とにかく、しっかりとそれを請求するつもりである。


「これで私の顔も立つというもの。うん。助かったよ。ほんとにね……」

「伯爵、身分証を」


 そろそろと都市壁の門に着くのだろう。ずっと伯爵の身の周りの世話をしていたメイドのルースさんがポツリと言った。


「え? 身分証!? あったかな……???」


 そう言って身体をペタペタと触って探す伯爵。そして、急にお腹に手を突っ込むと、どこからともなく身分証を取り出した。


「おおっと! お腹の脂肪の間にあったよ!! 勝手に食べちゃったみたいだな! あははっ!」

「は?」


 つーまんね。


 しかもルースさんもゴミを見るような目だ!!

 だが、伯爵もそれに負けてない。ちょっと嬉しそうにしてる。


 …………何だコイツ。


「さて、冗談もほどほどにしておこう。流石に王都に入るときにふざけてるわけにはいかないからね」

「いや、伯爵。マジで頼みますよ」


 身分証があるとは言え、少しでも疑いのある人間がいれば王都の中に入れない。ここだけはふざけるわけにはいかないのだ。


「む? レグ君、なんだいその心配そうな目は。なに! 心配いらないさ! 私はやるときはやる男だよォ!! どぉん、と大船に乗った気でいたまえ! 何? デブと同じ船に乗りたくない!!? わはは、辛辣だなァ。レグ君」


 言ってねえよ……。


 さて、そんなこんなで門に着いた。が、伯爵が身分証を見せるとすぐに通された。こんなのでも流石は伯爵か。それなりに特権があるみたいだった。


「うん。良かった良かった。じゃあ、このまま王城に行こうか」

「アポ取ってるんですか?」

「え? 取ってないけど、別に良いっしょ」


 軽いなぁ。


 まあ、それで怒られるのは俺達じゃなくて伯爵である。それならいっか。


 というわけで大通りを一直線に王城に向かっていく。そのまま直進して、王城の兵隊たちに伯爵が身分証を見せると、これまたすぐに通される。


「……あれ? 伯爵ってもしかして凄いんですか?」

「む? 今更かい?? 私はこう見えても貴族だよ。うん。王城だって簡単にはいれるさ」


 伯爵の言っていることは……間違えてない。


 間違えていないが……納得いかねえな。


「ささ。王に謁見しようじゃあ、ないか。多分、喜んでくれるよ」

「多分……」


 いざ国王に会うということを意識したのか、明らかにマリが固まった。


「まま、大丈夫。大丈夫。普段通りにしていれば良いだけだからね」

「ほ、ホントに……?」


 ……国王には数度あったことがある。前のパーティーがSランクだったためだが、とても優しい人……というのが俺の抱いた感想だ。


 竜車が止まる。ここから先は徒歩だ。


「じゃあ、行こうか」


 俺達は竜車から降りると、伯爵を先頭にして王城の中を歩いていく。時折、従者や兵士の人たちとすれ違う。大きな廊下を曲がった時、向こうから大勢を引き連れた初老の男性が歩いて来た。


「おお! 国王陛下!」

「うん? おお、リッチーではないか」


 ……マジ? 

 こいつ国王にもリッチーって呼ばれてんの……?


「お元気でしたか、国王陛下」

「うむ。相変わらずよ……。それで、今日は一体どのような要件かの」

「“魔女”の魔法、拝借して参りました」


 伯爵がそう言った瞬間、周りにいた従者たちが急にざわめき始めた。


「ふむ。見せれるかの」

「マリ君、お願いしても良いかい?」

「は、はい!」


 がちがちに緊張したマリが俺の後ろから姿を見せる。その姿を、国王はまるで孫でも見るような温かさで見つめた。


絶魔ゼロ


 ぱっ、と紫色の球体が出現する。


「こ、これが……。絶魔ゼロ、です。これを使えばどんな魔法も消せます」

「ロンド」

「はい」


 国王が後ろの従者に声をかける。呼ばれた1人が一歩前に出ると、簡単な魔法を使った。それはマリの使った絶魔ゼロに吸い込まれて……消えた。


「ほう? これはこれは……。術式コードを覚えているかい? お嬢さん」

「お、覚えてます! けどこれは『魔力枯渇症候群オーバー』しか使えません!!」

「『魔力枯渇症候群オーバー』しか……? しかし、お嬢さん。『魔力枯渇症候群オーバー』の魔法使いなんて……」


 国王がさとすようにマリに言う。だが、マリは一歩踏み込んで、


「ボクが、『魔力枯渇症候群オーバー』の魔法使いです」


 そう言った。その言葉に国王はおろか、後ろの従者たちも驚いた。


「なんと……。なんと! そうだったのか。間違えた非礼を詫びよう、お嬢さん。そうか。『魔力枯渇症候群オーバー』の魔法使いか……。それは……」


 国王がそう言った瞬間、


 ドォォオオッッツツツツ!!!


 と、


「何事だ!!」


 国王の短い確認。だが、誰も答えない。理由は簡単だ。


 窓の外に……が、見えていたから。


 ソレの見た目はドラゴンのように見える。

 だが、その全身を触手が覆って……さらにそこから無数の目が覗いている。


 異形。


 そんな言葉が頭の中に浮かんだ。


 そんなドラゴンの異形が、王都に向かって何かの攻撃を撃ってきているのだ。それが、王都に張られた結界に激突して、地面を揺らしている!!


 巨大な異形は、王城に向かって口を開く。


 ……ここを狙っている!


「駄目です! 結界がもちません!!」


 魔法使いが叫ぶ。俺が窓に向かって走るのと、ドラゴンの異形がブレスを撃つのは同時!


 黒い奔流が一直線に駆け抜ける。それが俺に向かって飛んでくる。俺はそれを無表情に見つめる。そして俺の手前5mで竜のブレスが、


 それと同時に竜の頭が粉々に砕け散る。


「……し、死んだ!?」

「いや、まだだ」


 俺は舌打ちと共に答える。頭を失った竜の触手が頭に集まると、頭の形を作って修復。ドラゴンの異形は大きく、吠えた。


「……初めてみるモンスターだな」


 王都の結界を2度の攻撃で破壊する攻撃力。そして、頭を壊されてもすぐに治る修復力。


 そんなモンスターには、今までで一度たりとも出会ったことが無い。


「そ、そなたは……『ヴィクトル』の!」

「今は『ミストルテイン』です。陛下」

「み、『ミストルテイン』とな……」


 その言葉を成す意味を理解したのか、国王が黙り込む。そして、再び口を開いた。


「今の攻撃を防いだのは、そなたか。


 俺の名前を……!


「はい。その通りです、陛下」


 俺が頷く。


「王都の結界を破った攻撃を無効化した?」

「何かしらの防御魔法か?」

「何も見えなかったぞ……」


 従者たちが声を震わせながらそんなことを言う。


「……国王として正式にクエストを出す。冒険者パーティー『ミストルテイン』よ。あの異形を討ってくれ」


 俺達は視線を交わす。

 彼女たちの目には恐れ3割、だが希望が7割。


「報酬は」

「白金貨1000枚。そして、Sランクパーティーの座を今ここで確約しよう。他の報酬はこれから考えさせてくれ」

「分かりました。その依頼、受けましょう」

「ありがとう……」


 敵の正体は不明。だが、生きているモンスターなら死ぬはずだ。死なないのであれば、捕まえることが出来るはずだ。


「行こう!」

「「「はい!!」」」


 少女たちの声を聞いて、俺たちは飛び出した。

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