第13話 戦場の冒険者!

「……レグ」

「どした?」


 24階層を駆け抜けたタイミングで俺の背中にいたエマが少しかすれた声で俺に声をかけてきた。


 エマは数時間連続でバフをかけまくっている。


 そろそろ休ませてあげたいが、事は一刻を争う。


「どうやって……。見つけるの?」

「『ヴィクトル』をか?」

「うん」

「伯爵の話だと、『ヴィクトル』は2日も帰ってきてないらしい。だとしたら、長い間どこかの階層で過ごしてるはずだろ?」

「うん」

「その痕跡を見つければ良い」

「なる、ほど……」


 先頭を走るフェリが四辻に差し掛かった瞬間、『身代わりダミー・ダメージ』を彼女に掛ける。一瞬遅れて、地面から飛び出した針が全て粉々に砕け散った。


「あっぶね……」

「ありがとうございますっ!」

「気を付けろよ!」


 フェリは調子に乗っている……というか、勢いづいている。そりゃ、急にモンスターと戦えるようになったんだ。テンションもあがるだろう。


 だが、そういうタイミングが一番危ない。しっかり警戒していこう。


「レグ! 見てあれ!!」


 急にマリが立ち止まって指さした。


「おっ!」


 そこにあったのは盾の破片。俺の後に入った盾役タンクの盾だろうか? その近くには防具の欠片が落ちている。


 ……っ! これはサムの防具じゃないのか!?


「この階層にいる可能性が高い。もっとゆっくり見ていこう」

「あい!」


 地面にわずかにつもった砂についた足跡を追いかけて、『ヴィクトル』の居場所を探す。


 ……死んでないだろうな…………。


 【因果応報】の罰がどこまで彼らに影響しているか分からない。まさか俺をクビにしたくらいで死んでは無いと思うが……。それだとちょっと目覚めが悪いぞ。


 別に元の仲間たちが、気が付けば死んでる……なんてことは冒険者にとっては日常だ。しかし、今回はクエストを受けているのだ。そうなると話は別である。


「……っ! レグ! あっちから音がする!!」


 俺の後ろからエマが指を指した。


「エマ以外は聞こえるか!?」


 だが、俺は聞こえなかったのでフェリとマリに聞くが2人とも首を振った。


「……ほんと。ちゃんと、聞こえた……!」

「分かった。信じる」


 フェリは俺の目を見て頷く。エマは“吟遊詩人”だ。彼女の耳を信じよう。フェリを先頭にエマの案内に従って走っていると――聞こえたッ! 戦闘音!!


「ロット! 下がって!!」

「……うす!」

「『燃えて』!」


 聞きなれた声に混ざって聞こえてくるのは……ロット?


 ロットといえば『ヴィクトル』がAランクパーティーの時から俺のことをしたってくれていた後輩だ。ユニークスキルを持っていたが、盾役タンクとして伸び悩んでいた時によく相談に乗っていた。


 ロットが『ヴィクトル』に入ったのかっ!


「クソッ!」


 後輩を死なせる先輩なんて恥ずかしすぎるぞッ!


「エマ! 降りてくれ!」

「……分かった」


 するっと俺の肩から降りるエマ。それと同時に俺が角を曲がる。そこには見慣れたメンバーたちが巨大なミノタウロス相手と戦っていた。


 だが全員ボロボロだ。ガリアは端っこのほうで泣いているし。


 ミノタウロスが手にもっていた巨大な鉈を持ち上げる。


 ……駄目だ! ロットはもう耐えられないッ!!


「下がれ! ロット!!」

「へ……? レグさん?」

「おォっ!!」


 ロットがふらふらと後ろに下がった瞬間に、無理やり盾をねじ込んだ。


 ガァァァアアアアアアアアアンンンン!!!!!


