追放者パーティーの成り上がり!~お荷物と言われてSランクパーティーを追放された俺のスキル【因果応報】は最強でした~

シクラメン

第1話 追放の冒険者

「もう限界よっ!!」


 ドン、とジョッキを机に叩きつけたのは金の髪が綺麗なミディ。

 レイズ魔法女学院を首席&飛び級で卒業した天才少女だ。


「レグさぁ、さっさとパーティーから抜けてくれない?」


 どこにでもあるような酒場。


 どこにでもいるような冒険者。


 周りが好き勝手に騒いでいる中、俺……いや、拙者をパーティーメンバーが囲っていた。


 ……なにこれ、ドッキリ?


 “魔術の麒麟きりん児”ミディは、ちらっと拙者の隣を見た。


「ほら、アンタ達もなんか言いなさいよ」

「……ミディの言う通りだ。俺ももうお前の相手するのは限界なんだよ」


 ミディに続けていうのは黒の髪を揺らすイケメン。剣も出来れば魔法も出来る、お偉い貴族の5男である、サム・ロコネンドだ。そんなサムがガチトーンで言って来たので、拙者は笑いながら返した。


「さぁ~むぅ~。なんということを言うでござるか! 拙者とサムの仲ではないかぁ!」

「戦闘中にお前がタンクするだろ。その時お前の汗が飛んできて気持ち悪いんだよ」

「なななななんてことをっ! 拙者の芳醇なエキスが気持ち悪いですとっ!?」


 まだ冗談だと思っている俺……じゃなくて拙者がそう聞くと、ひゅっと音を立ててミディの杖が拙者の首の肉に埋まった。


「次同じこと言ったらそのぶっさいくな面吹き飛ばすわよ」

「ひ、ひィ……」


 え、これマジのやつじゃん……。


 …………マジで俺がパーティーをクビになんの? 何で?


「なッ、せ、拙者が何をしたっていうんでござるか!」

「まずその口調よッ! あんたデブのくせに変な口調まで持ってきて何がしたいの!!」

「ミディ氏! そこをなんとか~」

「人の名前に氏ィつけんなッ! ぶっ殺すわよ!!」

「で、で、でも! 拙者頑張ってきたでござるよ! それにこの口調だって、ガリア氏との罰ゲームで決まった物でござるぅ!」

「ガリアっ! こいつになんか言いなさいよ」

「……期限は、一週間だった。そんなにやれとは、言ってない」


 鬱々とした感じで喋るのはめっちゃネクロマンサーっぽい少女。けど職業はシスター、つまりはヒーラーのガリアだ。


「だ、だってみんなが喜ぶからっ! あ、間違えた。喜ぶでござるからぁ!」

「いーかげんにしてよっ! 苦笑いっていうのよ! ああいうのはッ!!」

「大体お前、パーティーに何か貢献してるのか?」


 サムの厳しい視線が俺を押さえつけた。


「こ、貢献って……」

「だって、お前の盾受けタンク。別に俺でも出来るじゃん」


 “万能の天才”サム・ロコネンドが出来ると言ったなら出来るのだろう。彼は正真正銘の天才なのだから。10歳の時に騎士団に入り、そこで輝かしい栄光を納めた後、今度は狩人ギルドに転職。その後、わずか半年で狩人長に任命。さらに今度は魔法使いギルドに転職してそっちでも“魔導士”の名前を手に入れている。


 そんな彼が盾役タンクが出来ると言ったなら、出来るのだ。


「ぐのののののっ!」

「オーバーリアクション辞めて」


 ミディから殺気と魔法が飛んできた。拙者が慌てて避けると、ミディは露骨に舌打ちした。


「チッ。なんで避けるのよ」

「い、今のは魔法はオーガでも殺せる雷魔法じゃないでござるかっ!」

「ちゃんと喋れ」

「はい」


 いよいよふざけてもいられなくなったらしい。拙者……じゃなくて俺の顔が引き締まる。


「昨日まで俺はレグのこと評価してたんだよ。一応な。この中でちゃんとした近接ってお前だけだろ? だからお前のそのうぜぇ言動我慢してたんだけど、今朝よくよく考えたらお前クビにしてちゃんとしたメンバー雇ったほうが良いんじゃねえかと思ったんだ」

「で、でも拙者……じゃなかった。このパーティーは俺のおかげでここまで来れたじゃないかっ!」

「アンタのおかげ? 違うわ。この天才児、ミディ様のおかげよ」

「……ミディだけの、おかげじゃない。けど、レグの活躍の場は無い」


 ミディが一生懸命薄い胸を張っていると、隣でガリアが修正。


「じゃ、じゃあ。俺達のパーティーで絶対に勝てないって言われたガランの大迷宮を踏破できたのは誰のおかげだと思ってるんだ!? 俺ののおかげだぞッ!」


 絶対に攻略不可能と言われていたガランの大迷宮を世界で初めて踏破したSランクパーティー。それが俺のいる最強パーティーと名高い『ヴィクトル』である。


「じゃあ、聞くけどさ」


 魔術師として天才の階段を駆け上がってきたミディは賢い。色んなことを知っている。その彼女の目が俺を捉える。


「ガランの迷宮のトラップが全部解除されてたのも、奇襲を一回も喰らわなかったのも、行く先々のボスが私たち4人で倒せたのも全部アンタのスキルのおかげだって言うのッ!? じゃあ、私たちのパーティーに入らずに騎士団に入って国のために戦えば良いじゃない!」

「ち、違う。条件があるんだ」

「ふうん? なら、アンタのスキルがほかに役立った時を言って見なさいよ」

「お、王都のワイバーン襲来事件! ワイバーンたちが急に苦しみ初めて地面に落ちたのも! 西の蒼竜を倒せたのも! 東の“魔女”を捕まえたときだって、俺のスキルのおかげで――ッ」

「アンタのスキルのおかげで“魔女”の魔法が弱まったって言いたいの!?」

「そうだっ!」

「じゃあ、あんたのスキルは迷宮のトラップを解除して、モンスターたちを弱らせて、モンスターたちの奇襲もさけて、なんならドラゴンすら倒したあげく“魔女”の魔法を弱らせたっていうの!? そんな無茶苦茶なスキル、!」

! とにかく、俺をパーティーから追い出すなっ!」


 俺は巨体をさすって抗議する。冒険者ギルドで依頼を受けるとき、難しいクエストはパーティーでないと受けられない。もし、パーティーを組めない場合はギルドで斡旋してもらえるのだがSランクパーティーを人間ならまだしも、人間とパーティーを組んでくれる人間がいるとは思えない。


「見苦しいわよ! レグ!! とにかく、あんたの気持ち悪い言動にも! 役立たずの盾役も要らないの!」

「な、なら俺の代わりにタンクを務められる人間がどれくらいいるんだよっ!」

「オークの一撃も受けられないアンタはいらないわよ」

「ち、違うんだって! 聞いてくれ!」


 まずいっ!


 このままだと発動する……っ!


 俺はたちにスキルが発動しないように必死に抑めようと頑張った。


 向こうは俺のことを仲間だなんて、思っていなかったのに。

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