第2話 立ち去る冒険者

「レグ、見苦しい……」


 ぼそり、とガリアが言った。


「このパーティーの創設メンバーだからって我慢してきたけどさ。もう、お前はいらねえよ。足手まといのデブをパーティーに入れておけるほどウチのパーティーは甘ったれてねえんだ」


 さらに追い打ちをかけるようにサムが言う。


「……し、信じてくれ。俺のスキルを……。俺をこのパーティーから追い出したらお前らにも災厄が降りかかるんだ……」


 俺は3人を見る。ヤバい。本当にヤバい。このパーティーを捨てられると明日からの生活がヤバいのだ。この間、新調した盾の借金がまだ残っている。買ったばかりの鎧の借金が残っている。


 それに何よりも、俺の稼ぎを当てにしている孤児院の先生と子供たちが路頭に迷ってしまう! 引けない。絶対に、俺はここで引くわけには……!


 しかも、パーティーを追放されるというのは冒険者としての信頼に関わることだ。信頼を失った冒険者は報酬が高く安全な割の良い仕事にありつけなくなる。割の良い仕事は国や商会が発注するが、それは信頼のおける冒険者でないと任せられないからだ。


 だから、冒険者にとって最も重要なのは信頼における仲間を見つけること。


「はッ。よりにもよって今度は脅迫? いい加減にしてよ。早く私たちの前から消えて」


 それを


 ミディが俺に杖を向ける。


「これは相当、わよ」

「じょ、冗談だろ? なあ、ミディ。俺達、仲間じゃないか」


 俺は震える足で立ち上がるとミディに手を伸ばした。その杖は……きっと、ドッキリを知らせてくれるものだと思ったから。


「『散れ』ッ!」


 だが違った。ミディはに避けられない場所にいた俺に向かって炎魔法を撃ったのだ。


 駄目なのだ。何人であろうと、非を認めていない俺に向かって魔法を撃ってはいけないのだ。


 ミディの炎魔法が俺に迫って――――そして、俺のスキル【因果応報】は発動する。普段は仲間に対して飛び火しないようにとセーブをかけていた力は、酒で緩んだ頭では制御が効かなかった。


 ミディが撃った魔法は俺への。そして敵意を受ければ発動する俺のスキル【因果応報】は、こちらへの攻撃を察知し、それを相手に跳ね返すスキルだ!


 ミディの炎魔法は酒場のテーブルで爆発する。だが、俺は無傷。とっさに防御スキル『魔法防御Ⅲ』を発動したからだ。だが、飛び散った火はミディのお気に入りである大きな帽子に引火した。


「嘘っ!? 私の帽子に!!?」


 あれはミディが首席の卒業生だけに与えられる帽子で、ミディが命の次に大切にしていた帽子だ。それに火がついた。


 ミディは俺を殺す……とまではいかないけれど、瀕死くらいには追い込むつもりの魔法だったんだ。


「……本気、なんだな」

「そうよっ!」


 俺に魔法を防がれるなんて思っても居なかったんだろう。帽子についた火を消して、修復魔法をかけているミディは半泣きの顔でそう言った。


 ……それは、到底仲間に向けて撃つような魔法じゃない。


「……分かった」


 だから、俺は全てを悟ってこのパーティーから引くことにした。


 ……これは、困ったことになった。

 本当に、困ったことになった。


 酒場を後にしながらそんなことを思った。




 スキル【因果応報】は相手からくらった攻撃を無効化して返すだけの、そんなチャチなスキルじゃない。このスキルは俺が恨んだ相手、俺を困らせた相手にも自動オートで勝手に反撃する。反撃の内容はスキルが自動的に決める……というか、俺が決めれるが面倒でオート反撃にしている時はスキルが勝手にを判断してくれるのだ。


 だから、今回はミディの帽子に引火した。レイズ魔法女学院のミディすら及ばない天才教員たちがたった1人の卒業生のためだけにこしらえた魔道具である、帽子に。


 だが、さっきのはあくまでもミディが俺に向かって撃った魔法への【因果応報】だ。


 つまり、俺を首にした報いは別で俺の元パーティーメンバーである『ヴィクトル』にもいずれ訪れる。


 俺はその反撃機能をオフにするかどうかを星空の中、一人歩きながら考えた。


 考えて、考えて、考えて。


「…………しーらね」


 彼らがどうなろうと、とにかく俺にはもう関係ないことだ。


「どうにでもなーれっ!」


 とにかく、明日からはソロ用の依頼でも暮らしていける安い宿暮らしだ。追放されたパーティーのメンツのことを考えるよりも、今は自分の生活のことを考える方が大事である。


 パーティーを追放されたいま、とにかく俺が出来ることを色々考えてそして俺は結論を出した。


「……ダイエットだな」


 盾役タンクはデカければデカいほど良いと好きなように食っていると、気が付けばあり得ないほど太っていた。明日からあのパーティーを抜けるなら、痩せないと話にならない。


「頑張ろう」


 俺は一人、自分を鼓舞するために空へと拳を掲げた。


「頑張るぞ!」


 だから、その姿をじぃっと後ろから見ている少女の存在には、ついぞ気が付かなかった。

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