 ビリビリとした手ごたえ。ミノタウロスが突然の乱入者である俺を見る。


「う、嘘……! ど、どうしてここに!?」

「伯爵からの依頼だよッ!」


 ミディの声に叫ぶように返す。


 ミノタウロスが右足を軸にして、ターン。


『フンッ!』


 綺麗な回し蹴りだが、俺に当たる前に足が弾ける。


『ふんッ!?』

「鉈ァ、借りるぜ」


 ミノタウロスが手から離した鉈を俺は持ち上げて、首を刎ねた。


「れ、レグざぁあああああんん!!!」

「うぉっ! ロットか! 落ち着けおちつけ!!」


 少年が俺の胸に飛び込んで大きく泣く。


 これが女の子ならカッコのつけようもあるが、相手が男じゃなあ。


「しっ、死ぬかと思いましたよぉおおおおおおっ!!」

「おお、よしよし……」


 なんか孤児院の弟を相手にしてるみたいだ。


「んで、何でこうなった?」


 ロットをなだめつつ、比較的元気そうなミディとサムを見た。


「それは……」


 ミディは俺を見て、しばらく戸惑った。


「戦略が、間違っていた」


 ミディの代わりにサムが答えた。


「戦略が?」


 嫌な予感がする。


「おい、まさか。方法を取ったわけじゃないだろうなッ!!」

「…………」


 サムが申し訳なさそうに目を伏せた。


「ふ、ふざけてんのかッ! あの方法は俺だから出来るつったろッ! 何でお前ら人の話聞いてねえんだよッ!!」

「……行ける、と思ったの。私が間違えてたわ…………」

「なんで間違えてた時点で戻らなかったッ! 伯爵からのクエストはそんな焦る様なものじゃなかっただろッ!!」

「………………」


 ミディも目を伏せる。


 クソッ。嫌な感じに【因果応報】が発動したみたいだ。


 『ヴィクトル』じゃなくてロットも巻き込んじまった。悪いことしたな。


「いや、もう良い。俺は『ヴィクトル』じゃねえからお前らには何も言わねえよ」

「…………悪い」


 サムは、ぽつりと謝った。


「だから良いって。こんなとこさっさとおさらばするぞ。んで、ガリアは何でそうなった」

「ここのボスでサムとロットがやられて……。それの治療をした後に急に気絶して……。それで、魔法が使えなくなったの」

「“恐慌”状態か。厄介だな」

「レグぅ……」


 ガリアはレグを見ながらぽろぽろと涙をこぼす。


「れぐぅ……」


 そして、泣きながら抱き着いて来た。


 右にロット。左にガリア。久しぶりに身体がデカくて良いと思った。


 ふと、顔を上げるとフェリたちがリアクションに困った顔をしている。


 多分、俺もそんな顔してると思う。


「とにかくこの階層を出よう。ボスを倒すんだ」

「ボスを……? む、無理っすよぉおお!!」


 ロットが急に叫んで震えだした。……トラウマになってるな。


「大丈夫だ。ロット。落ち着け、俺が付いている。安心しろ」

「レグさぁあああんん!!」


 また抱き着いて来た。ま、別に良いんだけど……。と顔を上げると、エマから透明な何かが噴き出している。


「移動しよう。モンスターが集まって……来る……」


 そう言った瞬間、道を塞ぐように2体のミノタウロスが現れた。

 その後ろからは……おっと。キング・オークか。久しぶりに見たな。


「エマ、支援を頼む」

「うん!」


 エマは頷いて歌い始めた。全身の筋肉が盛り上がる。


「サム、ミディ。この5人を守っててくれ」

「れ、レグ!」


 サムが俺を止めようとするが、俺はその手を払った。


 俺はくっついていた2人を預けると、フェリとマリの警護も頼む。



 そして、モンスターを見た。

 モンスターは3体。どいつもこいつも強そうだ。


 俺は盾を構える。


「俺の2つ名、知ってんだろ」

「……っ」


 サムは俺の言葉で後ろに引いた。最強と謳われる『ヴィクトル』。


 “魔術の麒麟児”ミディ。

 “万能の天才”サム・ロコネンド。

 “異端の癒し手”ガリア。


 ならば、当然俺にも2つ目の名前がある。


「まァ、任せろって」


 盾役タンクであるのに前線に出たがるのは俺の悪い癖だ。

 盾役タンクであるのに攻撃アタッカーをしたがるのは俺の悪い癖だ。


 だからこそ、俺に2つ目の名前がついた。


「行くぜッ」


 地面を蹴る。ミノタウロスの剣がまっすぐ飛んでくる。それを盾で流し、空いたボディに1撃、2撃、3撃目で顎を打ち上げ、蹴り飛ばした。


 そして、盾を壁に叩きつけて走る。ガガガガガッ!! と嫌な音でミノタウロスとキング・オークが俺にやってくる。『集敵ヘイト』だ。


 俺は蹴り飛ばしで気絶したミノタウロスから剣を奪って、そのままミノタウロスを斬り上げた。血があふれ出し、キング・オークとミノタウロスが一瞬怯んだ瞬間、俺はキング・オークに向かって盾を投げた。


 ヒュドッ!


 と、音を立ててキング・オークの首が飛ぶ。


「これで、終わりだ」


 後ろから斬りかかったミノタウロスの剣が俺に触る前に折れ、ミノタウロスの身体が真っ二つに裂けた。


 “戦場の支配者”レグ。


「身体が重てぇ」

「だ、大丈夫ですか?」


 フェリが慌ててこっちにやって来る。


 それが、俺の2つ名だ。

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